脱出会議
1章の終わりが近い!
「じゃあ話し合いを始めようか」
レンの言葉で場の空気が引き締まる。
今日話し合うことは2つ。“エリーからの資金援助”と“アンダーワールド脱出の時期とルート”についてだ。
この人数が集まる事はそうそうないので、出来るだけ話を進めたいとレンは言っていた。
道場の入口付近に大きな板を置き、それを黒板のように使って話し合いをする。 まるで高校の頃の授業のようだ。
「私からの資金援助についてなのだけれど、具体的には何が必要なのかしら」
黒板に1番近い列に座るエリーが手を挙げて質問する。
ちなみに黒板の前にはリーダーであるレンと、何故かララがいる。
エリーの質問に「うむ」と答えたレンは、恐らく元から考えてあったであろう意見を口にした。
「まずは良い武器と防具、それと食料と野菜などの種だな。種は出来るだけ多くの種類を用意して、どんな環境にでも対応出来るようにしておきたいぜ」
「あと、“ふとん”とか“しょっき”とかもひつようなの!……です」
レンの意見の補足に入ったララだが、敬語があまり上手く使えていないようだ。 俺の横に座るルルが鼻息を荒くして敬語の勉強をさせることを決意している。
「となると、かなりの量になるわね」
「ああ。俺達も出来るだけ用意するつもりだけど、エリーにかなり頼る事になると思う。 用意できそうか?」
「王族の資金力を舐めないでくれるかしら。 それくらいは簡単よ。私が心配しているのは運ぶ方法よ」
エリーはどうやら大量の荷物を抱えながら、魔物がうじゃうじゃいる地上を移動出来るのかという事を心配しているらしい。
頼りがいのありそうなスキンヘッドのおじさん達が「俺達にまかせろっ!」と言っているが、そう簡単な話ではないだろう。
「ねえライト、私にひとつ心当たりがあるの」
皆が静かにしている中、ルルが俺に話しかけてきた。その声量はかなり控えめで、俺以外には聞こえていない。
「心当たり? 大量の物資を1人で運べるドラ○もんみたいな人間が………いる…………のか…………?」
自分で言っていて何となく気付いた。
そうだな、うん。いましたわ。
「確かライトって“アイテムを収納”できるんだよね? しかもたくさん。 その能力を使えば万事解決じゃない?」
「………うん、確かにそうだな。 何で気付かなかったんだろう」
この能力はバレるといろいろと厄介だが、レン曰くここにいるメンバーは信用出来る人間らしい。
俺はレンの人柄を知っているし、今までこの組織が社会の表側に出てきていないことを踏まえて考えれば、ここにいるメンバーを信用しても大丈夫だろうという結果にたどり着いた。
恐らくルルも俺の能力がバレた時のことを考えて、小さな声で話しかけてきたのだろう。
「レン、エリー──あとスキンヘッドのおじさん。 荷物の事なんだが、俺に任せてくれないか?」
「かなりの量になるわよ? あなた一人で──あぁ、なるほどね。 分かったわ」
エリーはすぐに俺の意見の内容を察し、あっさりと任せてくれた。 対してレンは一瞬怪訝な顔をした後に、「あっ」と言って頷き、そしてみんなの方に向いてこう言った。
「方法は言えないが、ライトなら大量の荷物を運んでくれる! だからこの話は解決だ!」
「「「「おう!」」」」
「「「「はい!」」」」
その場にいたたくさんのメンバーは全く疑ったりせず、レンに素直に従った。
ロリコ(ry──なのに信用されてるんだな。
あと俺は別に隠そうとしてた訳じゃないぞ。
◇
エリーからの資金援助の話が落ち着いたので、次は脱出の時期とルートだ。
アンダーワールドから地上へと繋がる道はたった一つ。 王城の最上階から伸びる螺旋階段だ。
もう既にこの時点でほぼ詰みなのだが、レンたちはどうにかそこへ安全にたどり着ける道を探っているようだ。
エリーの権力を使えば解決じゃない? とも思ったが、王女がいくら主張したとしても外への扉は簡単には開かないようだ。
この話題は今まで幾度も話し合われて来たようだが、全くと言っていいほど進展していないそうだ。
今回もやはり意見はなく、場が静まり返る。
「あなた達はどうして王城に地上への道があるか知っているかしら?」
そのシンとした空気の中で口を開いたのはエリーだった。
「どうして王城にあるか…?」
その質問に対してルルが問い返す。 エリーの前で言える事ではないが、俺が考える限りでは『民の反乱が起きた時に、王族が逃げられるようにする為』というのが一番濃厚な考えだ。
誰も答えを答えないでいるとエリーが再度口を開いた。
「『万が一、地上から魔物が侵入してきた時に王族がそれを食い止める為』よ。 初代アンダーワールド国王がそう言ってそこに城を建てたらしいのよ」
「そうなんだ。すごく立派な王様だったんだね」
ルルが尊敬するように呟く。 他にも何人もの人達が今は亡き初代国王に尊敬の念を送っていた。
「でも、もし王が食い止められなかったら。その時はどうなるか、わかるかしら?」
「その時は国が滅ぶだろうな」
「そう。ライトの言う通り、国が…そこに生きる人々が魔物に蹂躙されて滅びるわ」
その光景を思い浮かべたのだろう。 ララとレンが青い顔をしている。 恐らく他にも多くの人が恐怖を感じているだろう。
「初代国王は絶対的な強さを持っていたの。 それこそ一騎当千…いえ、一騎当万といっても過言ではないわ。 例え幾千の魔物が攻めてきても守りきる自信があった。 入口が1つなら向かい来る的を討つだけでいいのだからね」
そこで溜息をすると、少し悔しそうに話を続けた。
「けれど今の王族にはその力は無い。 確かに一般人よりは強くても、幾千の魔物を屠る力は無いわ」
その言葉に、何人かのメンバーが息を呑む。
事実上、“もし魔物が攻めてきたら守ってあげることは出来ません”と言われているようなものだから、仕方ない。
「だから先代の国王は考えた。 もし王族が魔物に負けた時、人々が僅かな希望を手に外へ逃げられればと。 簡単に言えば、外に出たところで魔物の餌食になるのは目に見えているけれど、逃げないよりはマシって話ね」
「そう考えた先代の国王は部下に穴を掘らせたの。 地上へと繋がる穴を。 王城から離れた、とある場所にね」
「待って、でもそれだとその穴から魔物が入ってきたら大変なんじゃ……」
メンバーの一人である女性がエリーに聞く。
「それに関しては大丈夫よ。 地上からその穴を使ってアンダーワールドに入るにはミスリルで出来た厚い扉を破壊しなければいけないから。 人の気配がしない場所にあるそんな扉を壊そうとする魔物はいないわ」
なるほど、確かにその通りだ。ミスリルがどの程度の強度なのかは知らないが、恐らく、ゲームでいう破壊不能オブジェクトに迫る強度を持っているのだろう。
「そこを使えば確かに外へ出られそうだけど…、見張りとかはやっぱりいるよな?」
「レンの言う通り居るわ。 けど王城に比べればかなり少ないわ。 それにね、一年後に開催される兄様の王位継承祭の時、見張りはほとんど王城に移動するから────その抜け道の見張りはいないも同然になるわ」
言葉の意味を、それに込められた意味を理解したのか、皆が静まる。
「つまり、アンダーワールドを脱出するならその時がベストよ」
その言葉で俺達の行動方針は、ほぼ決まった。
◇
結果として、俺たちは一年後の王位継承祭で「アンダーワールド脱出作戦」を決行した。
後に、“世界革命の始まり”とも言われた出来事だった。
面白いと思っていただければ、画面下部の評価をしていただけると嬉しいです!