洗脳 ②
『紫さん。』
「ええ。」
恐れていたことが起きてしまった。
華ちゃんを求めてやってくるお客様はたくさんいる。ただ、ゴーストアビリティーは今現在華ちゃんしかいない。
それなのに、そのゴーストアビリティーが消息不明。
どうして。なんで。そんな疑問が浮かぶばかり。
「どこにいるのかしら。」
『きっと、翡翠のところだわ。』
「でも、その証拠がない。」
そこにいる、という確信が得られなかったら、意味がない。
だから早く、“ ここにいる ” という情報が欲しい。
黒に、闇に染まってないといいな。
なんて、希望と願いを込めて、祈る。
『私たちが助けに行かないと、』
「それは分かってる!」
切羽詰まりすぎている。情緒不安定なんだな、って自分でも分かるほど。
だって、実の娘も同然のように育ててきた孫なんだから。
今度こそ邪魔はさせない。
『どうしますか。』
「どこにいるかだけでも、分からないと。」
『じゃあ、まずはそこからですね。』
私たちが助け出す以外に道はない。
それからというもの、必死に探し求めた。華ちゃんの居場所を。どこにいる、何をしていた、なんて情報は一つもなく。
本当に一からの作業。
『紫さん!』
「どうしたの?」
『華ちゃん、ここにいる!』
そう言って、差し出された地図。印がつけられていたのは、とある大聖堂。嫌な予感しかしない。私たちは行ってはいけない場所、そう感じてしまった。
『恐らく、ひーちゃんもいる。』
「ひなたちゃんも?」
ということは、思い当たる節は一つ。あの人達の元。そして、下手したら二人して記憶を…。
まるでマリオネットみたいになっていたら。そう考えると下手に乗り込むことはできない。
『分かったなら早く!』
「待って。下手に動けない。」
もしも、この動きを間違えて、あの二人を消滅に導いてしまったら。それこそ、私は後悔する。
ただでさえ、雅で思い知ったのに…。
『紫さん。』
「…どうしたの。」
『ひーちゃんが、この前私の元に聞きに来たの。』
“ もし、この後何か起こるんだとしたら、何をすればいいの。 ”
この言葉を聞くと、あの子は絶対に後悔してる。自分で自分を責めているはず。責任感が強いあの子が、華ちゃんを救えなかったら、悔やむわ。あの子なら。
『私は…、何も言えなかった…。こうなることが分かっておきながら…!』
ポロっ、と溢れた涙は、美奈子さんの着物の裾に落ちる。じわっとシミになっていくところが、やけにスローモーションに見えた。
彼女が泣いている姿を見るのは、何年ぶりだろうか。最後は、華ちゃんがこの家を出ていくときだろうか。
それを考えると、ここまで自分を責める美奈子さんは初めて見たと言っても過言ではない。
『なんで…、救えないの…、』
「…っ、それは、私も一緒よ…。」
二人して悔やむ。どれだけこんな思いをすればいいのか。
一早く、華ちゃんとひなたちゃんを救いたい。