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Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 4
138/180

雪の華 ②



「おかえり」


「ただいま、お父さん」



お父さんと呼ばれる彼は、リビングでお茶を飲んでいた。特に何をしてるとも言えず、ただコップの中のお茶を口に含んでいた。



「お父さん!お母さんは?」


「今日も仕事だよ」



その前に、みんな手足洗っておいで。

そう優しく言った。ただその瞳は、どこか切なそうで。

何かあったのだろうか、なんて思ってしまう。

人の情は移ってはいけない、この世界に入るときに散々言われたことなのに。

今になって移り始めているのだろうか。



「お父さん、洗い終わったー!」


「そうか、じゃあ玲たちとお風呂に入っておいで」


「うん!」


「私、お風呂は後で入る」



そう言って1人離脱した少女は、確か律、だった気がする。

私はその少女が気になってしょうがなかった。そう思うと、また後ろをついて行っているのだ。

少女は自分の部屋らしき和室に入ると、座布団に座り、読みかけの本を開く。

そこから、どれくらいの時間が経っただろう。また1人の少女が部屋に入ってくる。



「何」


「律、お風呂上がったから」


「わかった」



どこか冷たいんだけど、温かさもあるのよ、やっぱり。この子はどこか不思議。どこか、面白い。

本当、人間っていうのは馬鹿なものだ。

だからこそ、面白いって言うのもあるかもしれないけど。



「律は、華のこと嫌い?」


「何で」


「気になったから」



まるで、母親のような目。なぜだろう、見たことある景色で、私もどこかで言われたことある気がする。心配して、と思うけど私にしたらうざったるい。



「別に、普通」



きっと次に発せられる言葉は「別に嫌いってわけじゃないし、好きでもない」だと思う。



「別に嫌いってわけじゃないし、好きでもない」


「そっか」



当たった。やっぱりそう言うと思ったんだ。どこか、私と似てるから。この子は。

そう思っていると、読んでいた本を閉じて、そこからまた動き出す。

普通の人からしたら、つまらない光景だとは思うけど、私からしたら、こんなにも楽しいものはない。

少女はお風呂から上がると、そのまま一番奥の部屋に手を差し伸べようとしていた。



「何してるの、律ちゃん」



びくっとしながら振り向いた先にいたのは、年配の人。少女は顔を見るなり、顔が青ざめていく。

この人は誰なんだろう、なんていう私の疑問は打ちひしがれる。



「…ごめんなさい」


「私は謝罪を聞きたいんじゃないの。何をしていたか、が聞きたい」



子供相手にそこまで追い詰めるんだ。

すぐに思ったところは、そこだった。この少女は何をしてた、とかないのに。

そう庇ってしまう私は、まだ甘いのだろうか。



「黙っていないで、答えなさい」



冷たい視線で、子供の胸に傷を作る。精神的苦痛を味わってきたこの子は、今までずっと我慢してきたのかな、なんて思いながら。



「お母さん?」


「…雅」


「あら、律。どうしたの?」



また新しい登場人物。この人が、3人の少女の母親。

ということは、そんな人が「お母さん」と呼んだこの年配の人は、少女たちの祖母にあたる。

そんなことを考えていると、少女は走ってその場から逃げ出した。私の横を通り過ぎる時には、涙がこぼれ落ちていた。



「お母さん、律に何したの」


「律ちゃんがこの部屋に入ろうとしてて…」


「あの子が?」



入ろうとするはずがない。

それが偏見というものではないだろうか。そんなもので縛り付けられるこっちの身にもなってほしい。

私はその2人を睨みつけて、少女がいるであろう場所に足を運んだ。

縁側の池の近く。なぜかそこが一番に思い当たる場所だった。何の確証もないけど。



「なんで…、華ばっかり…」



当たり。膝を抱えて泣いている少女を見つけた。

ずっと妹に嫉妬してきて、これが最後のトドメ、だったのか。

絶対に悪いことはしない。いい子だっていうレッテルを貼られて、自分が思うように動けない生活。

唯一自由に生きているのは、妹の華だけ。それを端からじっと見ていたから、なおさらうざい。その一言で。



「もう、嫌…」



その一言を誰かが拾ってくれるわけでもなくて。少女のその一言は、そのまま宙に消えて行った。



『そうやって、本人たちに言えばいいのに』



少女の後ろ姿にボソッと呟いた。

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