名前のない怪物 ④
『リリス…』
『どうしたの?』
『翼、汚れたの…?』
色は一緒だと思っていたものの、根本の部分から徐々に黒に変化していた。
でも、嫌いになれないんだ。恋しいから、愛しいから。
彼女はポロッと涙を流していた。
『ハニエル、私を殺して…』
『え…』
その言葉は「私は悪魔だ」と認めているようだった。
手元に弓矢などはある。でも、殺せない。
自分の中でずっと葛藤している。焦りすぎて、冷や汗をかいていて。どうすればいいのか、もう分からない。
その時
『いたぞ!』
後ろから聞き馴染みのある声が聞こえた。
あ、見つかったんだ。一瞬でそう感じ取った。
それからというもの、時間はあっという間で。処刑の時間。
見たくもないこの地獄を、何で天使がやっているのか。謎でしかなかった。こんなものは平和じゃない。
愛ではなく、涙が溢れていく。それを笑って、終わらせるんだ。
もうそろそろでリリスがやってくる。手を縛られ、何も思わない無の表情で。
そう思うと、出会った時の記憶が浮かんでくる。
“あなた、はちみつの香りがする”
“あなたには私の愛をあげるわ”
“元気にしてた?ハニエル”
その言葉一つ一つが、涙として流れていった。
これが最後だなんて、思いたくない。まだ、一緒に。そんな気持ちは全て失われそうで。
消えたら、忘れてしまうのか、なんて思って。
『ハニエル』
その声の主は「抹殺」というワードを出した張本人。殺せなかった自分も殺されるのだろうか。
そんな不安を胸に、顔をあげる。
『あの子とは、どういう関係だったの』
『…愛しい人でした』
これから殺される、そう思うと涙が止まらない。
『あの子の最後を、目の前でご覧なさい』
心臓が止まったかと思った。