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3話

そのまま床に座るのは辛い。着ていたジャケットを下に敷き、その上に膝を抱えて座った。時計が無いからどのくらいの間そうしていたか分からないが、足音が上から響いてきて顔を上げると、ここまで案内した男が冊越しに立っていた。

後ろには腰に剣を携えた騎士みたいな格好の若者が立っている。


「女性を手荒に扱うのは騎士道に反するのではないですか?私の荷物は無事でしょうね?」

「荷物の心配か?問題ない、ここに在る」


荷物の無事を確認して安堵する。良かった、あの中には私の全財産が入ってるんだもん、捨てられでもしたら手が付けられないくらい発狂してやる。


「目的と指輪について聞きたいことがある。虚偽を述べると自分の為にならないと思え。内容次第では牢から出してやろう」

「貴方こそ、嘘を吐かないでくださいよ。満足できる答えならちゃんとここから出して、王弟殿下に逢わせてください」

「……良いだろう」

「将軍!」


若い騎手が慌てて止めに入るが将軍と呼んだ男性に手で制され、それでも私と取り引きをした事が許せないのか、鋭い眼光を向けて来る。鼻で笑って見せると剣の柄に手を掛けた。


「止めろ。……お前も出たいなら大人しくしろ」

「はーい、分かりました。なら、早速質問してください。私には時間が無いので」

「よし、始めよう。……まず、名前と出身地を」


名前は良いとして出身地を訊いてもわからないと思うなぁ。まぁ、嘘を吐くと出られないらしいから、本当のことを言いますか。


「滝口ひかり、日本から来ました。と言っても分からないでしょうが」

「どうして此の国に来た?」

「来たくて来たわけじゃない。電車に乗って、気付いたらこの国にいたの」


将軍は表情を変えることなく私の話す内容に耳を傾けているが、騎士の方は疑いの目を向けてくる。反応としては騎士が正しいかな。


「どうして王弟殿下に会いたいと言った?」

「ここに連れてきた駅員が言ってたの、この指輪を曾祖母に贈った王弟殿下なら帰る方法を知っているかもしれないって。だからどうしても王弟殿下に会う必要があるの」


王弟殿下が指輪を贈ったと聞くと、将軍の表情が微かに動いた。あの駅員も知らなかったみたいだから、仕える者としては予想だにしなかった答えだろう。

しかし、改めて考えるとあの駅員って何者なの?駅員かどうかも怪しいし、そもそも人間なのかどうかも分からない。


「……その指輪はどうやって手に入れた?」

「曾祖母から受け継いだ母の形見です。だから本当にこの国の王弟殿下から贈られた物なのかどうか、私は知らない。けど、本人が見れば分かるでしょう?」

「曾祖母から受け継いだ物と言う証拠は有るか?」

「有ります。ちょっとそこの人、私の鞄貸してよ。ダメなら手帳取って」


騎士は釈然としない様子ながらも鞄から手帳を取りだし、中身を確認すると手渡してくれた。

私は手帳のファスナーポケットから写真を取り出した。その中の一番古い写真を二枚見せる。街のおばちゃんが駅を知らないくらいだ、写真も知らないだろうけど他に証拠がないし、しょうがない。


「これが曾祖母、一緒に写っているのは祖母。ほら、ここに指輪が写ってる」


一枚は赤ちゃんのお祖母ちゃんを曾祖母が抱っこしている写真。もう一枚はお祖母ちゃんの成人の振り袖姿を写したもの。

次に見せたのは曾祖母と、赤ちゃんのお母さんを抱っこしているお祖母ちゃんを写した写真。最後に見せたのはお祖母ちゃんと赤ちゃんの私を抱っこしたお母さんの三人で撮った写真。

冊越しに将軍は最初に見せた曾祖母とお祖母ちゃんの写真を指でなぞった。


「この赤ん坊の名前は?」

「光の子と書いて光子です。曾祖母の名前は雛子」


将軍は大きく目を張った。

写真の裏側には綺麗な字で『光子0歳・母雛子と』と書かれている。他の写真の裏側にも同じように名前が書かれていた。

私の写真の裏側には『ひかり0歳・母彩光さやか・祖母光子と』とお母さんの優しい字で書かれている。


「ミツコ……」

「これで信じてもらえました?疑っているなら王弟殿下にこの指輪を直接見せて下さい。私、本当に時間がないんです。早く帰らないと仕事を首になっちゃう」


もう手遅れかもしれない。無断欠勤何日目だろう……。どうしよう、この先どうやって生きていこう。中卒を雇ってくれるところなんてアルバイトでも中々ないのに……。


「いや、その必要はない。その指輪は確かに本物だ」

「貴方にも分かるんですか?贈った本人しか分からないんじゃ……」


将軍は騎士が止める間もなく牢の鍵を開けて入っていた。そして片膝を付き、何を思ったのか私の頬に手を添えて愛おしそうに見詰める。


「まさか身籠っていたとは……。こんな形で曾孫に会うとはな。結婚もしていないのに、いきなり曾祖父さんか。世の中本当に何があるか分からない」

「へ、曾祖父さん?まさか貴方が王弟殿下!?」

「継承権は破棄した。今は殿下ではなくヴァルネ公爵と呼ばれている」


なんと!私を牢に入れたのが曾祖父だったとは……。血の繋がりが本当に有るのかも疑わしいくらい、私とは似てない。でも、お祖母ちゃんの面影が将軍にはちゃんとあった。

通りでお祖母ちゃんもお母さんも日本人離れした顔してると思った。ずっと純日本人の家系だと信じていたから、何でお祖母ちゃんの髪は茶色いのか、お母さんの瞳はヘーゼル色なのか不思議だったけど、やっと謎が解けたよ。

私なんて1/8しか将軍の血を受け継いでいないから、外見100%日本人だもんね。あ、でも、日本人の肌よりは色白だし、瞳の色もお母さんよりは濃いけど薄い茶色だ。ちょっとは受け継いだのかな。


「将軍、正気ですか。こんな女の話を信じると?」


騎士はめちゃくちゃ怒っていた。

母→お母さん

祖母→お祖母ちゃん

に変更しました。

会ったことのない曾祖母は変えず曾祖母のままにしてあります。

会話文は母・祖母です。

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