旅立ちの1
地下だなんて信じられない位に季節の移り変わりがあり、確実に季節が過ぎ去っていく。寒い日々が続いていたが、最近ではようやく冷たい風の中にも、時折春の暖かさを感じるようになってきた。
ここに来て何年経ったのか、少なくとも4回は雪の季節を過ごしたと思う。
体力作りと魔法の勉強も最近ようやく形になりつつある。
最初の頃は本当に苦労した。特に魔法は文献通りに自分の魔素を変換させることは手間取りながらも出来たが、2段階目の空気中の魔素と自分の魔素を繋げる事が出来ず、一体何度目の前で炎が燃え上がりアフロになったことか。
結局、今も空気中の魔素を使うことは出来ないので、自分の体内の魔素を細く相手に伸ばす事で代用している。
魔法を使えることによって、雪山を下山するにも何とか目処は建った。
自分の魔素を薄く体を覆うように広げ、暖かな空気に変えることで寒さは凌げると思う。冬の寒さの中で実験したので、可能性は高い筈だ。
ただし、俺の体内にどの位の魔素があるのか判らないので、山の麓まで魔素が持つのか不安もあるけど。
「随分と暖かくなってきましたね。」
「ええ、本当に。」
「行くのですか?」
「そのつもりなんですがね。ここの居心地が良いせいで最後の踏ん切りが付かなくて迷ってるところです。」
「それは良かった。」
「それに、外の世界の状況が判らない以上、どうしても自分の実力で大丈夫だと自信も持てないんです。結局、剣も対して使えるようにはならなかったので。接近戦は苦手ですし。」
「そうですか。何か使える武器が在れば良かったんですが。
あの惑星の核もだいぶ成長しましたが、ここではちゃんとした剣を作ることは出来ないですから。」
惑星の核は、あれからずっと、いや出来るだけ持ち歩いていた為か赤黒い色をした石みたいだったのがいつの間にか澄んだ赤みがかった水晶の様な物になっていた。
「こんな水晶みたいなので剣が作れるんですかね?」
俺が懐から出した核は、サイズも小さくなり片手で持てるくらいになっていた。
「わかりません。実際に見たわけでもないので、その石で剣を打ったのか、剣の一部に使ったのか。」
「これも、下に降りたときの楽しみでもあるんですけどね。」
「あとは、他にやり残したことは無いですか?」
暫く、ボケッとしていたらそう聞かれたが、一応目標としていたことは達成済みなので困ってしまう。
「一応、目標は達成済みなんで後は、一寸した切っ掛けが欲しいくらいですね。」
なんて、ここ数日同じような話を繰り返しているような気がする。実際、こう、何か切っ掛けがないとこの居心地の良い場所から旅立つことは出来そうにないのだが。
「ずっと、ここに居ても良いんじゃないですか?」
心揺さぶられる誘惑だが、今のままで何年もここに居るイメージが沸かない。
「それも魅力的なんですが、やはり外の世界に出てみたいんですよ。」
「そうですか。寂しくなりますね。」
「随分と暖かくなってきましたね。」
「ええ、本当に。」
そして無限ループ。
そんな感じで数日過ごしていると(勿論、毎日の鍛練はしながらね。)ある日、ふいに、空気が変わった気がした。
説明のしようも無いんだけど、何となくアレ?って思う程度だったんだけど。
「どうやら、侵入者のようですね。」
「侵入者?」
「ええ、この地下以外の階は殆ど判らないんですが、緊急事態には連絡が来るようになっているのですが、先程緊急の警報装置が作動したようです。」
「ここに来るでしょうか?」
「それは判りませんが、ここに入るには鍵を使って空間を繋げる必要があるので。すぐには入って来れないと思いますが。」
「入り口はあの扉だけですか?」
「そうです。この空間の特質上、幾つもの接点を作っては維持が困難になりますから。」
「この空間て、何なんですか?」
俺のそんな質問に、珍しく呆れた顔をしながら
「今さらその質問ですか。本当に興味のあること以外はどうでも良いんですね。」
「まぁ、聞いても特に何かするわけでも無いので。」
「特に、説明出来ることも無いんですけどね。と言うか、説明しようが無いのが実情ですが。」
「?」
「実際、よく判っていないのが本当のところなんですがね。ここは、偶然の積み重ねで生まれた空間です。それこそ幾千もの偶然の。そのうちの1つがガス惑星の衝突です。」
ギギギギギギィィィッーーーーーーーー
そんな話をしていると、無理矢理扉を抉じ開ける音が聞こえてくる。
「なんか、入って来そうなんだけど。」
「そんな馬鹿な。」
「何とかならないのか?」
「無理です、私は観察しているだけでこの施設に直接に干渉することは殆どできません。」
ガキィンッッーーーー
そうこうしているうちに、とうとう扉がこじ開けられる音が響く。
「一体、何の目的なんだ?」
「とりあえず、何者なのか確認に行ってみます。」
「俺も行くよ。」
「いえ、相手が判らない以上危険ですから。わたしが様子を見てきます。」
「なんだ、こんな所に居たのか。全く、いつまでもワタシをほったらかしにして。なんて冷たい旦那様じゃ。」
いきなり後ろから声を掛けられ振り返ると、そこには真っ白い髪をした少女が立っていた。
やっと、話を次の段階に進められるところまで来ました。
スローペースな投稿になると思いますが、気長に読んで頂ければ幸いです。