4話
よろしくお願いしますm(_ _)m
今にも飛び掛かって来そうな迫力雰囲気で睨む騎士は、腰に下げた剣を抜き、私のバックを切り裂いた。
「あ、あんた……。なにすんのよー!それって犯罪よ、器物破損!訴えてやるんだから!弁償しろこのヤロー!!」
柵にしがみつき揺らすがびくともしなかった。将軍が開けた入り口なら出られるが、あいにく将軍が塞いでいて使えない。精一杯の威嚇はまるで猿のようだと自分でも呆れたけど、今はこれしか出来ない。
まったく歯痒いったらないよ。もっと近付けば首くらいは絞められるかもしれないのに、近づこうともしないで睨んでる。
「この者が異界から来たと言う証拠は、華押の指輪と持物だけです。自分の物であると偽ることも出来るはず」
「あんたが疑ってる指輪が本物だと、贈った本人が認めてるのよ!」
「それがお前の物であるという証拠は?本当に異界から来たとすれば、そちらの世界で奪った可能性もある」
「だから!それは写真で見せたでしょ!?」
だーもう!らちが明かない。何だってこの騎士はこんなに頭が固いんだ!もっと物事を柔軟に受け止めなさいよね!
水掛け論になり始めた問答を止めたのは将軍だった。
「アレク、いい加減にしろ。お前も華押の仕組みは知っているはずだ」
「そう、ですが……。私は認めたくありません!」
それが本音かーい!認めたくない理由はどこなのさ。おそらく尊敬しているだろう将軍の子孫がこんなんだから嫌だって言うなら、将軍のことも馬鹿にしていると気付け、ど阿呆うが!
将軍は私の右手を取ると、指輪を抜いた。あの駅員らしき人物の言っていた通り、途端に会話が理解出来なくなる。
何やら会話し、騎士に指輪を見せた。
あ、そう言えば指輪、抜けたよ……。
騎士は物凄く不満そうな顔を隠そうともせず、黙って頷いた。どうやらようやく認めたみたい。
再び将軍によって私の指に戻ってきた指輪。良く見ると薔薇の色が淡いピンクから、濃い赤に変わっていた。
「どうした?」
じっと薔薇を見ていると、不思議に思った将軍が訊いてきた。色が変わっている旨を伝えると、指輪について教えてくれた。
「指輪の薔薇には私の魔力が込められている。私が近くに居るから魔力に反応し、色が変わったのだ」
何やら聞き捨てならない単語が聞こえたが、今は話を聞こう。騎士だって静かに聞いてるし、私が取り乱しでもしたら思うツボだ。話を聞きながら私の動向を観察して、切り捨てる隙でも窺っているのだろう。
「私がヒナコの曾孫だと疑わなかったのは、薔薇が散っていないからだ。その指輪は正統な持ち主以外が指に嵌めると、散ってしまう。だから無闇に他人に渡すなよ。薔薇が散れば力も失うからな」
分かったと頷きながらも、外すことが出来るのは将軍だけだから大丈夫だろうと安心していた。
言葉が理解出来ない大変さは、さっき体験して分かってる。指輪だけはどんな事があっても守らなきゃ。
「あ、そうだ!将軍、帰りかた教えてください」
すっかり忘れていたが、私はここに帰る方法を訊きに来たんだ。まったり団欒している場合じゃない。浦島太郎が迫っているんだから。
だけど将軍は難しい顔をして口を閉ざした。もしかして、帰る方法は無いのかもしれない。諦めかけたとき、「方法はある」と重い口を開けた。
「本当!?じゃあ、かえれるんですね!」
「それについては私の家で説明しよう。落ち着いた場所が良いだろうからな……」
早速将軍の家に向かうことになり、切り裂かれたバックの中身を床に敷いていたジャケットで包んでいると、騎士が怒った。私が将軍の家に招かれたのが大層気に入らないようです。
「話なら城でも良いではないですか!何故将軍の家にこの女を連れていく必要が!?」
「だから言っただろう、落ち着いた場所が必要なんだ。今は陛下の聖誕祭が行われている。城の中も外も人がいて落ち着かん」
「しかし叔父上!」
「アレクシス、いい加減にしろ」
しつこい騎士に将軍が釘を刺したが、私はそれどころじゃない。騎士が将軍のことを”叔父上“と呼んだ。独身の騎士に甥が居るとしたら、それは間違いなく王族……。
こいつが王子様……?嘘だ。誰か嘘だと言って。
顔は良いけど暑苦しくて煩くて頭の固いこんな奴が王子様?
王子様といえば、清廉で穏やかな恭しい人のことを言うんじゃないの……?そんな出来た人間居ないって知ってるけど、夢みても良いでしょ。これでも乙女なんだから。でもこいつ真逆じゃん!
私は項垂れた。それはもう盛大に。
「認めない……。私はアンタみたいなのが王子様だなんて絶対に認めない!私の描いていた王子様像を返せ!」
「知るか!お前が認めなくとも私は国が認めた王子だ!」
「二人共、いい加減にしろ!何度言えばわかるんだ!」
将軍に諫められても私と(仮)王子の子供の様な言い合いは、城を出るまで続いた。将軍に腕を引っ張られながら歩く見知らぬ少女と、(仮)王子の奇妙な喧嘩は当たり前に人目を集め、見物人まで出たらしい。
(仮)王子様の株は下がったかもしれないが、決して私のせいではないと主張しておく。
ひ:「あんたなんか(仮)王子で充分よ!」
ア:「叔父上の曾孫とは認めない!」
将:「子供じゃないんだ!いい加減にしろ!」
保護者は大変ですね……。