冷たい雨 ④
「今日、楓ちゃんは何してたの?」
「えーっと…、勉強してました。華さんは?」
「私はね…」
なんて端でやっている。まるで姉妹のようだ。
全く赤の他人だったのに。
こう言うところを見ると、人間の友情はとても単純だ、なんて思ってしまう。
「ひーなーたー?」
私が話を聞いていないとでも思ったのか、ずっと私の名を呼び続ける。
『あーもう!なんだよ!』
「そろそろおかわり?」
ニヤニヤしながら私のカップを覗いて来るから、黙ってそのカップを渡すしかない。
「おかわりって渡してくれればいいのに」
『私には私のタイミングってものがあるんだ』
そんなものはただの言い訳に過ぎないこと、華には見透かされているのだろう。
でも今はそんなもの、関係ないんだ。
華は笑いながら立ち上がって、部屋を出て行った。
「素直に言えばいいのに」
『素直に言えなくて悪かったな』
微笑む楓の表情は、どことなく誰かに似ていて。
また眠っている記憶を呼び覚ます。
“ひなた。起きなさい。時間よ”
“ひなた”
決して好きではない名前を連呼されるこの気分。
いまいち誰が呼んでいるかなんてわからない。
でとらどこか気持ちのいい声。心が安らかになっていく。
「お待たせ、ひなた」
氷のカランカランという音が響く。きっと冷たいレモネードを入れてきてくれたんだろう。
声の主なんて全くわからないまま、私は雨が降っているこの外を見つめた。