紅の真実 ⑥
私の心も姿もボロボロになっていく。
一人ため息をつきながらも、使い物にならない頭を必死で回転させる。
『真紅、倒れそうだよ。』
『倒れたら、元も子もないでしょ?』
全てが水の泡にされるのは、私が持たない。邪魔をされるほど厄介なものはない。
少し香るはちみつの香りに
甘ったるいフローラルが混ざって、気分を悪くする。
『もう少し、休んだら?』
『…大丈夫よ。』
作戦を頭に浮かべ、静かに自分の姿を消す。
今の生者の世界は、いつもより暗く、数々の星が輝いている。
いつもみたいにずっと見てるの。どこのタイミングで現れて、どういう時に消すのか。
なにも考えられてないけど、これが全部を背負っている。そんな時、聞こえてくるあの会話。
「ねえ、さくらちゃん。」
『なに。』
「華も、結構大きくなったね。」
母親の目でそう言うの。愛しい娘を見ているような目で。何もかもが温かく、優しく私の心に入ってくる。
「そろそろ、なのかしら。」
『まだ、早いと思うけど。』
「もう玲が16なのよ。」
そろそろ交代の時期。
はっきりそう聞こえた。そんなに早く、母親を消していいのか、私は戸惑いを隠せない。
その迷いをそのままにして、あっという間に朝になっていた。
朝の光が見えないであろう、私の身体を照らす。
戸惑いを隠しきれずに、私は彼女らの仕事場に足を進める。
家の前まで来て、私はまた足を止めてしまう。最後の最後まで悩みに悩んでチャイムを鳴らす。
「はーい!」
罪悪感に溢れて溢れて、私の心は締め付けられる。
こんなに透き通った綺麗な色を、これから壊すなんて。私はその現実から目を逸らした。
『雅、こいつは…っ、』
「ええ、わかってるわ。でも話ぐらい聞いてあげましょうよ。」
優しすぎた。私の心はずっと揺らいでいて。ずっと、ずっと。
またそれに、甘えて願ってしまうんだ。
「ええ、いいですよ。」
『そんなことしたら…っ!』
「知ってるわ。命を全てこの方に捧げましょう。」
その言葉に、私はまた胸を痛めた。
こんなにも優しいのに。なんてことを私はしてるんだろう。
契約を結ぶ名前のサインを書いた瞬間、彼女たちはにこっと笑って煙のように姿を消した。
私は一人、涙を流していると、彼女らの代わりに出てきた人に、また涙が流れた。