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碧い風 ⑤
ふと頭によぎる、一つの風景。森のようなところを抜けた先の一本の樹木に登る、私と男の子。
彼は、私をこう呼ぶんだ。“ ひーちゃん " と。
顔が見えない、匂いもわからない。
ただ、この景色はものすごく懐かしいんだ。私は、この景色を、この場所を知っている。
『こかげ…?』
私の口から見知らぬ名前が飛び出した。
その名前が、これから問題を起こすとも知らずに______。
それから数日。もう既に月影はるひにも成田俊介にも連絡は入っている。今日が、二人の再会する日。
誰よりもこの私がドキドキしている。
なにも起きませんように、そんな願いを込めて。
「お待たせしました。」
「いえ、大丈夫です。それでは、」
" 覚悟はよろしいですか。 "
華のその言葉を合図に私は、その現場というものを作り上げる。
いつもみたいに透明なドームを出現させ、まわりにはなにも見えないように魔法を。
「それでは楽しいひと時を。」
本当に楽しいひと時になることを、ただただ願う。
何も起きない、笑顔でお互い帰れるように。