表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2話

よろしくお願いします。

「なんだ、これ……」


私の呟きは街の喧騒に紛れて消えた。古い時代を撮った洋画に出てきそうな木造建築の家、石畳の道。上を見るとひらひらと舞い落ちてくる小さな火と花。人々は火を怖がることなく祭りを楽しんでいた。

風に乗って飛んできた火を指先で恐々触ってみた。熱くなく、暖かいくらいの温度で、地面に落ちると消えてしまった。どうやっているだろう……。


「おや、お嬢さん見たことの無い格好をしてるね、旅行者かい?」

「あっちから……」


振り返った先に在るはずの駅が跡形もなく消えていた。頭の中が真っ白になる。超一流のマジシャンでも、こんな短時間に駅を消すことなんて不可能だと思う。でも、確かに駅は消え、そこは街へと続く石畳が延びている。


「え、駅が……。駅が消えてるんですけどぉ!」


思わず駅が在ったと思われる場所に駆け寄った。しかし小さな痕跡一つ無い。声を掛けてきたおばちゃんは、いきなり走り出した私を変な顔で見ている。

おばちゃんに駅のことを尋ねると、知らないと言われた。


「エキってなんだい?そんなの聞いたことないねぇ。あんた、本当にどこの人間だい?可笑しな格好してるし……」

「とっても遠い田舎から出てきました。これはコス、じゃない。仮装ですよ!珍しい格好をしていれば、王族の方が見てくれるかもしれないでしょう?」


これ以上怪しまれて騒ぎになったら大変だ。思わず仮装と言い張ると、おばちゃんに大笑いされてしまった。


「そんなこと考えてる人がいるなんてね!あんた面白いね。でも残念だけどそりゃ無理だよ。ほら、あれが見えるかい?」


おばちゃんが指差す先には大きな門があり、その奥に一際大きな建造物があった。


「王族が居るのはあそこだよ。今日だって王様の生誕50周年のお祝いだけど、本人が姿を現すのはお言葉の時だけだ。それを一目見ようとこれだけの人が国中から集まってんだ、いくら奇抜な格好していても目に入るもんか」


確かに無理かもしれない……。でも、私には会わなきゃならない切羽詰まった理由がある。あの駅員の言うことが本当なら、こちらでの1日が、向こうでの数日に相当する。浦島太郎になりたくない。


「王族の方に会える裏技とかありませんか?」

「なにするつもりだい?可笑しなこと考えてると処罰されるよ。まぁ、何されても良いって覚悟があるなら、門番に直接交渉してみな。話だけはいくかもよ」


ごくりと唾を飲みこんだ。処罰はされたくない、でも帰りたい。この指輪が王様の弟からの贈り物なら、酷いことはされないはず。


「おばちゃんありがとう。私行ってみる!じゃあね」

「えっ、正気かい!?ちょっと待ちな!」


おばちゃんは最後まで止めようとしたが、お礼を言って目指す門へと走った。人が多くて歩くことも大変だったけど、なんとか門まで来ることができたが、すっごく疲れた。満員電車の最後尾から先頭車両まで行くようなものだ。そんな恐ろしいことやったことはないけど、感覚としてはそんな感じ。


人垣の先頭に行けば直ぐに門番が居るものと思っていたのに、その前には兵士がずらりと並び行く手を遮る。

非日常的な光景に尻込みしたけど、浦島太郎が刻一刻と現実になってしまう事の恐怖が勝った。


「す、すみませんっ。王弟殿下に面会をお願いしたいのですが!」


何言ってるんだこいつ、と周りの人が距離を置く。私の言葉に兵士達が警戒を強めた。

その中の一人が近寄って来たが、友好的な雰囲気は微塵も感じられない。


「貴様何者だ!可笑しな格好で王家の方々へのお目通りが叶うと思っているのか!」

「どうしても会わなきゃならないんです!話だけでも通してくれませんか?」

「出来るわけ無いだろう!不審者め!」


不審者って決めつけるな!……いや、確かにここの人達からしたら充分不審者だけどさ。そんな不審者の言葉を聞くことが出来ないのも分かるし、まして会わせるなんて以ての他なのも理解出来るよ?でも、私には時間が無いんですよ!ちょっとくらい融通効かせてくれても良いじゃない。この頭でっかちが!

と言うような内容をもう少し柔らかく述べたところ、兵士がキレました。


「貴様っ!国に支える我等兵士を愚弄するか!」


人垣から引きずり出され、地面にうつ伏せに倒された。両腕は後で拘束されてしまう。よく刑事ドラマで見るけど、これって結構痛い。そして屈辱的。


「いきなり何すんのさ!」

「黙れ!腕が縛り終わったら牢にぶち込んでやる!」


麻縄のようなざらざらした物で腕の自由を奪われた。ふざけんな、超痛い。顔も地面に押さえつけられ、抗議も出来ない。

縄を巻いていた兵士の動きが止まった。やっと終わったのかな、腕は使えないけど、足は使える。立ち上がったら覚悟してなさいよね。


「貴様、これをどこで手に入れた!」


兵士は指輪を抜こうと力一杯引っ張った。もちろん抜けない。だって私が既に試したもの。


「貰ったの、母の形見なのよ!いたたっ!痛いってば!引っ張らないでよ、その指輪抜けないんだから!」

「形見?まさか、有り得ない……。この華押は間違いなくあの方のものだ……。分かったぞ、偽作だな!上に報告して尋問してやる」

「尋問……?いい加減にして!ちょっとくらい人の話を真面目に聞いてくれても良いじゃない!私は王弟殿下の身内よ!」

「何を騒いでいる」


いきなり現れたその人は、私を押さえ込んでいる兵士よりも上等な軍服に似た服を着ていた。 兵士とは違う空気を身に纏って、上官なのか「申し訳ございません!」と私の上から退いた兵士が謝罪している。


「この不審者が王弟殿下に会わせろと言い出しまして、指には薔薇の花押の指輪を嵌めています。偽作だと思うのですが……」

「真偽を見極めるのは然るべき者がする。それよりも不審者だとてこの者は女性だ。手荒に扱うのは止めろ」


注意を受けた兵士は腕に巻いた縄を外して、面白くなさそうに頭を下げた。謝罪の一言もないわけ?

兵士を睨む私にその人は向き直り、代わりにとばかりに「この者が失礼をした」と謝罪の言葉を口にする。


「いえ、もう良いです。貴方なら私の話を聞いてくれますか?」

「……王弟殿下に会いたい、と言うことらしいが?」


肯定の意味で頷くと、着いてこいと案内された先は薄暗い地下牢……。信じた私が馬鹿だった。持ち物も全て持っていかれちゃうし、寒いしカビ臭いし床は石で痛いし、踏んだり蹴ったりだ。

次回も良ければお付き合い下さいm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ