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Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 5
146/180

冷たい雨 ⑥



「ちゃんと、普通に現れたらどうだ。冷炭」


『あっちゃー、バレた?』



自分でも感じるほど、いつもより強いラベンダーの香り。正直きついと思うほど。



「何しにここへ?」


『なんで、1人になろうとしてるんだ』



そう言うと、あいつは目を見開いて自分をソファーに座るように指示する。

何を隠しているのかも全く分からないけど、やるべきことは。



『なんで、真紅まで…』


「あいつは人間に情が移りすぎたんだ」


『じゃあ、雪は…」


「あいつは論外だ」



話にならない。確かにそう言った。

何が狙いなんだ、そう聞こうと思ったが聞かなかった。言葉が出なかったのだ。正確には、出させてもらえなかった、だろう。

こいつには何を言おうとしているのか分かっている。全身に鳥肌が立った瞬間だった。



「結局は、何を言いに来た?」


『え…?』



何を言いに来たのだろう。自分はこいつに何を伝えたかったのだろう。

ここに来て、全てが真っ白になった。考えていたことも、言おうとしてたことも、やろうとしてたことも、全て。

ああ、やられた。一言でそう思った。



「何もないなら…」


『待て、こかげ』


「その名で僕を呼ぶな!!」



こいつの罵声で窓ガラスにピキピキとヒビが入る。上のシャンデリアも揺れ始め、覚悟をした。

ああ、やばい。みんなこんな気分だったのか。

冷静に見ている自分がいて。

こんな危険な状態になっているのに、どうしてこんなに呑気に客観視できるのだろう。



『逃げようとするな、こかげ』



自分の過去から、名誉から、全てから。

逃げられないんだ、もう、何もかも。



「その名で…」



次の瞬間、ガラスもグラスも、ガラス製品は全て割れ始めた。とうとうこいつの怒りが限界を越えたのだ。

もうやばいと思ったのが遅かった。こいつは、自分に手を向けていた。



「消えろ」



全て、終わりにしよう。こかげ。



*



廊下に出て、芯が短く、炎がついている蝋燭を発見した。もう消えてもいいはずなのに、まだ炎はちらちらついている。



「とっとと消えてしまえばいいものを」



そうぼそっと呟いた声は誰にも届かず消えた。

僕はその蝋燭を吹き消して、また歩き出す。


その蝋燭には「冷炭」という名前が刻まれていた。

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