旋風斬っ!
午後、俺とレンは剣の練習をするために道場へ残った。
「本当なら外に出るためのルートを考えなきゃいけないのによ」
「大丈夫だって、エリーが何とかしてくれるさ」
「…だから王女はエリザベス様だって」
レンは王女を仲間にできたと報告した俺を完全に可哀想なやつ扱いをしている。
偽物に騙されているだとかなんとか。
「ま、それも明後日になればわかるって。 ちゃんとメンバー全員集めといてくれよ?」
「84人を集めるのって割と大変なんだぞ…」
俺は一瞬「へ?」ってなってから、「SNSとかないと大変だよな」と思った。
俺の脳みそも日本の現代社会に影響されまくっているようだ。
メンバーの募集はあまり大胆には出来ないため、そんなに期待出来ていない。
俺がこれに加わってからまだ1日しか経っていないから誰も入っていないのは当たり前かもしれない。
屋敷への侵入とかエリーとの戦闘とかが濃密すぎて一晩で1週間くらい経った気分だ。
「ふう、俺は準備できたぜ?」
そう言い道場の真ん中で木剣を構えるレン。
道場内にはルルやララを含めまだ何人か残っているが、真ん中は空いていた。
本当は鉄剣でやりたいのだが、俺の《治癒》レベルでは本当に危ない時に回復が追いつかない。
「あ、レン」
「なんだ?」
「俺かなり強くなったから超本気でかかってきていいぞ」
「なるほど挑発かよくわかった。 くらえ《閃光斬》っ!!」
俺も木剣を構えてレンの前に立ち、軽く挑発を含めて事実を告げる。 するとレンは簡単に挑発に乗ってきた。
《閃光斬》は確かに速い。 剣速だけならあの激強エリーの《強斬》と肩を並べるだろう。 まあ、エリーが《閃光斬》を使ったら視認できないレベルなんだろうけどな。
「レンの力で《閃光斬》をやみくもにうつのはオススメしない。 剣が軽すぎてパリィされた時の隙が大きすぎる」
「ぐあっ!」
レンの《閃光斬》を《強斬》で弾き返す。 レンの手から木剣が離れ、木剣は7メートルほど飛ばされた。
その隙にレンの首に軽く剣先を当てる。
「…まじかよ」
「まじだ。 だから言ったろ、強くなったって」
レンは心底びっくりしたように目をパチクリさせながら木剣を取りに行った。
「らいとすごいね!」
「本当に! いつの間に、って感じだよ!」
ララとルルが駆け寄ってきて俺にキラキラした目を向ける。
いやあ、照れるぜ。 …スキルポイント振っただけなんであんまり褒められると心が痛い。
「もしかするとライトは貴族で強い人だったのかもね!」
「ちょっときおくもどったの?」
「ぐはっ…」
無邪気な笑顔が俺の罪悪感を更に抉っていく…。 いつかちゃんと話をしよう。
「んー、悔しいけど俺じゃライトの相手にならないよな」
「…いやほんとずるいことしてごめん」
「ん? あ、そうだ。 ルルとララちゃんも含めて3対1でやろうぜ!」
木剣を持って戻ってきたレンがルルとララを見て提案する。
確かに今の俺なら3対1でも大丈夫だとは思うが、3対1を提案するレンは男として大丈夫なのだろうか。
「やるっ! やりたいっ!」
「おねぇちゃんがやるならやるー!」
ルルが高速で頭を縦に振って、それをみたララもコクコクと頷いた。 「よし、決まりだな」とレンが言ったのと同時に3人が木剣を構えた。
「え、いきなり?」
「いきなり行くよ!」
ルルが「行くよ!」と言ったので反射的にルルを見る。
すると背後で《索敵》が反応した。
「せいっ!」
「わぁ!」
咄嗟に振り向くとララが剣を上段から振り下ろしていた。
パリィしようと思ったところでルルの方からも《索敵》が反応。 全く作戦会議とかしてないのにこの連携って…。
ララの攻撃をパリィをやめて後ろに受け流す。
体勢を崩したララがルルへと突っ込む。 そこへ追撃しようと踏み込むが横からレンの斬撃が来たので一時的に距離を取る。
「強い…。 これがライトの剣なんだね」
「する〜ってながされたの…」
「次からは《縮地》とかも使って行くぞ!」
「「うん!!」」
3人の集中が1段階深まったことを感じる。
次の瞬間レンとララが縮地を使って俺の両斜め後ろに移動した。 再び3人に囲まれる形となる。
じりじりと距離を詰めてくる3人。 俺は自分の目と《索敵》を使って自分を含めた4人を俯瞰する感じで見るように意識する。 眼を使えば《索敵》無しでも俯瞰できるんだけどさ。
「はぁっ!」
「しっ!」
「はぁ!」
3人が剣の間合いに俺を入れた瞬間に斬りかかって来る。 ほぼ同時なために躱すのは難しい。 難しいだけで不可能ではないが。
ルルが中段で水平に一閃。 レンが上段で斬りおろし。 ララは下段からの斬りあげ。
コンマ数秒もかけずにそれを確認した俺はそれを全てパリィするために身体を捻る。
【《旋風斬》を習得しました】
俺の剣が緑色の鮮やかな光を纏う。 捻っていた身体を解き放ち、高速で回転する。 その回転は偶然にも習得したスキルのアシストによってか通常ではありえない回転速度になった。
ララ、ルル、レンの順番に下から上へと回転しながら剣で渦巻き状に斬る。
傍から見れば俺が緑色の旋風の中にいて、それに突っ込んだ3人が木剣ごと緑の旋風に打たれて弾かれたように見えただろう。
「「きゃああ!」」
「んなっ!?」
吹き飛ばされた3人は何が起きたのか分からないといった様子だ。
周りで見ていた人達からも「おおっ!!!」という歓声が聞こえてきた。
「3人のおかげで新しいスキルを覚えられたみたいだ」
「今のは多対1では有効だね…!」
「剣が弾かれたと思ったら、その次には全身に痛みって…」
「まったくみえなかったの…」
全身を擦りながら3人が立ち上がる。 立ち上がった3人に薄く《治癒》をかける。
「《治癒》!」
3人とも打ち身だけだったので大した怪我はなく、少ないMPで《治癒》出来た。
「…ライトがどんどん遠くの人に思えてきたよ」
「……《治癒》って王家が使う病院でしか使える人がいなかった気が」
「いたくない! すごいね!」
俺を見る3人の目は、何故かちょっとやばい人を見る目になっていた。
え、なんで?
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