お約束
いやぁ、暖かくなって来ましたね(*´ω`*)
「ははは…」
乾いた笑い声が漏れる。
目の前にはガラの悪い3人の男が立っている。 3人とも金属の剣を持っていて、鋭い目付きで俺を睨んで来る。
「金目の物さえ置いていけば痛い目にはあわせねぇからよぉ」
「さっさと出せやぁ!」
「ヒッヒッヒ…」
金目の物とか言われてもな…。何も持ってないんだけど。
「あのー、本当に何も持ってないんですけど」
「ああ!? だったらその服脱いで置いてけや!」
「全裸で帰るのは恥ずかしいかい? ヒッヒ…!」
おうふ…。 これはどうすればいいんだ…。
なぜ俺がこんな事になっているのか、それは遡ること1時間前…。
◇
街の観光でもしようと思ったけど、意外と広いんだよなー。
えーと、どっちから来たんだっけな。
確かこっち側から来た気がするし…。
……。
…………。
……そうです、皆さんもうお気付きですね?
俺は完全完璧に迷ってしまいました。
くそぅ、ルルがあんなに心配してくれていたというのに…。
そうだ、《地形図》スキルがあるじゃないか!
これでルルの家を検索して……あった!
良かった割と近いみたいだ。
《地形図》をみる限りでは、そこの細い道を通って行くのが近道だな。
何か路地裏っぽい、というかまさにそれか?
その道は両脇の建物に光を遮られている為に薄暗く、少し近寄り難い雰囲気があった。
「よし、ダッシュで抜けちゃうか!」
俺は一応《気配感知》を発動し、人がいてもぶつからないように注意しながら走る事にした。
《気配感知》はまだレベル1で感知範囲が心許ないのでスピードはそこまで出せない。
スキルポイントを使えば上げられるが、この先便利なスキルに出会うかもしれないので残しておく。
その道に近づくにつれて少しずつ速度を上げる。
全速力とはいかないくらいの速度でその道に入った。
少し入り組んでいて視界が悪い。
俺こういう所嫌いなんだよな、早めに抜けたいぜ。
そう思い、少し…本当に少し走る速度を上げた時だった。
「ピコン」という音ともに進行方向に何かの気配が感知された。
「うおっ、やばっ!」
よく見るとそれは男の人で、その後にも二人程男がいる。
咄嗟に横に飛ぶ。
だが、いきなり過ぎたために躱しきれない。
「…しゅっ…《縮地》!」
ビュン!
と景色が右から左へ高速で流れる。
おお、これが縮地なの「ぐべっ!」k…。
慌てていてどこに飛ぶかも決めずに使っていた俺は、超高速で隣の建物にぶつかった。
「カハッ……!」
呼吸が苦しく、痛みも酷い。 視界がぐわんぐわんと揺れ、立つことができない。
視界隅に表示される自分のHPは6割ほども削れているようだ。
【《苦痛耐性》《HP自動回復(小)》を習得しました。】
俺はすぐさま《苦痛耐性》と《HP自動回復(小)》を発動する。
痛みが和らぎ、視界も落ち着いた。 呼吸も少しは安定したようだ。
これは…、《縮地》ミスって自殺とかダサいにも程があるぞ…。
「す、すみません! 大丈夫でしたか?」
少し落ち着いてきた俺は男達に話しかける。
怪我とかさせてたら大変だ。
「…い、え、あ、ああ! 服が汚れちまったよ!」
「お、俺もだ! 責任とれよ!」
「ヒヒッ!」
唐突に現れて壁にぶつかった俺にかなり驚いていた男達だったが、落ち着くと同時に金を払えと言い出した。
どうやら面倒くさい人達のようだ。
「えーと、ははは…」
そして今に至る。
◇
「もういいっ! 寄越せ!」
「理不尽だぞ! 服だってよごれてないじゃないか!」
「うるせぇ!」
俺が出会ってしまったのはかなり柄が悪い連中らしく、自分の不幸さを呪ってしまう。
「お前が着ている服は珍しいからな…。 高値で売れるかもしれない!」
「ヒッヒ! キルぜぇ!」
男達は所持していた剣を構えると、俺に斬りかかってきた。
てかそこのお前! 今の「キルぜぇ」って完全にkillの方だろ!
どうやらこの街は想像以上に治安が悪いらしい。 いや、日本が良すぎただけかもしれないな。
「これって正当防衛に入るのかな…!」
呟きつつ男達に突っ込む。 逃げるという手段もあったが、逃げきれなかった場合はルルの家にご招待してしまう事になる。
「《縮地》!」
一瞬で先頭の男との間合いを詰める。
そして《格闘術》による恩恵を受けつつ、男のみぞおちを掌で打つ。
【《格闘術》の派生スキル、《掌打》を習得・発動しました。】
【戦闘開始を確認。《戦闘時HP自動回復(中)》を習得しました。】
──ドンッ!
という低く鈍い音が響き、直後に男が吹き飛ぶ。
高い金属音を散らしながら男の剣が俺の足元に落ちる。
「借りるぞ!」
男の剣を拾い上げる。
【《剣術》を習得しました。】
【“ライト”の知識を参照、《剣術》の派生スキルを4つ習得しました。】
えっ。 えっ? ちょ、いくら何でも早すぎn…
「ヒッヒィ!」
目の前を鈍い銀色の光が一閃する。
ヒヒヒ男が首を切り裂かんばかりに斬りかかってきた。
「っぶねぇ! 死ぬぞ!?」
俺のHPは《HP自動回復(小)》《戦闘時HP自動回復(中)》のおかげでやっと6割くらいまで回復している。
だがそれでも俺はまだレベル1だと思うので一撃でも受ければ即死は免れないだろう。
───キィン!
三人目の男の攻撃を剣で受け止める。
が、直後にヒヒヒ男が背後から剣を振るう。
「ちっ、《縮地》!」
ギリギリまで引き付けてから《縮地》で移動しようとしたが、流石に怖かったので早めに避けた。
「そうだ、《恐怖耐性》発動」
《苦痛耐性》や《緊張耐性》はパッシブなのに対し、《恐怖耐性》はアクティブなんだよな。
常時恐怖を感じないってのも、それはそれで怖いから有難いんだけどさ。
「ゴホッ……。 こいつ…ぜってぇ殺す」
最初に吹っ飛ばした男が起き上がって俺に明確な殺意を向ける。
背筋が凍るような、生まれて初めての感覚を感じる。
【《殺気感知》を習得しました。】
…あまり向けられたくは無いんだけどな。
というか、そんなすぐに殺すとか言っていいのかい。 この世界って命の価値はどうなっているんだろう。
「こっちはあまり得意じゃないから使いたくなかったんだが…」
そう言い男が取り出したのは短剣だ。 《短剣術》も習得しているのかもしれない。
「次で殺す。 行くぞお前ら」
「ヒヒッ!」
「おう…!」
「「《強斬》!!」」
いくらなんでも、ぶつかりそうになっただけで殺すってどうなんだろうか。 余りにも過剰過ぎないか。
最初の男以外が時間差で《強斬》を放ってくる。
発動は同じだったが、距離の問題で近かった方が先に斬りつけて来た。
俺の持っている《剣術》の派生スキルはルルに教えて貰った(知識的に)強斬から四連強斬の4つだ。
3人の男の攻撃の合計手数は最低でも3以上。 だったら俺が取るべき行動はトリプルかクワドラのどちらかに絞られる。
《短剣術》が手数重視の可能性が高いから、四連強斬がベストだろう。
頭の中で強くスキル名を念じる。
口に出さなくても出来るかどうかの調査だ。 今やるべきじゃないって? 思い立ったらすぐやるのが俺のモットーなんだ!
俺が狙うは敵の剣の腹。
そこにスキルを1発ずつ打ち込めば、剣が壊れるはずだ。
《鑑定》であの剣の強度は既に知っている。
鮮やかな青色の光が剣に纏われる。
剣が意思を持っているかのように半ば自動的に動き出す。
「せああっ!」
俺の気合が響く。
──キン!キィン!
と金属音が二つ鳴る。 俺が一瞬で二人の男の武器を破壊した音だ。
《殺気感知》が背後で反応する。
まだ止まらない俺のスキルは、いつの間にか背後にいた男の短剣へと吸い込まれるように向かっていく。
「三連撃目…だと!?」
驚く男。 だがそれも一瞬で、男はすぐにスキルを発動した。
恐らく男は無意識だっただろう。 男はスキル名を言わずにスキルを発動した。
男の持つ短剣が灰色の光に包まれる。
男は俺が短剣を壊しに来ている事を先の二人で学習していたのか、俺の持つ剣に自分の短剣をぶつけに来た。
────キン!!──キンッ!!!
立て続けに2回。 剣と剣が打ち合わされる音が響く。
短剣の斬撃は軽く、男は軽く体勢を崩した。 が、スキルの補正なのか多少無理のかかった体勢からも斬撃を繰り出してきた。
今ので俺の放った四連強斬は終了だ。
男の顔が勝ちを確信して歪んだ。
『《短剣術》のメリットは《剣術》等の大振りな剣に対して、連続技が簡単な事かな。 簡単に三連強斬とか使っちゃうんだよ』
ここに来る途中にしてもらったルルの説明が頭に浮かぶ。
『攻撃スキルは使用後に数秒、反動で動けなくなるの』
走馬灯かよ! と内心突っ込む。 転生して1日経たずに死ぬのか?
灰色の光を放つ短剣が目の前に迫る。
あぁくそ、動け動け動け動け!
反動で動かない身体を無理やり動かそうとする。
【《技後硬直無効》を発動しました。】
瞬間、身体の自由が戻る。
男に再度驚愕の表情が戻る。
「な、なん…クワドラで終わったんじゃ…!?」
「……悪いな!」
今から強斬では迎撃が間に合わない。
《縮地》も回避には使いたく無い。この狭い通路では。
「はあああっ!」
【派生スキル《閃光斬》を習得・発動しました】
《閃光斬》
斬撃系攻撃用。一瞬で敵を斬る。その速度は強斬を遥かに上回る。 その分威力は少し下がる。
握る剣を水平に薙ぐ。
防御不可能と思われた敵の斬撃を防ぎ…その短剣を破壊した。
さらに《技後硬直無効》が発動。
「これで…終わりだっ!」
剣を両手で握る上で大切なのは左手。
右手を自由にして《掌打》を放つ。
「また…かよぉ……!!!」
再度、低く鈍い音が響き、男は壁へと突っ込んだ。
何か、凄いことになってしまったな…。
喧嘩?による興奮からか足が震えている。
落ち着かせるために深呼吸をする。
一応《気配感知》で他に襲い掛かってきそうな輩がいないか警戒しておく。 一つ反応があるが、様子をみているだけのようだ。
──ゴーンゴーン。
遠くから鐘の音が響く。 これは確か時刻を知らせる鐘だ。
…ん? 時刻?
メニュー画面を開き時刻を確認する。
18時。
やばっ!17時30分には帰るって言ったのに!
「ご、ごめん! 俺もう帰らなきゃ! じゃあな!」
男達にさよならと声をかけ、俺はルルが待つ家へと走った。
モブABC達よ、ごめんwww