表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 4
139/180

雪の華 ③


私が次に目を覚ますと、少女が布団に横たわって、目を瞑っていた。

辺りは明るく、朝になったんだということを実感する。私と同じように、少女の枕元に座っていたのは、少女の母親だった。



「ごめんね、律」



どこか悲しげな表情でそう言うの。

なんで、どうして。

私の中で微かな疑問が積み重なっていく。



「雅。お客さんがきたよ」


「あ…、今行くわね」



そう言って、少女の母親は少女の頭を撫でて、その場を離れる。

まだそばにいてあげたい、そう思っているようで。

私がじっと少女の姿を見つめた。ずっと見ていると、少女は瞳をゆっくり開いた。



『…っ、起きていたのか…』



少女の瞳はどこか切なく、悲しげな瞳だった。今すぐにでも泣き出しそうな、そんな瞳。

決して何があった、とかじゃない。ただ、疲れた。それだけのこと。

身体を起こして、庭の方をふと見つめた少女。そこには、妹の華が楽しそうに遊んでいる姿があった。

それでまた、少女は思い出す。嫉妬に満ちたあの思いを。すると、空気を読んだかのように、襖が開く。



「何」


「律も遊ぼうよ」


「嫌」



素直じゃないから。全て一言で会話を終わらせてしまう。自分でもダメだ、と言うことくらい分かっているのに。



「まだ、体調は万全じゃない?」



セーラー服を着たもう1人の少女が言うんだ。どこか安心させるように、断る一つの案を提案するみたいに。



「別に」


「今日はやめとく?」



華に付き合うのも疲れたでしょ。

そう言って、控えめに笑うんだ。疲れた、とかそう言うのって、決めつけて良いものじゃないと思うんだけど。そう思っているのも、私だけなのかな。

私だからって言うのも嫌だけど。



「お母さん…」


「また仕事」



仕事が忙しいのは分かっている。だって、「ゴーストアビリティー」なんだから。

会えるものなら会いたい、そう思うのは当たり前だと思う。

少女は絶対に責めないように、自分に蓋をして生きている。

きっと少女は思っているだろう。「生きているだけで、褒められたい」と。自分で命を絶たなかっただけ、良かったと思って欲しい。



「律。絶対律はゴーストアビリティーにはならない。大丈夫だから」


「どうして」


「お母さんが辞める、ってなった時、きっと次は私でしょう?」



少女の不安な部分を突き止めて、その芽を摘む。この少女は、きっと姉なのだ。長女なのだ。

姉だから、と言う使命をずっと胸に、妹2人の世話を受け持ち、全て自分が、とでも考えているんだろう。

私にしたら、それがウザく感じる。



「だから、それに関しては気にしないでいい」


「でも…」


「まあ、今はまだなりたくないけどね」



笑って、そう誤魔化すの。自分の気持ちを隠してまで、実の家族に嘘をついてまで、言うことだったのだろうか。少女を安心させるためなら、なんでもする。

その決意が見えた瞬間だった。その時は、私が見ていた場面はモノクロだったのに、急に色がついた。



『鮮やか…』



どれだけ、私が呟いても聞こえはしないのに。



「玲は、黒沢家から出たくないの?」


「私は出るわ。高校卒業したら」



今の少女の姉は、16歳ほど。それぐらいの年頃だろう。卒業までは、約2年。

その中でこの少女たちは一体何ができるのだろうか?



「出ちゃうの?」


「律も、その時には出よう」


「華は…?」



置いていく。

その言葉が私には強調して聞こえた。普通の声で、普通の声量で言っているはずなのに。

私は思わず呆れた。それと同時にため息も出てしまう。結局は、2人して妹に嫉妬していた、ということか。



「2人で、逃げようよ」



姉の提案に目を見開いて見つめる少女。悪魔の囁きと言ってもいいだろう。

もし、この提案を飲んでしまったら。

その迷いがこの少女には見えた。過去の私みたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ