英国の訪問者 ③
「お客さんです」
今日も導いてくる何かの縁は、切れていない。
ただ、今回の人はこれからも続くかもしれない、そんなことを直感で思った。
『華、お客だ』
「はい!今行きます!」
急にバタバタし出す華に、どこか冷ややかな目を向ける。手帳やら、筆箱やら、ガシャンガシャンと落としていく。挙げ句の果てには、自分も階段から落ちていく。
「大丈夫ですか…?」
「あ…、ありがとうございます…」
少し呆れた目で見る私と楓を横目に、見知らぬ男の人が手を差し出す。
華は少し照れたようにその手を受け取り、いつもより紅い顔に、熱を感じていた。
『あれは華、照れているな」
「ですね」
なんて話をしつつ、やっとリビングで二人とも落ち着く。楓がコト、とティーカップを置いて、後ろへ下がる。しばらく続いているこの沈黙を先に破ったのは華の方だった。
「今日は、どのようなご用件で?」
「あの…、これを見て…」
所々途切れつつ、用件を必死に伝えようとしている。でも、正直何を言っているのか聞き取りづらい。そう思っているのは少なくとも私だけではないはず。
「これ…、見たんです!」
「わざわざ、サイトから来てくれたんですか?」
「…はい!」
まるで犬。私はそう感じた。
一つ一つの言動が犬そっくり。私にだけなのだろうか、後ろに尻尾が見える。
ただ、どうしてわざわざ日本に来てまで…?
「会いたい人がいて…、イギリスから来ました」
さっきのやつで理解してもらえたことで、緊張がほぐれたのだろうか。最初の時とは全く違う。
表情も、口調も、別人みたいに。
「どなたに…?」
「僕の、母と父に」
その瞳の奥に感じた壮大な過去。まるで、楓が初めてここに来た時の瞳。
こいつも、とんでもない過去を持っているんだな、なんて一人冷や汗をかいた。
きっと、これは華も思ったことだろう。だからか、ただただ彼の言葉に耳を傾け、必死にメモを取る。
「ご両親、ですか?」
「はい。無理、でしょうか?」
「いえ、大丈夫です」
ここは、私の腕の見せ所。
願いを叶えるためなら、私は動こう。
『楓、私は先に動く。あとは任せた』
「…はい、いってらっしゃい」
私は楓に全てを任せて、その場を離れた。