英国の訪問者 ②
「理人?」
ねえ、聞いてた?
そう言って僕を現実に連れ戻す。当時9歳の記憶はまだ残っていて、今も急に思い出す、あの景色。
綺麗に、鮮明に、見たままの景色が残っている。
「ごめん、もう一回説明してもらっていいかな」
仕事もままならない。
自分は、ここで何をしているんだろう。どうして、生きているんだろう。
一人、両親のことを思って、心を痛めた。
そんなある日。
「理人」
「どうした、エマ?」
「これ、見つけたの」
そう言って渡された、一つのサイトのコピー。
まるで夢のような話だった。
「これは?」
「理人がお母さんたちと話せるかも、って」
彼女なりの僕への配慮だと思う。
控えめに笑う彼女が、どこかあの時の母とリンクして。その紙を僕はじっと見つめた。
「理人、しっかりと話してきて。私はここで待ってるわ」
僕は、その言葉で何かが外れた。つなぎ止められていた何かがプツンと切れて、感情のままに、僕は動いていた。
どこか不思議な香り。私が嗅いだことのない、爽やかな。華さんとも、ひなたさんとも全然違う。
この香りが何に繋がるのか、私はそんなことを考えながらいつもの道を歩く。
「あの!」
「え、はい…」
見知らぬ人がトランクケース片手に私を引き止める。そこから微かに香る、あの匂い。
不思議な香りの正体はこれなんだな、と感じる。
「これって、どこ、ですか?」
渡された紙は、華さんたちのサイトのコピーだった。
きっとこの人は、誰かに会いたくて、わざわざコピーまでして、ここに来たんだ。
そう思うと、なんとも言えない気分になった。
「私、今からそこに行こうと思ってたんです」
「あなたも、依頼に…?」
「いえ、私の知り合いがやってて。よかったら一緒にどうですか?」
この人はいい人。直感でそう思った。
いつもより鼻が利いているらしい今日は、いろんな香りをたくさん吸収する。そのため、麻痺する鼻。そろそろ落ち着かせたいと感じる頃だった。
「華さん!」
『今日も来たのか』
「お客さんです」
私はそう言って、あの扉を開いた。