名前のない怪物 ③
『あなたには私の愛をあげるわ』
そう言って抱きしめてくれるリリスに、自分はいつの間にか恋に落ちていた。
甘く優しく、心に染み込む温もりと香り。ここまで落ち着くものはなかった。
『ハニエル、仕事です』
『え?』
“私たちの世界に悪魔が隠れているわ”
抹殺しなさい。その言葉が衝撃的だった。
平和を、愛を好む天使が何で抹殺なんて。
自分には出来そうにない、そう思ってしまった。
『ミカエル様、私たちは天使です』
『世界を守るためなら』
何も感じない、何も思わない。世界を守るためなら仲間も消滅させて、平和な世界を作り上げる。
この時から、自分の中で何かが芽生えてしまった。
疑問が重なり、嘘と理想が混ざり合って、段々気分を悪くする。
こんなの、平和も愛もない。ただの汚い場所。
悪魔とは言え、下手したらどこかで関わっているかもしれない。そう思うと、動くしかなかった。
『ハニエル。お前、知っているのでは?』
『ラファエル様、私は殺したくなどありません』
今まで反抗などしたことなかった。自分の意見も言ったことはなくて。
そんな中で言葉を発したこの状況で、ラファエル様は目を見開いていた。
『…確かに、今回の件は珍しい。でも…』
“やらなきゃいけないものは、やらないと”
居場所なんて知らない。知ってたらとっくのとっくに、逃している。
全ての整理をするために、またあの広場に足が進んでいく。
『久しぶりだね、ハニエル』
『リリス…』
久しぶりに見たリリスの顔は、全く変わっていなかった。表情もあの時のまま。
そんな中で思い浮かぶ一つの疑問。
もしもリリスがその“悪魔“だったら。
羽の色も一緒、輪の色も一緒、肌の色だって。ありえない話だった。
でも…