外への憧れ
試合形式の稽古が終わり、俺は沢山の人から質問攻めにあいつつも(主に《閃光斬》について)それらをどうにか躱して近くの空地に来ていた。
「へえ、…なんていうか秘密基地っぽい所だな」
「だろ?」
「ここは私が見つけたの!」
「おねえちゃんはすごいの!」
ここは街の中心部にありながらも周囲を岩が囲いまるで洞窟のようになっている為、見つけるのはほぼ不可能な空間だ。
まあ、この街自体巨大な洞窟の中にあるんだけどさ。
ここに俺を案内したのはルルとレンとララだ。
さっき知ったばかりの事実だが、この世界では「らりるれろ」、つまりラ行の音を名前につけるのが好まれているようだ。
「ここを俺に教えたかったのか、確かにいい所だな。 落ち着く」
「それもあるけど、本題は違うぜ?」
「本題?」
ルルとララ、それにレンまでもが少し緊張した顔になる。
それにつられて俺も少し緊張気味になるが、即座に《緊張耐性》が発動し和らぐ。
「俺たちは、外に出ようと思っている」
「…外?」
「そうなの。 私達はこの狭い世界…狭い地下から抜け出して、外の世界を見てみたいの!」
「みてみたいの!」
ルルの言葉にララも続く。
「でも外は人が生きられない環境なんだろ?」
これはルルが教えてくれた事だ。
そう言えばアンダーワールドの外の事を話していた時のルルは、目を輝かせていたような…。
「それはね、“まもの”がたくさんいるからなの!」
「魔物?」
「正体不明、発生時期不明、繁殖方法に寿命も不明。 そのほとんどが謎とされる怪物だ」
「残っている外に関する記録は350年前と90年前の人類領土拡大作戦だけなの。 その2回の作戦も『魔物討伐部隊壊滅』という結果。 それ以上昔の記録は無いし、生き残った人も精神がおかしくなってたって…」
魔物こっわ。 え、それで外に行きたいの?
確かにこの国で、閉じられた地下で一生を過ごすのも嫌だけどさ。
「それでも、行きたいんだ。 俺たちは本物の自由を見てみたい。 何にも縛られない、果てしなく広がる世界を」
レンが力強く、希望に満ちた表情でそう言い切る。
本当の自由。
確かに見てみたいかもしれない。
前世では仮初の自由はあれど、本物はなかった。
文明の進化と共に人類は自由を失っていった。 日本なんて特にそうだ。 安心と安全を得る代わりに、真の自由を失い義務を得た。
夜に子供だけで外に行き、夜空を見ることすら禁止される。 警察が来て補導されてしまう。
そんなつまらない世界。
「私達はその為に力をつけてきたの! 並の人が人生で覚える平均的な《剣術》の派生スキルは《三連強斬》まで。 でもレンと私はこの年でそれを習得したんだよ!」
「ララもがんばってるの!」
「俺はクワドラまで使えるぜ。 けど、それでも足りないんだ。 外にでて生きていくにはもっと力がいる」
一般市民が覚えられる最上位剣術スキルは四連強斬。 それでも足りないと言うならば、普通は諦めるしかないだろう。
「なるほど、そこで俺に手伝って欲しいと」
「一緒に危険な外へ行こうとは言わない。 ただ、俺達に稽古をつけてくれ。 あの高速斬撃に瞬間移動の様な移動法、あーゆーのを教えて欲しいんだ!」
必死の懇願。 それだけ外に出るという夢はレン達にとって大きいものなのだろう。
だが。
俺が教えたことで彼らが外に出ればどうなるだろうか。 魔物とやらは多数精鋭であったという作戦部隊を壊滅させたらしいし、たった3人でどうこうなるとは思えない。
「……ダメだ。 3人で外へ出るなんて無謀過ぎる」
「3人じゃないの! 外に出たいと願う人は他にも沢山いて、私達は合計で84人。 リーダーはレンだけど、大人もいるの!」
意外と多かった。
84人を束ねているのか、レンが。
「…だけどさ。 そもそも外に出るのって許されてるのか? 法律とかで禁止されてたりしないのか?」
「されてるの。 ぜったいに外へでちゃだめなの!」
「駄目なんかい!」
俺の声が洞窟内に響き渡る。
久しぶりの全力突っ込みだ。
「…それでも外へ出たいんだ。 それにな、今は人口の増加で食べ物が足りなくなってきてる。 食べ物だけじゃなく土地も。 そろそろ限界なんだよ、この国は」
レンが少ししんみりした様子を見せる。
たしかアンダーワールドを広げるのって今の技術じゃ厳しいんだっけ。
どうやってこの国は出来たんだよ。
ここで俺が拒否して逃げることも出来る。
だがその後は?
俺はこの世界で生きていく事に、何か楽しみを見いだせるだろうか。
『真の自由』という言葉が頭から離れない。 …恐らく『真の自由』の実現は不可能だ。
人が集団で生きていくならば誰かが必ず我慢をしなければならない。
それでも。
今この世界の外には見たことの無い景色が広がっている。
地球には無かった物が沢山あるかもしれない。
「おいライト…?」
レンが呼んでいる。
そちらに目を向けつつも考えを止めない。
「お前…何で今───」
こんな狭い地下世界で後何十年も生きろってか?
「───笑ってるんだ?」
外には未知が広がってるのにか?
俺はそれで楽しく生活できるのか?
そうだな。
「それは流石に退屈過ぎる」
そう呟いた俺の口は、この真剣な場には不釣り合いな表情を表していた。
◇
「これでいいか?」
「いいよー!」
「ありがとう、ライト」
「ありがとな」
結局あの後俺は皆に稽古をつけること、自分も外に行くということを3人に伝えた。
3人は凄く喜んでいた。
今後の方針は“参加者の募集・実力向上”“外での生活物資集め”“地下世界脱出作戦の立案”“外に出てからの行動方針”等だ。
細かく見ると他にも沢山あるが、ここ1年のうちに大体を片付けるつもりだ。
稽古は1年で足りるのか?
これは意外な方法で解決した。 レンに《閃光斬》を軽く教えようとしたところ、《技能習得簡易化》から派生スキルが!
《技能伝授簡易化》
これがその解決方法だ。
俺が教えたいと思ったスキルを相手に伝授する事が出来る。
俺がスキルを習得する時の様に簡単に教えられる。
俺が覚えていないスキルは無理だ。
ちなみにだが特殊技能は伝授出来なかった。 予想通りではあるが。
これにより稽古はかなり楽になった。
あとはそれぞれの地力を上げるだけだ。
《剣術》は持っているだけで日本でいう達人の様な動きが出来る。 稽古に稽古を重ねれば人外レベルまで到達できるようだ。
目指せ人外♪
俺があと他にすべきなのは自身のレベルアップとお金持ちを味方につける事だ。
外の世界で生活するにしても、最初はやはりこちらから持って行く物資に頼る他ない。
その物資を集めるには大量の金がいる。
だからお金持ちを味方につけるのだ。
「俺は明日から金持ちの人間を味方につけるために動くよ」
「なら私も!」
ルルがバッと立ち上がった。
「いや、気持ちは嬉しいんだけど俺一人で大丈夫だ。 ルル達は親の事もあるだろ」
「おとうさんとおかあさんぜったいにおこるのー」
「うっ」
「…そうだね。 じゃあ任せるね」
「おう、任された」
レン、「うっ」って何だよ。
そんなに親に反対されるのが怖いのか。
流石に無言で飛び出す訳にも行かないから、時期を見て説得する必要がある。
流石に子供を王族や警察?にチクッたりはしないだろうが、それでも簡単に言えることじゃない。
もしチクられた場合、この狭い地下世界で鬼ごっこ…逃亡生活が始まる。 その上、計画が実行段階になっても外への道が厳重に警備されてたりしたら失敗する可能性が高くなる。
まあチクられるのを警戒しなければならないのは俺も同じだろう。
味方につけるために計画を話さなければならないし。
……裏切られる様な相手には話をしないけどな。
ちゃんと視てから相手を決める。
時計が17時30分を告げた。
例の遅刻事件の後にアラームをセットしておいた。
毎日朝とこの時間にアラームがなる。
「今日はそろそろ夕食の時間になるし解散としないか?」
「お、もうそんな時間か。 よく気付いたなライト」
「俺の秘密の力の1つさっ」
「ほんとに凄いねぇ」
「すごいねぇ」
洞窟を出ると辺りは真っ赤だった。
あ、血とかそんな物騒なものじゃないよ?
夕焼けの光をそのまま地下に放っているのだろうか。
綺麗な光だ。
この時間で夕焼けって事は、今は冬くらいなのかもしれない。
「改めてこれからよろしく、ライト」
「ああ、よろしくな。 俺は基本ルルの家に居るから」
「ララちゃんと一緒とか何て羨ましい(ボソッ)」
「…聞こえるぞ。 じゃあな」
「また明日なー」
レンと別れ、帰路につく。
これからの『革命』に胸を踊らせながら、俺は周りを視ていた。
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名前:ライト
レベル:5
年齢:18
種族:人族
性別:男
HP:500/500
MP:500/500
【所持特殊技能】
・《地形図》
・《言語理解》
・《技能習得簡易化》(《技能伝授簡易化》)
・《取得経験値2倍》
・《技後硬直無効》
・《???》
・《???》
【所持技能】
・《剣術》Lv.4 (スラッシュ〜クワドラスラッシュ、閃光斬)
・《格闘術》Lv.3 (掌打)
・《水魔法》Lv.1
・《鑑定》Lv.4
・《気配感知》Lv.3
・《殺意感知》Lv.1
・《縮地》Lv.2
・《超集中》Lv.1
・《恐怖耐性》Lv.3
・《緊張耐性》Lv.1
・《苦痛耐性》Lv.1
・《隠密》Lv.1
・《掃除》Lv.3
・《HP自動回復(小)》Lv.2
・《MP自動回復(小)》Lv.1
・《戦闘時HP自動回復(中)》Lv.1
【所持スキルポイント】
100pt (1スキルポイントにつき1つスキルのレベルを上げられる。)
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