洗脳 ⑥
『私に会わせたかったのって、あの子ですか。』
「お前が一番わかっているんだろう、雪。」
雪のように冷たく無愛想だから雪。そんな簡単に名付けた名前だった。
一番あいつのことを知り尽くして、陥れてくれるんだろう。そんな望みをこいつにかけて。
『私はもうあの子に会いたくない。』
「何で。身近すぎたからか。」
『あの子はゴーストアビリティーなはず。どうして…っ!』
「それ以上言ったら…、ね?」
僕が手を首元に当てるだけでひやひやしている。僕の目を見て、顔が青ざめていく雪。まるで本当の雪みたいに冷たくなっていく。
この顔がやっぱり好きなんだ。
「それでは持ち場につけ。」
『は…い…。』
びくびくしながら僕の部屋の扉を開ける。手汗でびっしょりなその手でドアノブに触れるから、閉める時には滑って、バタンと大きな音を立てて。
「あはは。びくびくしちゃって…」
面白い子。あの子には、たくさんの仕事を与えよう。あの子自身が冷華を、黒沢華を完璧なる闇に堕としてくれたら。黒沢華はすぐに堕ちるし、闇へと染まる。
一気に光を失い、何もできなくなるだろう。
それが見たいがために、操り続けるんだ。
そう思いながら僕はソファーの上に腰かける。それと同時に、眠気が誘い込み、眠りについた。
どのくらい寝ていたのか、体感では分からない。でも、1、2時間くらいは寝ていたのだろうか。黒いカーテンとろうそくの炎がゆらっ、と揺れる。
何か起こる。いや、もう既に起きているのかもしれない。
そんなことを思いながら、静かに身体を起こす。
ふわっと香る自分に、どこか嫌になりながら。
「嫌な香りだな、これ。」
なんて、ボソッと呟くんだ。
誰が聞いている、聞いていないなんて、特に関係ない。そんな時に聞こえる、いや脳裏にこびりついてる声。
“ やめてよ、こかげ。私はそんなすごくない。 ”
やめろ、離れろ。とっくのとっくにいなくなった、いや消し去った記憶だ。
その声を消し去るためにも、僕はその部屋から飛び出した。
僕が走っているからなのか、道の端に置いてあるろうそくの炎は揺れている。何本かは消えて、煙を出しているものもある。煙の匂いで充満しているこの道をとっとと抜けて、たどり着いたあの部屋。
そこを開けると、驚きな光景が広がっていた。
「どうして…、いないんだ…。」
私は洗脳されているのでしょうか。私自身、されていないと思うんだけど。
これから何が起こるかは分からない。また強くここにいたいと願うかもしれない。
だから、その前に、逃げよう。