第四話「優しい嘘」
帰ってきた二人を見て睦は一体何があったのかと聞いたが無一は何も答えることはなく、一人になりたいと言い無一は自分の部屋に入っていった。
大地も、
「詳しいことはわからない。だが今はそっとしておこう」
とだけ言ってその後何かをしゃべることもなく夜は更けていった。
翌日、部屋から出てきた無一は開口一番、
「二人に聞きたいことがある」
そう言って三人は卓を囲むことになった。
まず最初に昨日あったことを話した。いきなり三人の少年に囲まれて暴力を振るわれたこと。そしてその中で自分は決して魔法を使うことができないと言われたこと。
そしてそれを両親に問い詰めた。
「二人とも、大人になれば僕も魔法を使えるようになるって言ってたよね? 村のみんなも……どうして僕に嘘をついてたの? 」
「それは……」
「騙してたわけじゃないのよ。でもあなたには生まれた時から『世界の加護』がなかったの。でも今までそんなこと聞いたことも無いしどうしたら良いかわからなくてそれで……。それに他の子たちと違うってわかったらあなたが傷つくと思ったのよ。だから……」
「だったら最初からそうなんだって言ってくれれば良かったじゃないか! わざわざ村のみんなで僕を騙すような真似をして! 何が楽しいのさ! 」
「何も楽しいことなんてあるわけ無いだろう! 俺たちだって最初はどうしたらいいか不安だったんだ。でも元気に成長してくれる無一を見てたらそんな心配もいらなかったなって思えるようになってきた。だから今までそれを言うこともなかったんだ」
そこまで言い切ると三人の間には沈黙が降りた。
その間にそれぞれは何を思い、考えていたのだろうか。しばらくすると大地は口を開き、
「無一。すまなかった」
そう言って頭を下げた。
そしてそのまま、
「そうだよな。もっと早くにちゃんと話すべきだったんだ。遅くなったが、父さんたちの話を聞いてくれないか? 」
そういった父の言葉に無一は重い表情のまま、
「うん」
ただ一言そう返すのが精一杯だった。
「ありがとう」
そう言って無一が生まれてからのことを語るように話し始めた。
無一には生まれた時から『世界の加護』を含め一切の称号がなかったこと。今までそんなことは聞いたこともなくどうすればいいかわからなかったこと。村の中での秘密として一切口外してはならないと決められたこと。また、無一はおそらく今後共魔法を使うこともできないだろうこと。
今まで無一だけに秘密にされてきたことをすべて語って聞かせた。
まだ十歳の少年にはまだ重い言葉だったかもしれない。けれど無一は真剣に話を聞いていた。
それからしばらくして気持ちの整理がついたのか無一は、
「全部が分かったわけじゃないけど、父さんと母さんが僕のことを思ってくれていたっていうのはなんとなくわかったよ。
その『世界の加護』っていうのがどれくらい大切なものなのかはわからない。でも、そんなのなくったってきっと大丈夫。だって僕には父さんと母さん、それにこれがあるから! 」
そういった無一の手には街で買ってもらった短刀が握られていた。
「無一、それは昨日の……」
「確かに魔法は使えないかもしれない。そのせいでこれから大変なことがあるかもしれないけど……これをお守りだと思って頑張るよ」
そう言って無一が手を掲げると短刀も励ますように一度光ったような気がした。
それから無一は短刀を使いこなせるように毎日訓練をした。
そうして過ごすうちに一ヶ月、三ヶ月、半年、一年、二年と過ぎていった。
両親とも、そして村人とも本当の意味で打ち解けて今までよりも更に楽しい生活を送ることができた。
その一方短刀の方は使いこなせるようになったとは到底言えない。やはりもともと才能が無いということもあるが、使い方を教えてくれる存在がいないということも大きいだろか。
そんなある日、父が無一にある提案をした。
「なぁ無一、お前ももう十二歳だ。そこで提案があるんだ……。大国の中央に十二歳から二十歳までなら誰でも通うことのできる学園があるらしい。どうだ? そこへ行ってみたくはないか? 」
「学園……」
それを聞いて無一は初めて街へ行った時のことを思い出していた。
やられてもやり返すことのできなかった無力な自分。それを変えたいとずっと思っていたし努力もしてきた。それに街には辛い思い出と同じくらい楽しい思い出もあった。
けれどやはり怖い。また同じことがあるんじゃないかと思うと一歩を踏み出せない。
「すぐに決めろとは言わない。でも俺は無一にいろいろな世界を見てほしいと思ってるんだ。だからよく考えてみてくれ」
「うん」
そういった無一は母の元へ向かった。
「母さん。ちょっと話があるんだけどいい? 」
「ちょっと待ってねー。これでよしっと。いいわよ」
「えっとね、さっき父さんに学園へ行かないかって言われたんだ。今のままじゃいけないとも思うし外の世界はとっても楽しみ。だけど楽しみなのとおんなじくらい怖いんだ。どうしたらいいのかな」
そうして無一は母に気持ちを打ち明けた。
それに対し母はしばし考えたあと、
「そうねぇ。母さんは無一にいろいろな世界を見て回ってほしいってそう思うの。確かに怖いこともいっぱいあるかもしれない。けどそれを頑張って乗り越えたら一回り成長できるんじゃない? そうして大きくなっていく無一を見せてほしいの。
あなたの『無一』っていう名前は『今はなにも無くても一から作り出せる子になってほしい』って言う願いを込めたのよ。だから、今その一歩を踏み出してほしいわ」
母の話を聞いた無一は心を動かされていた。
そして自分の名前に込められた意味を知って覚悟が決まった。
「母さん。僕、学園に行くよ! 何ができるかはわからない、でもきっと何かをやり遂げる! 」
そうして覚悟が決まった無一の行動は早かった。
早速父の元へ向かい学園へ行くと決めたことを話した。
こうして無一の学園行きが決まった。