碧い風 ③
「お名前、お聞きしてもよろしいですか?」
「成田、俊介です。」
成田俊介、どこにも名前は書かれていない。初めての客だ。
こいつが、どこで華に接触したのだろうか。
華は静かにメモを取って、話を聞いていた。
その時の私が見えている世界は全て濁って見えて、全てがスローモーションの様に動きを止めた。
気づいたら、もう華と楓の二人しか、目の前にはいなかった。
『あれ…?』
「もうお帰りになったわ。ひなた、仕事。」
書かれていたのは、 “ 月影はるひ ” という名前。
二人の関係性としては、いじめっ子といじめられっ子。ただ、いじめていた成田俊介が、いじめられていた月影はるひに会ってどうする。今さら会ったところで、何も得られないだろう。
それも、月影はるひが亡くなったのはおよそ8年前。当時17歳の時だ。
こんなに月日が経ってるのに、なぜ…。
行くだけ行こう。これは仕事だ。
会ってびっくりした。夢の中の人と同一人物。
手のひらの大きさも、全てが一致する。
彼から漂ってくるチョコレートの香りが、少しだけ酔いそうになった。
その香りは、彼がいなくなった今もこの部屋に残る。
少し甘ったるいその香りを、私は無心で消し去った。
「華さん?」
「甘いね、この香り。」
しっかり仕事をして、しっかりコミュニケーションをとって、ある程度の休息をとって。
それなのに、なんで私は疲れているのだろうか。不思議。
いつも通り、天界への道を辿った。たくさんの光に覆われ、私は向こうへと急ぐ。
華は平気なのか、私の中での不安は消えない。でも、楓がいる。だから平気。
なんて、思ってちゃダメなのかな。