表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物に支配された異世界で、今日も俺は冒険する  作者: Kneeさん
アンダーワールド脱出編
7/29

レンとの試合稽古

 鋭い斬撃が男を襲う。

 男は受けずに身体を捻って躱すと、がら空きになった相手の胴体に()()()()()()()()()



 「かー! また1本も取れなかった!」

 「いやいや、レンも中々に強いよ。 もうじき私を抜かすだろう」



 今はルルの家の道場で皆の稽古を見学中だ。

 俺が1番驚いたのはドラタさんの強さだ。 正直いってかなり強い。 半ばチートな俺が戦っても勝てるかどうか微妙だ。

 そしてそのドラタさんと1番いい勝負をしていたのが“レン”と呼ばれる青年だ。 恐らく俺と同い歳くらいだろう。



 「ん?」



 レンの方を見ていると、目があってしまった。

 いや、合ったからどうってことは無いんだけどな。

 恋が始まったりする訳じゃないしっ///



 「えっ」



 今度はレンが不敵に笑う。

 少しニヤッとした様な、「面白いものを見つけた」みたいな顔で笑ってる。

 ドSな上にホモだったりするのかね。

 どうしよう、逃げようカナ。



 『後で話がある』



 レンが声に出さず口の動きだけでそう伝える。

 やっばい、これは逃げる一択じゃないだろうか。

 俺が逃げるべきか逃げないべきか悩んでいる間に、レンは再び稽古に戻って行った。



 「……俺も掃除の続きといきますか!」



 胸に微妙な不安を残したまま、俺は任された『掃除』という仕事に戻る事にした。




 ◇



 道場以外の一通り掃除を終え、俺が道場へ戻ってきたのは丁度お昼になる頃だった。


 今皆は稽古の中の最後のメニュー、素振り500本をこなしている。

 50本で小休憩、そしてまた50本といった感じだ。


 ルルも一生懸命に木剣を振っている。

 「いちっ! にぃっ!」と声を出しつつ、ひと振りひと振り全力で振っているようだ。


 そして俺は気付く。

 ルルの横に、超小さくて可愛いルルがいる事に。

 綺麗な青い髪の毛は肩にかからないくらいの長さ。 本物のルルが肩より少し下、背中辺りまで伸びている。


 「いぃち! にぃい!」と高めの声を上げつつ、歯を食いしばって小さめな木剣を振っている。

 なんだあの可愛い生物は。

 いや、あれだ。 恋愛感情とかそう言うのじゃなくて、こう…………とにかく可愛いんだ!


 恐らく…いや間違いなく、あの子がララだろう。

 他の人を見回すが、ララ程の年の子もそれなりにいる。

 稽古は大人(15際以上)と子供(15歳未満)で分けていたため、今まで気付かなかった。



  「48!49! 50! よし、今日の稽古は終わりだ!

 いつも通り残って稽古していてもいいが、怪我には気をつける様に」



 ドラタさんがそう言うと、皆が木剣を壁に掛けて自分たちの荷物がある所へと戻っていった。



 ◇


 さて、皆の稽古も終わったようだしヤツに見つかる前に一旦帰るか。

 道場の掃除は夕方だし。

 俺は道場を後にしようと身体の向きを180度変える。



 「なぁに、さっさと帰ろうとしてんだよっ」



 歩きだそうとした瞬間、後ろから声をかけられる。

 その声にギクッとしてしまう。

 俺の貞操が危ない。



 「え、えーと何か?」

 「俺はレン、お前は?」

 「…ライト」

 「ライトか! よろしくな!」



 ナニをよろしくするんですかねっ!?



 「んでさ、ライト。 お前に頼みがあるんだ」

 「ん? 頼み?」

 「そそ。 俺昨日見ちゃったんだよね」



 レンという名の少年はそこで少し悪い顔をして言葉を溜めた。

 何を見られたのか不安になり、思わず聞き返す。



 「見た? 何を?」

 「お前が襲ってきた男3人を撃退するところ」



 あちゃー、あの時の《気配感知》の反応はこいつだったのか。

 え、なんだろ。 これを理由に脅して俺の事を…。



 「そ、それがどうかしたか?」



 出来るだけ平静を保つ。貞操のために。



 「お前……」



 ごくり…。



 「めちゃくちゃ強いじゃん!」

 「………は? あ、あぁ、ありがとう」

 「ルルの奴に聞いても、お前が戦えるとかありえないなんて言ってるしよー。 隠してんのか?」

 「隠してるって訳じゃ無いよ。 言ってないだけだ」



 …これは脅されたりはしない感じか?



 「ならさ、この後一緒に稽古しないか?」

 「稽古?」

 「ああ、具体的には木剣での戦闘。 もちろん身体に当てる時は寸止めか、優しくな。 《剣術》を持ってんなら出来んだろ?」

 「多分出来るけど…」



 俺は今ドラタさんに貸してもらった服を来ている。

 転生時に来ていたのは学校の制服だった為、掃除をするなら動きやすい服をって事で貸してもらった。

 故に服装的にはできなくもない。



 「なら決定だな! 飯食って少ししたらやろうぜ! あ、飯は一緒に食うよな?」

 「あ、あぁ」



 レンがガンガン話を進めていく。

 完全にあっちのペースだ。

 まあ、俺も断るつもりは無いからいいんだけどさ。



 「じゃあ弁当食おうぜ。 持ってきてるか?」

 「持ってきてる」

 「よし、そこの日当たりがいい所で食おう」



 レンが場所を指定したので弁当を取りに行く。

 そこで合流して食べ始める。


 一緒に飯とか食べてるけど、俺には1つ重大な問題がある。 これを確認しない限りは安心出来ない。

 美味しそうに“岩大根”とやらを食べているレン。 それを微笑ましく思いながら、俺は意を決して質問する。



 「なあ、レン」

 「なんな?(なんだ?)」



 食べながら喋るとは行儀が悪いぞ。

 食べてる時に話しかける俺もあれだけどさ。

 

 …ふぅ。 行くぜ?



 「お前ってさ」

 「おう?」

 「…ホモか?」



 俺の質問は、レンの口内にあった食べ物を盛大に外へと噴出させた。



 「なっ…! げほごほっ…。 な、何言ってんだお前!?」

 「いや、レンからはそう言う何かを感じたんだ」

 「感じるわけあるか! 俺はちゃんとララちゃんが好き……なん………だ……………」



 ん?



 「え?」



 レンの顔がどんどん赤くなっていく。

 俺の顔がどんどんニヤニヤとしていく。

 え、マジなの?

 《鑑定》さんによると君の年齢は18って出てるけど。(《鑑定》は人間に使った場合、年齢など簡単なものなら出る。 所持スキルは現段階では見えない。)



 「そうか…お前はロリk…ぐはっ!」

 「違う! 俺はロリが好きなんじゃない! そ、その、ララちゃんが好きなんだ(ボソッ)」



 ロリコンという単語を言おうとした俺に、レンは肘で攻撃してきた。

 …ララちゃんって11歳だよな。 日本でいうと小学5年生。

 レン、お前は高校3年生。 アウトじゃないか? …アウトな気がするぞ?



 「こ、これは本当の本当にちゃんとした恋なんだ!」



 ………これは歪んだ愛情じゃないらしい。 ピュアな恋だ。



 「……そうだよな。 うん。 頑張れ、応援してる」

 「な、なんだその目は! おい、ライト!」

 「大丈夫ですよ、きっとうまくいきますよ」

 「急に他人行儀になるなよ!」



 まあ、ロリコンを否定する気は無いけどね。

 …そう言えばルルは16歳だよな。

 日本でいうと高校1年生…。 高校生同士なら余裕でセーフだよな!


 レンとララ、生暖かい目で応援してあげるとしようか。



 ◇



 「よし、準備はいいか?」

 「お前(ロリk…)こそ大丈夫か? 負けても泣くなよ?」

 「今“お前”って単語に変な含みがあったような気が?」

 「気のせいだ」



 昼食が終わり、お腹が落ち着くまで少し休憩した俺たちは試合形式の稽古をしようとしていた。


 剣先をレンの喉あたりに向けて構える。 剣道でいう中段の構えだ。

 対するレンは木剣を上に振りかぶっている。 上段の構えだ。


 深く深呼吸をする。

 審判はルルだ。 他にも何人か、俺たちを観戦している人達がいる。

 その中にはレンの愛しのララもいる。



 「始めっ!」



 ルルの良く通る声が開始を告げる。

 直後、レンが動こうとする。

 重心を上手く移動し、中段からでは届かない…しかし上段からは届く間合いから打ち込んでこようとする。

 が、俺はそれに素早く対応した。

 打ち込んできた瞬間にカウンターを放てるように準備する。



 「…っ」



 それを悟ったレンが攻撃を中断する。

 これまで二人は1歩も動いていない。 僅かな重心移動と木剣の動きから相手の動きを予測し、そして脳内で戦った。

 ほとんど動かない。 それでいて戦っている。

 これは先に反応が遅れた方、つまり集中が途切れた方が負ける。


 周囲ががうるさくなる。

 否、俺の聴力…五感全てが鋭くなったのだ。 聞こえる音、見える物、感じる匂いなどが飛躍的に増える。

 次いでその中から必要のない物を除外していく。

 全てをレンに集中する。


【《超集中》を習得しました。】


 脳内でそう聞こえたような気がしたが、その雑念すらもすぐに消す。


 よく観察していると、ある事に気付いた。

 レンは攻めようとするタイミングで重心を前に、それを中断した直後に後ろにする癖があるようだ。

 重心を後ろにした瞬間は、前には動けない(強力な攻撃はできない)

 つまりその瞬間こそが、俺が一方的に攻められる好機。


 俺はわざと小さく1歩を踏み出す。

 これはレンからすればチャンス。 小さく1歩踏み出している瞬間は、中段の間合いではどう足掻こうがレンには攻撃が届かない。

 レンが仕掛けようと重心を前にする。 今にも踏み出そうな程に。


 だが気付く。 俺の余裕に。

 レンならばここで踏み込んでは来ない。 後戻り出来ないほど重心を前にはしていないから、必ず攻撃を中断するはずだ。

 剣を振れば負ける。 両者の本能がそう思う試合だからこその中断。


 レンは予想通り攻撃を中断した。 そしてそのまま前にあった重心を後ろに移動させる。

 相手が並の実力ならば隙になるほどの弱点でもない。 ()()()()()()()



 「《縮地》!」



 一瞬で間合いを詰める。 重心が後ろにあり上段の構えであるレンは躱すことも防御する事もできない。

 だが流石はレン。 動揺は一瞬で、すぐに剣を振り下ろした。


 上段と中段では攻撃速度が格段に違う。 上段では振り下ろすだけで良いが、中段は振りかぶらなければならない。

 その速度差によってこの状況は、馬鹿正直に突っ込んだ俺が少し劣勢。 このままではレンに頭を叩かれて負けるだろう。 だが、剣速はスキルで上げられる。 そして俺にはもってこいのスキルがある。



 「《閃光斬》っ!!」



 俺のもつ剣がかき消えた。 と思った次の瞬間には、木剣がレンの首に添えられていた。

 レンがそれに気づいて動きを止める。 それ以上動けば木剣が喉に刺さ…ぶつかる。

 レンの木剣は俺の頭上10cmほどの所で止まっていた。



 「…はわっ! 勝者、ライト!」




 ルルが叫び、試合が終わった。


 一瞬の静寂。


 その数秒後、大音量の歓声が俺の鼓膜を刺激した。

評価・ブクマ・感想お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ