奪還 ④
「何を考えているんですか?」
『それよりとっとと考えろ。華を救う方法。』
そう言うと、体勢を取り直して、紫さんの方を見る。
少しホッとすると、急にはちみつの香りが鼻をくすぐる。今まで、こんなことなかったのに。
嗅いだことのないこの香りに、戸惑いを覚えた。
『どうしたの?ひーちゃん。』
『はちみつ…。』
はちみつの香りなんてしない、とおばあちゃんは言う。1人にだけ香る匂いなのだとしたら、さらにわからない。
ただ、一つ言えることは、華の香りではない。確実に。冷華として、匂いを変えられていなければ。
「どうかしたの?ひなたちゃん。」
『いえ、何もないです。』
ただ、そう言うしかなかった。誰もこの香りがわからない。そっと、縁側の方を見ると、肩に黒い羽をくっつけた男が立っていた。
『え…、』
動揺しすぎて、声に出てしまっていた。その声を拾うものはいなくて。
そいつは、ニヤッと笑った。私はその瞳に捕らわれ、何も考えられなくなる。
『誰も逃げられなくしよう。』
瞬きをした瞬間に、彼の姿はなくなっていた。その代わり、近くの池を黒い蝶が羽ばたいていた。
「ひなたさん?」
『紫さん、楓もそろそろ時間が。』
「そうね。明日の予定は?」
「明日は、特にないです。」
その言葉を聞くと、ホッとしたように “ また明日 ” って言うんだ。




