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0話 プロローグ

拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。

「よっ、佐山。お前もついに本庁異動かよ~。羨ましいなぁ~。」

「そんなことないですよ。先輩の指導のお陰でここまでこれたようなものですから。」

野田孝弘は佐山渚の背中を叩いて祝いの言葉を言ったが、両手から溢れるほどの書類を持った佐山は素直に喜べる余裕もなく、感謝を表す言葉を並べる。野田はいつもと変わらずグレーのスーツを着て、35歳とは到底思えないほどのスラッとした体型を思わせるが、ラグビーで鍛えた筋肉も少し感じ取れる。私もあのようなスリムなボディにならなければ、と思うが三日坊主でやめてしまう佐山にとっては、手本とでも言うべき存在だ。

「けど、まだ新米だったお前 とここ、布台警察署で組んでからもう2年も経つんだな。今思えば新米にしては異例の検挙率だったな。まるで事件を引き付ける磁石みたいだったよ。」

「何を言ってるんですか!事件を引き付けるって、端から見たらただの死神じゃないですか!まあ、行く先々で事件には巻き込まれますけど...」

実際、彼女の事件を引き付ける運命は尋常ではない。そのお陰と言ってはなんだが、本来ならばあり得ない2年目にして本庁異動、という異例のスピードでの出世を成し遂げたのだ。

「けど、先輩も本庁からの誘いが来たんですよね?せっかくなら先輩も来ればよかったのに...」

そういった佐山の脳裏には、いつも先輩に助けられている自分の姿があった。人間という性質上、資料のの入力ミスなどは少なからずあったのだが、先輩はいつも私をかばい謝ってくれた。しかもそのショックを和らげようと夜に飲みに誘ってくれたりもした。そんな他人のことを思いやれる人なのになぜ、私だけが本庁に行き、先輩が残るのかがずっと心残りだった。

「ああ、俺はどうやらここが気に入ってな、本庁とかの結果が全てって言う世界じゃなく、もっと、こう、人のそばにいられるような、そんな警察官になりたいんだよ。」

照れながら頭をかく野田を見ながら、私はこのような人と共に事件を追えて、なんて幸せだったのだろうと佐山は思った。

そう思うと、瞼の裏に浮かぶ先輩と過ごした2年間を振り返ってしまう。一緒に町中を走り回ったこと。犯人をパトカーの中で待ち伏せしたこと。初めて犯人を逮捕したこと。次々に浮かんでは消える記憶に思わず目頭が熱くなってしまう。佐山は目からあふれでそうになる透明な液体をこらえ、精一杯の笑顔を見せた。

「それでは、先輩、向こうでも頑張ってきます!」

すると、佐山の感情を察したのか、野田は何を言わず、彼女の背中を優しく触れた。何度も、何度も。それはいつものように強く叩くのではなく、よく頑張った、と彼女を包み込む掌だった。そして彼はなにも言わず佐山とは逆方向へと歩いていった。

野田に話しかけられてから決めていたことだったが、佐山はこの書類を自分のデスクに置くまでは涙は流さないと決めていた。が、歩き出すうちに思い出がフラッシュバックし、熱いものが込み上げてくる。数歩もしないうちに、彼女は堪えきることができず目から大粒の涙を流した。とても言葉では表すことのできない、先輩と長い時間をかけて作られた絆が、佐山の頬をより大粒の涙で濡らす。グシャグシャになった顔で振り返ると、廊下を歩いている野田がいた。涙で霞んで見えなかったが、真っ直ぐに捉えた先輩の背中が心なしか震えているように見えた。

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