雪の華 ①
私は目を覚ました。どこかで見たことのある景色が目の前で広がる。
そこに現れるのは、3人の少女。
「華、何して遊ぶ?」
「玲と律は?」
「私はー…」
広いお屋敷で縁側の方に出て、姉妹と思われるこの3人は、子どもらしいことをしている。
どこか懐かしい部分もありながら、ほとんどは知らない。
…いや、きっと忘れたんだ。
「ねえ、かくれんぼしない?」
「いいね、それにしようか」
「鬼は律ね!」
そう言って逃げ始める二人の少女。ここに残ったこの子が、律、という名なんだろう。
黒髪を靡かせて、静かに本を閉じて立ち上がる。
「少しは私の意見も聞きなさいよ、華…」
そう言って、私のいる樹木の方へ近づいてくる。どこか嫌そうに数字を数え始める。
辺りは明るく快晴。その中で元気に遊ぶこの子達が、どこか眩しく見えて。目を逸らしたくなる。
数字を数え終えて、目を開いたこの子は辺りを見渡す。きっと、近くにいる、とでも思っているんだろう。
「玲ー、華ー」
必死に声を出して、見つけようとしているのかしら。見つかるはずなんて、ないのに。
そんなことを思ってしまう私は、もう染まってしまっているのだろうか。…そんなことはないはずなんだけど。
この景色は、まだ染まっていない、美しい白紙。
2人の少女を探すこの子は、近くの川まで走る。
「あ、玲見っけ」
「あ、見つかった」
川の畑のところに隠れていた1人の少女は見つかり、そこから出てくる。泥だらけになった足元をじっと見つめながらも、絶対に指図せずに歩く。ただ見つめるだけなの。
何も言わない。でも、気になるってことは潔癖症なのかもしれないわね。
そんな呑気なことを考えながら、私はその2人の後をついていく。小さな子供の後ろを。
「華は?」
「どこに隠れたんだろうね」
なんて、歩きながら華と呼ばれる女の子を探していて。きっとすぐに見つかるだろう、なんて思いながら後ろを歩いていた私は、そろそろ暗くなっているのに気がついた。
まだ明るかったのに、ここまで暗くなるのが早いなんて。私でもびっくりした。
「華ー!」
そろそろやばい、とでも思ったのか、前を歩いていた2人の少女は、声を大きくして華の名を呼ぶ。
これで見つからなかったら。
1人の少女がボソッと言った。その表情は血を失った、青ざめた死に際の人みたいで。
「華!かくれんぼは終わりだよ!」
そんな声、どこから出しているのかと思うほど、大きな声。もはや叫び声ではないか、と思ってしまう。
走って、走って、華の姿を探し求める。どこにいるか分からない近い子の姿を。
そんなとき、後ろから幼い声が聞こえた。
「もう、終わりなの?」
「華!」
この子が華か。妙に納得してしまう。どこか幼く、私にはない何かが、この子は持っている。
そう思うと、どこかムカムカしてきて。
「もう帰ろう」
「えー、もうちょっとやりたいよー…」
「明日にしよう、華」
静かに手を差し出して、手を繋ぐ。
真っ黒な背景に映る、3人の少女のシルエットはどこか神秘的で。
私は一歩引いて、その風景を見ていた。その中でやっぱり私はこの3人について行くことしか出来なくて。
ある門を目にして、1人がこう言うんだ。
「私たちもいつかはお母さんみたいになるのかな」
「きっとね」
「何がー?」
「…まだ華は知らなくていいんだよ」
優しい目をした少女がそう言う。
ゆっくりとその門を開き、中に入っていった。その門の近くにあった、表札に書かれていた名字は「黒沢」だった。
私はビクッとしながらも、その門をくぐった。