100/180
美しき蝶 ⑦
「桜雅先輩!」
「あ、昨日ぶりだね、凛ちゃん。」
少し頬を赤らめて、俺を見つめるまっすぐな瞳。その中に映る景色は、俺しか映っていない。
「凛ちゃん。」
「一禾先輩たちも、お疲れ様です!」
いつも強い彼女の目は、ハートで埋め尽くされている。
…恋に落ちた。翼じゃなくて、俺に。
本当に、誰が好きなのかわからないこの娘。
すぐにでも “ あいつ ” の元へ。
黒沢華の父が置いて行ったこの写真。なぜかわからないが、俺のポケットに入っていた。
それも、黒木ひなたの指紋付きで。
恐らく映っているのは、黒沢家と黒木家の全員。見てるだけでヘドが出る。
「桜雅先輩?」
この子は黒沢華の親友。下手したら、黒沢華のことなんて、全て分かっていると言っても過言ではない。
だからこそ、そんな気安く言葉にできない。
「二巳、先行こうか?」
「一禾、二巳。」
「なんだよ。」
「泉。」
今の俺は、この目の前の子で精一杯なんだ。