奪還 ⑥
作戦実行時刻、人間界で言う、午前5時。あまりにも早すぎる。あたりは徐々に明るくなって、外には人も段々と出てきている。
『行きましょうか、ひーちゃん。』
『そうね。』
「気をつけて、行ってらっしゃい。」
あの男の謎は解けないまま、私たちは黒沢家の門を出た。
気がつくと霧が少し浮かびつつも、不気味な場所にたどり着く。道端に立てられているろうそくに、薄暗いこの廊下。一気に揺れる炎に、びくっとなった。
今から私たちはこっち側の人間の、「白夜と夜月」。
『どこにいるのか分かってるの?ひーちゃん。』
『夜月。って言わないと、怪しまれるわ、白夜。』
まだどこか慣れないのか、“ ひーちゃん ” と言おうとするおばあちゃん。ただ、それはここに住む人たちからしたら、怪しまれる対象。
『きっと奥の隠し部屋にいるわ。』
『さすがね!ひ…、夜月…。』
また言おうとする。やっぱり慣れてる方でしか、呼ばないのだろうか。
この長い廊下をこつこつと歩いていく。下には深緑の長い絨毯。ここで転んでしまえば世の終わり。それほど長いのだ。きっと直すのは大変。
そんなことを考えていれば、前から現れる人影。
『お疲れ様です。』
『…お疲れ様です。』
黒のローブを着た人たち。挨拶をされれば、返さないとそれはおかしい。
それに、私たちもフード付きのローブを着てきて正解だった。ずっと最後まで悩んで悩んで着てきたもの。これがなくなると、派手で綺麗なお着物が現れるのと同時に、私の白襟が目立ってしまう。
そう考えると重要なのかもしれない。
『もう少しかしら。』
『もう少し…』
前にあった場所とは少し変わっている。誰かが嗅ぎつけて、わざわざ部屋を変えたのだろうか。でも、そんな面倒くさいこと、誰がやるのだろうか。
私だったら絶対にやらない。
そう思っていると、ガタガタという音が奥から聞こえた。まさか、とは思うが、そっちの方向に目がいった。
やっぱり。
向こうの方で隠し扉が姿を現した。