名前のない怪物 ①
蝋燭が消えていく。長いものから短いものまで、様々なものがある中で、俺の蝋燭もそろそろ終わりを告げる。あぁ、そろそろだ、なんて感じる。
長い廊下を抜けて、外に出た。
「あら、からす外に行くの?」
『ああ。少しだけね』
仲間が消えていく恐怖は俺が一番分かっている。今までだって、きっとこれからも、消え続ける。
そんな気持ちを抱えながら、生者の世界へと足を踏み入れる。
この世界は不思議だ。何もかもが恐怖と不安に襲われ、安心というものは保証されていない。
人が交わっていく交差点の真ん中で、何を思うのだろう。
「何してんの、こんなところで」
『人間観察、というものだ』
高いビルの屋上で、たくさんの人々を見つめて、自分は何しているんだろう。
こんなことをするために、来たわけではないのに。
「そんなことして、楽しいの?」
『灯には分からないだろう』
人間のくせに。生きているくせに。
それぞれの力を見極めるには、なかなか難しいもの。面白いかどうかなんて、俺が決めればいい。
一人でそんなことを考えながら、屋上の端で座る。
「落ちるよ?そんなところに座って」
『大丈夫だ、飛ぶから』
生まれた時から羽がついていた俺は、怪物だった。
もともとこの生者の世界に生まれたわけではなく、ずっと邪悪な世界で生きてきた。
最初は白かった羽も、どんどん黒くなっていった。
「からすも大変だね」
『灯、お前も仲間は大切にしろよ』
ふと出てきた言葉がそれだった。大切に生きていけば、壊れることも、何もないのに。
何でだろう、胸が痛い。また、失うとは思わなかったからかな。
「からす?」
そんな声も聞かないまま、俺は空を飛んだ。