奪還 ⑦
『夜月、おかしい。』
『分かってる。わざわざ招待してくれてるんだろう。』
私たちはそっちの方向へ向かった。
扉に手をかければ、開かない扉。これは自分たちで開けろ、ということなのだろうか。
『私に任せて。』
おばあちゃんが、針金で鍵を開ける。あまりにも複雑なのか、すんなりとは行かない。
そんなとき。
『開いた…。』
おばあちゃんがボソッとつぶやいた。
開いたことを確認するためにも、扉を開いた。
『華!』
『華ちゃん!』
扉を開けた先にいたのは、紛れもなく華だった。
お姫様のように、プリンセスベッドに寝かされている。招待されているはずなのに、こんな華1人無防備に寝かせておくはずがない。
私は周りを見渡す。
『ひーちゃん、今のうちに。』
『そうね。』
名前が戻っていることにはあえて触れずに、華が寝ていた状態のまま持ち上げた。
そのとき、
「何してるの。」
『お前…っ、』
扉にもたれかかって、そう言葉を発したのは紛れもなく、翡翠だった。
瞳の色は殺意に溢れている赤。私たちは思わず後ろに下がってしまった。
「僕のお姫様をどうする気?」
『ひーちゃん!』
おばあちゃんの手に触れ、その場を一目散で逃れた。その時に見た華の顔は冷たく、いつもの華じゃなかった。そして、目も覚まさなかった。
『翡翠様、あれでよかったのですか。』
「ああ。これから、でしょう?」
そんな会話がされていたことも知らずに。
華の見ている世界と、私が見ている世界は違うのか。
今さっき、お前がいた世界は、お前の住んでいい世界じゃないんだ。
ちゃんと戻って来たから。お前が生きている世界に。
だから早く。お願いだから、華。
目を覚ましてくれないか。