洗脳 ③
何時間、何日、経ったんだろう。殴られて、泣かされて、顔がパンパン。
こんなにも華を守れないことなんてあるんだろうか。こんなに近くにいるのに。もしも、華に危険なことがあったものなら。
私は一生をかけて、悔やんで悔やんで、後悔するだろう。
誰か、私を助けてくれたらいいのに。
『ひーちゃん。』
『え…?』
『しっ。今縄といてあげるから、あいつにバレる前にこっちへ来なさい。』
こんな簡単に人生うまく出来てていいのか。生前にはなかったくらいの温かな温もり。心も体も冷えていたのに、一気に温かくなる。
『とけた。行くよ。』
おばあちゃんの優しさを、身をもって知る。自分が生きていた頃は、もう既にいなくて、あまり関わりを持っていなかったおばあちゃんが、私の手を握る。
母みたいに冷たくなくて、華みたいに心へ染みていく。
『おばあちゃん…』
『顔パンパンにして…。痛かったわね…。』
そう言って、私の頬に温かいその手が触れる。
少し血が出ていたところに、その指がひやっと当たる。ちょっと染みて痛いのに、心が軽くなっていくから、どこか不思議。
それでまた涙が出てくるから、また頬を濡らす。
『もう、泣かないの。』
そう言って、急に現れる空を飛んでいる感覚。
あそこから離れられるんだって。縄で結ばれていた所は、痛痒くて、ぞわぞわする。
『華ちゃんは、絶対に救うから。』
『華…、冷華だって…、』
冷たい華。触ると凍る、美しい花らしい。そんな名前をあいつに、黒沢華に。
これ以上汚れるようなことをしないでほしい。華は純粋だから。まだ幼き心を持っているから。それを壊すようなことを…。