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1話

同じ作品をずっと書いていると飽きてしまうので、新しく連載させていただきます。

最初と最後しかイメージ出来ていないので、途中はどうなるか分かりません。


よろしくお願いしますm(_ _)m

その日はとても疲れていた。一年で一番仕事が忙しい時期で、ここを乗りきれば通常業務に戻れると言われ、仕事が終わったのは終電ギリギリ。慌てて電車に飛び乗り、座席に座るとうとうとし始めた。


私は父を早くに亡くし、お母さんと二人慎ましく暮らしてきた。生活は楽ではなかったし、寂しくもあった。だけどお母さんはお父さんの分もと、愛情をたっぷり注いで育ててくれた。大好きだったお母さんは、昨年病気で亡くなった。

高校に入学したばかりのことで、お母さんに任せきりだった私はどうすれば良いのか分からず、途方に暮れるばかり。両親共に親戚が居なかった私は正真正銘の孤児になってしまった。


「お母さんにね、何かあったらお願いしますって頼まれていたのよ」


突然のことで泣くことも出来ず、何から手を付ければ良いのか分からない私に手を差しのべてくれたのは、アパートの管理人の妙子さんだった。

妙子さんに助けられ、お葬式は上げなくて良いと前々から言っていたお母さんを無事、荼毘に伏すことが出来た。それが当時の私にとって、精一杯の親孝行。

骨になったお母さんを見ても泣けなくて、全部が終わり家に帰り、誰もいない静まり返った暗い部屋に佇んで、ようやく独りになったと理解した。

その時になって初めて涙が堰を切ったように溢れだし、暫く止まることなく流れては落ちた。

学費を払うことが難しくなり高校を中退し、歳を誤魔化してアルバイトをいくつも掛け持ちして働いた。

お母さんはいつも言っていた「辛いときこそ笑いなさい。それがいつか本当になるから」だから私は今日も笑っている。笑顔がいつか本当になると信じて。


だからと言って、こんなハプニングに襲われたら笑えません。

滝口たきぐちひかり、高校通っていれば高2の16歳。初体験は最悪な形で幕を開けた。


「ここ、どこ……」


最終電車に飛び乗って着いた先には見知らぬ土地。360度、何度見回しても見覚えのない街並みが広がる。


「あ、お客さんちゃんと起きましたね。では、良い旅を」


呆然とする私に駅員の制服を着た男性が帽子を脱いでお辞儀をした。目の前を通り過ぎようとする駅員を慌てて掴まえる。


「ちょ、ちょっと待って!ここはどこですか?いつも使っている駅じゃないんですけど」

「え、そんなこと言われましても、お客さんは切符持ってますし、終着駅はここで間違いありませんよ」

「切符?」


通勤で使っているのはカードの定期だ。切符はしばらく買っていない。持ち物を確認してみたが、駅員の言う切符は出てこなかった。


「違いますよ、それですよ、それ」


それ、と指差したのは右手の薬指に嵌めた指輪だった。この指輪はお母さんの形見。そのお母さんもお祖母ちゃんから受け継ぎ、お祖母ちゃんも曾祖母から受け継いだのだと言う。

金のリングに小さな白い薔薇が付いた指輪だ。いつもお母さんが着けていた物だから、お母さんを想って私も肌身離さず身に付けている。


「切符って……。これ、指輪ですよ?」

「はい、それが切符です。いや~、初めて見ましたよそんな貴重な品は!花の華押を使えるのは王族だけですからね、しかも薔薇は王の弟君が使われているもので、あの方は独身を貫き、華押の指輪を贈った女性は居ないと言われていましたからね、驚きです!」


駅員は「興奮しました!」とはしゃいでいるが、私は頭を抱えていた。言葉は理解出来るのに、内容が理解出来ない。頭が理解することを拒否している。

お母さんの形見が王の弟から贈られた品で、それが切符らしい。しかもその人は独身だったとか……。それは指輪を贈った女性を思い続けていたからだろうか。

だからと言ってなぜ私はここに居るんだ?家に帰りたい。明日も仕事がある。生きていくためには稼がなければならない。誰も助けてはくれないのだから。


指輪に視線を移すと、違和感を覚えた。なにかが違う、なんだろう……。


「あ、薔薇の色が変わってる!」

「そりゃ変わるでしょう。だって弟君は生きておられますから」

「……その方は不老不死かなにかですか?」


白かった薔薇が淡いピンク色になっていた。贈った相手が生きていると色が変わるらしいが、今はどうでもいい。

この指輪は曾祖母の代から有るものだ。曾祖母は戦前生まれ、少なくとも70年は経っているはず。70歳なら生きていても不思議ではないが、何歳の時に出会ったのか分からない。


「まさか!その方は40歳になられたばかりです。そうだ、今日は王の聖誕祭が街で開かれていますよ、王族が拝見出来るかもしれません。行ってみてはいかがですか?」

「え、ちょっと待って。40歳……?いやいや、おかしいでしょ!何で40歳?90歳なら納得出来るけど、40歳は納得出来ないよ」

「ああ、成る程。ここは貴女が居た世界とは時間の流が違うのです。貴女の過ごす3年がこちらの世界では1年。つまり、3分の1。貴女の世界で80年経ってもこちらでは30年も経ちません」

「ますます意味が分からない。……と言うことは、このままここに居たら私、あっという間にオバサンじゃない!」


なによそれ!花の16歳がたった5年でアラサーだっていうこと!?初恋もまだなのに!


「ふ、ふざけんじゃないわよ!早く帰せ、直ぐ帰せ、今帰せ!!」


冗談じゃない!こんな奇天烈な所に居られるか!

私は駅員の襟を掴んで激しく揺さぶった。ガクガクと揺れながら、駅員は「お、落ち着いて下さい~」と震える声で言う。

揺さぶるのを止めると、「目が回るかと思いました」とこちらの気も知らないで呑気なものだ。


「大丈夫ですよ、指輪がこちらに適用させてくれます。だから外さないで下さいね。その指輪のおかげで言葉も通じているのですから」

「外すもなにも、外れなくなっちゃったんだけど、この指輪……。って!どうでも良いのよそんなこと!私を帰せ!」

「え~、それは無理ですよ。だって貴女が乗ってきた電車、一方通行の片道切符ですから」


な、何だってーーー!家に帰れない?嘘でしょう……?あの家は小さい、狭い、ボロいの三重苦だけど、私にとってはお母さんとの思い出が詰まった大切なお城。弱音を吐ける唯一の場所入りだった。そこに二度と帰れない……?

ショックで項垂れたが、重要なことに気付いた。還れないのなら、何故指輪は私の世界に有ったのか。それは指輪を受け取った人物が還れたからだ。


「待って!この指輪が私の元にあると言うことは、曾祖母?は還れたと言うことだよね?じゃあ、指輪を贈った王族に話を聞けば、還れるかもしれないよね!?」

「そうですね。でも、余り期待しないほうが良いですよ。貴女の様に今でこちらの世界に迷いこんだ人の話は聞いたことがありますが、還れたという話は聞いたことがありません」

「でも、可能性はあるのよね。よし!私、聖誕祭とやらに行ってくる!」


「楽しんできてくださいね~」と駅員に見送られ、私は街に向かった。


次回はいつになるか分かりませんが、よろしければ次もよろしくお願いしますm(_ _)m

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