王女を縛って拘束してるんだが
ここら辺でルルよりエリーの人気が高まりそう…。
「…この状況を誰かに見られたら、俺は社会的にも人生的にも終わるな」
人目につかない屋根の上。 戦闘終了後、俺は再びここへ戻ってきた。
「んっ…」
ロープで縛られた王女を担いで。
ロープはもともと屋敷の侵入・脱出に使おうと思っていたもので、この使用方法を予測して持ってきたわけでない。 断じてない。
しかもエリーを縛っている時に《拘束術》というスキルを手に入れてしまい、このスキルを使うと拘束が上手くなる上に拘束した対象に“筋力減少”や“スキル発動不可能”等といった恐ろしいデバフを付けてしまうのだ。
「“眼”を使った上に《超集中》したからか…? だるいな…」
エリーを起こさないようにしつつ、自分の状態をステータスを開いて確認する。
生前から“眼”を使うとだるくなったりぶっ倒れたりしていたので、だるさはそのせいだろう。
=====
名前:ライト
レベル:8
年齢:18
種族:人族
性別:男
HP:312/800
MP:408/800
【所持特殊技能】
・《地形図》
・《言語理解》
・《技能習得簡易化》(《技能伝授簡易化》)
・《取得経験値2倍》
・《技後硬直無効》
・《???》
・《???》
【所持技能】
・《剣術》Lv.10 (スラッシュ〜クワドラスラッシュ、閃光斬)
・《格闘術》Lv.5 (掌打)
・《水魔法》Lv.3
・《拘束術》Lv.2
・《鑑定》Lv.4
・《索敵》Lv.3
・《縮地》Lv.5
・《肉体強化》Lv.5
・《超集中》Lv.2
・《恐怖耐性》Lv.3
・《緊張耐性》Lv.3
・《苦痛耐性》Lv.3
・《隠密》Lv.4
・《詐術》Lv.1
・《掃除》Lv.4
・《HP自動回復(小)》Lv.4
・《MP自動回復(小)》Lv.2
・《戦闘時HP自動回復(中)》Lv.3
【所持スキルポイント】
91pt (1スキルポイントにつき1つスキルのレベルを上げられる。)
=====
レベル8!?
一気に3も上がったのか! これはラッキーだった。
HPやMPはレベルが上がっても急に増えたりはせず、上限に達するまで緩やかに回復・増加していくのだ。
もともと500だったHPにエリーの攻撃を食らって減少していたからだろう、312という今見ると頼りない数値まで減っている。
これを回復する手段として、俺は《治癒》を覚える事を選択した。 別に黙っていれば回復していくのだが、エリーが拘束を解いて暴れないとは限らない。 可及的速やかに回復する必要がある。
「えーと、ヒール! ヒィル! ヒィール!!」
唱えてみるが回復しない。
考え方を変えて体内に魔力を巡らせてみる。 そしてその魔力に癒しの念を送る。
「成功してくれよ…。 ヒール! ヒーール! 《治癒》!!」
何度かの失敗はしたが、無事発動した。
身体を暖かい光が包み、MPを代償にHPが一気に回復していく。 2MPで1HPを回復できるようだ。
MPを200消費し、HPを100回復させた。 直後、グラッと視界が揺れ、倒れそうになる。
「MPを使いすぎたか…!」
残りMPはたったの11。 今にも気絶しそうだが、そんな訳にはいかない。
HPは自動回復も含めて420といったところだ。 半分は超えたがまだ頼りない。
だがまあ今できる事はもう無いので、大人しくMPHPの回復を待つ事にする。
=====
名前:ライト
レベル:8
年齢:18
種族:人族
性別:男
HP:421/800
MP:13/800
【所持特殊技能】
・《地形図》
・《言語理解》
・《技能習得簡易化》(《技能伝授簡易化》)
・《取得経験値2倍》
・《技後硬直無効》
・《???》
・《???》
【所持技能】
・《剣術》Lv.10 (スラッシュ〜クワドラスラッシュ、閃光斬)
・《格闘術》Lv.5 (掌打)
・《水魔法》Lv.3
・《拘束術》Lv.2
・《鑑定》Lv.4
・《索敵》Lv.3
・《縮地》Lv.5
・《治癒》Lv.1
・《肉体強化》Lv.5
・《超集中》Lv.2
・《恐怖耐性》Lv.3
・《緊張耐性》Lv.3
・《苦痛耐性》Lv.3
・《隠密》Lv.4
・《詐術》Lv.1
・《掃除》Lv.4
・《HP自動回復(小)》Lv.4
・《MP自動回復(小)》Lv.3
・《戦闘時HP自動回復(中)》Lv.3
【所持スキルポイント】
91pt (1スキルポイントにつき1つスキルのレベルを上げられる。)
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おお、《治癒》を覚えた上に《MP自動回復(小)》もLv.3に上がってる。 結果オーライか。
それに《治癒》だってLv.1で“2MP→1HP”なんだ。 スキルレベルを上げればもっと効率良くなることだって考えられる。
「でも《剣術》がなぁ…」
問題は《剣術》だ。 スキルレベルは10なのに、派生スキルは増えていない。 ただスキルレベルを上げるだけでは派生スキルは得られないのだろうか。
「んにゅぅ……」
エリーがもぞもぞ動いたので起きたのかと思い警戒態勢を取る。 が、その目は開いておらず、それどころか「すぴーすぴー」と心地よさそうな吐息すら聞こえる。
エリーは薄く綺麗な純白のネグリジェを着ているため、じっと見ると透けて中が見えそうで見えないというもどかしい格好をしている。
超紳士な俺だとしても、視線がエリーに固定されてしまうのは仕方ない事だろう。
透明感のある金髪がエリーの頬を流れ、地面についている。 仰向けにしているため、ネグリジェでは隠すことの出来ない大きさの胸が強調されている。
「んぐっ」
俺の中で暴れている邪な欲望を、自分を軽く殴る事で落ち着かせる。 HPが少し減るほどの威力だったが、エリーの容姿だとそれくらいしなければ落ち着かない。
これ以上沈黙が続くと耐えられる気がしないのでエリーを起こす事にする。
強力な引力でエリーの身体──主に2つの双丘───へと引っ張られる手を頑張って制御し、軽く肩に触れて揺する。
「ルルと会った時もこんな感じだったな…」
ルルとの出会いを思い出す。 すると俺の中で暴れていた邪な欲望が綺麗に消えていった。
「ん…。 ここは…」
「夜中ではあるが、おはよう」
目を覚ましたエリーに声をかける。 するとエリーの肩がビクッと震え、次いで視線を俺へと向ける。
瞬間、
顔を青くし(恐らく拘束されたから)
赤くし(王族である自分を拘束した事への怒りから)
暗くし(戦いに負けて拘束されたのは自分のせいだから)
何故か俺をもう一度見て顔を赤くした。
「わ、私に何をする気なのよっ! はっ、まさかもうした後なの!? 初めてだったのに、最低っ! せめて意識があるときに───」
「屋敷に忍び込んで悪かった! あと何もしてないから安心してくれ」
何やら顔を赤くしモジモジしながら満更でも無さそうな顔でおぞましい勘違いをし始めたエリーの言葉を遮って謝罪する。
エリーは数秒間瞬きを繰り返した後、顔を赤くして(恐らく羞恥)、ボンッという音と共に顔から湯気を出した。 あっ、もちろん比喩で現実ではないよ?
「暴れられたりするのも困るから、拘束はすぐには解けないが許してくれ」
「勝ったのはそっちだから、言う事を聞くわ…。 それに縛られるってのは初めてだけど悪くはn──」
「こほん。 俺はライト、君はエリーだな?」
「そうよ。 だけどその名を知ってるのは王家だけで、普通はエリザベスと呼ばれているわ」
エリーは仰向けの体勢のまま顔だけこちらに向けて会話を続ける。
一瞬、近くに置いてある双剣に目を向けたが、場所を確認しただけで使用して暴れる気は無さそうだ。
エリーは俺の方を見ながら、少し頬を赤く染めながら質問をしてきた。
「ら、ライトは何で屋敷を…お兄様の部屋を覗いていたのかしら?」
「…それをエリーに言うかどうかは、今から決める」
エリーをじっと見つめる。 エリーは少し照れていたが、真正面から受け止めた。
そのまま顔を少しずつ近づけ──
「おい、目を閉じるな」
「えっ、だ、だって恥ずかしいじゃない!」
何を言っているんだこいつは。
「いいから目を開けていてくれ」
「え、えぇ…わかったわ」
額と額がぶつかるまであと10cmほどの距離になってから、俺は───“眼”を開いた。
そしてエリーという人間の性格や将来の夢などを記憶を読み取る事で把握する。
第三者的な視点ではなく、エリー自身の視点でエリーの記憶を覗く。
「な、なんで顔を赤くしてるのよっ!」
「み、見てない! 何も見てないぞ!」
…まあ、年頃の女の子だからな。 自分を慰めたりすることもあるよな。 眼福。
それから数分間、俺はエリーという人間を視続けた。
◇
「お前、外に行ったことがあったのか」
「な、なんでそれを!」
驚いた事にエリーには外(地上)で魔物と戦闘した経験があった。
エリーの異常な強さは魔物を討伐した時の経験値から来ているものなのだろう。
「よし、いきなり本題な」
「えっ!?」
「俺は…俺たちはアンダーワールドの外に出る。 今はその協力者を探しているんだ」
「ええっ!?」
エリーは俺たちに絶対に協力する。 それが分かっている俺は、ド直球に本題をぶつけた。
いやぁ、まさか王女を仲間にできるなんて、俺ってばついてるぜ。
「エリーも外に出たいんだよな?」
「そ、それは…」
王女という立場上、簡単にそんな事を人には言えない。 もしバレれば大変なことになる。
「協力してくれれば外に連れ出してやる。 それに新しい力だって与えてやれる。」
「うぅ…」
エリーが揺れている。
上から目線で話しかけているが、これが効果的なのだ。 どうやらエリーはドM。 普段はSっぽく振舞っているが、中身はどうやらドMなようだ。
「で、でも…。 だけど…」
俺に期待の視線を向けている。 何かあともう一押しして欲しいのか。
ならば切り札を使ってやろう。
「これを言えば、お前は絶対に俺たちについてくることになる。 しかも自分からな」
「えっ…?」
少し悪い顔を作ってニヤニヤしてみる。
普通は怖がるところだが、エリーは何故か嬉しそうだ。
まあこれから俺が言うことを聞けば、本当に全力で純粋に喜ぶんだろうけどな。
「自分からってどういう事なのよ…」
「この世界にはな…」
ゴクリ…とエリーが唾を飲む音が聞こえる。
ふっ、これでお前は俺たちの仲間だっ! そう心の中で思いながら、俺は最後の言葉を口に出した。
「本当にエルフがいて───エルフの国は地上に存在している!」
「協力するわっ!!!」
王女は大のエルフ好きだった。
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