愛してるの意味 ⑤
室内でラテを飲んでる華の元に、後ろから影が近づく。よく見れば、楓ではないか。
桜との話が終わったのか。いや、終わったから来たのか。
「楓ちゃん。桜ちゃんとは話せた?」
「はい。ありがとうございました。」
深々とお辞儀をして、そう言う。しばらくして顔を上げて、華の目を凛々しく見つめる。
さらさらとした長い髪が、楓の耳にかかる。その瞬間、柚子の香りが広がって。
私の鼻をくすぐる。
「ひなた?」
「黒木さん、さっきはすいませんでした。」
楓が私の目を見て話している。
見えるのか? 私の姿が。
私は目を見開いて、楓の姿を見つめていた。
『お前、私の姿が見えるのか?』
「はい。声もしっかり聞こえています。」
柚子の香り。正直言って、私の嫌いな香りだ。
“ あの時 ” と同じだから。
その場には冷たい空気が流れている。誰も言葉を発しない、発しづらいその空気。嫌な予感がする。
「楓ちゃん、一つ聞いていいかな。」
「はい。」
「桜ちゃんが殺害された時の犯人って、もう捕まったのかな?」
「……まだです。」
四年経った今でも、捕まっていない。逃走し続ける、殺害した犯人。
『お前、何する気だ。』
「捕まえる、犯人を。」
「え、華さん本気ですか?」
「嘘なんて言わない。」
バカだ。そんな簡単じゃないのに。人の人生がかかってるんだ。それを、子供の勝手な行動で動かしていいものじゃない。
昔の私だな、華は。何を言ってるのか、私にはわかる。でも、決まりは決まりなんだ。勝手にするな、動くな。
そう言えたら、どんなに楽だろう。楽なんだろうか。
「私にも、その仕事手伝えますか?」
「え、」
『お前、何言ってるんだ?』
バカなことを言いだすものだ。それが普通の人間がすると、どれだけ体力を、生きるための力を使うのか知ってるのか。もしかしたら、死んでしまう可能性もあるんだぞ。
楓を危険にさらすことなんてできっこない。妹の分まで生きてほしいから。
「私は、華さんと黒木さんの役に立ちたい。」
『ダメだ。楓は生身の人間だ。死んでしまってもいいのか?』
黙り込んだ。
やっぱりそこはまだ怖いんだ。まだ、生きてたいんだ。
それならばそっちを優先すべきなのに。