第三話「傷つく心」
歩き疲れてきたので少し休憩することにした二人は、街の中央にある広場のベンチに座って屋台で買ったものを食べていた。
しばらくすると大地は、
「無一、スマンがちょっと用を足してくる」
「分かった」
そう言って無一のそばを離れた。するとそれを見計らったかのようなタイミングで三人の少年が近づいてきた。
三人共無一より年上だろうか。真ん中の少年は比較的ガッチリとした体型、左の少年はひょろひょろな体型、右の少年は平均的な体型という三人組だ。
そして真ん中の少年が、
「おい、お前。何やらいいもん持ってるじゃねぇか。よこせよ」
そう言って無一の短刀に手を伸ばした。
当然無一は、
「いきなり何すんだよ! 」
といって短刀を深く抱え直した。
すると、真ん中の少年は「チッ」と舌打ちをして他の二人に命令した。
「おい、お前らこいつを抑えろ」
「へい」
「りょーかい」
いきなりの暴力に対し、どうすることもできない無一。周りの人たちも気づいているのかいないのか、見て見ぬふりをするだけで誰も助けには来てくれない。
しかし、大切なプレゼントを手放すことなどできるはずもなく必死に抵抗した。
必死に抵抗する無一を見て少年は手を前に出す。
「おとなしくしろってんだよ。ほらこれが見えるか? 」
その手には赤い炎が浮かんでいた。
それを見た無一は反射的に息を呑み、一瞬抵抗することを忘れた。
その隙を他の二人が見逃すことはなく、
「ひひっ、捕まえた」
「手間をかけさせないでください」
押さえつけられてしまった。
「よーし、二人共よくやった。にしてもお前こんなの持ってるなんてどっかのボンボンか? ま、見てみりゃわかるか『アビリティ』」
名前:初瀬無一
種族:人間
称号:――
魔法:――
武術:――
当然他人に対して『アビリティ』の魔法を使うことはマナー違反だが、少年たちにはそんなことは関係なかった。
そうして無一は少年たちに見られてしまった。知られてはいけないことを。
「えーっと、はせむいち? こんなボンボン知らねぇな。まぁいい、とにかくこれはもらってい」
そこまで言って少年は口をつぐんだ。そして次に出てきた言葉は無一に知らされていない秘密を暴くものだった。
「なにお前、こんだけやられて何も反撃しないと思えばやらないんじゃなくてできないのかよ。お前、魔法一切使えないんだろ? 」
それは事実であったが、認めてしまうのは悔しくて無一はこう言い返した。
「だ、だったらなんだって言うんだ。今は使えなくてもこれから使えるようになる! 」
それを聞いて少年はいきなり笑い出した。
無一には目の前の少年がなぜいきなり笑い出したのかわからず困惑した。
「あぁ、悪い悪い。あんまりおかしいことを言うもんだからついつい笑っちまったぜ」
「な、何がおかしいっていうんだ。確かに今は魔法は使えないけど大人になったら」
無一がそこまで言ったところで少年が、
「お前何も聞かされてねぇの? 可哀想になぁ。だったら俺が教えてやるよ。お前には一切の称号がない。『世界の加護』なしじゃあどう頑張ったって魔法なんか使えやしないんだよッ」
そんなことはない。父さんも母さんも村のみんなも大人になれば魔法も使えるようになる。そう言っていた。
こんな少年とみんな。どっちの言葉を信じるかと言われたら当然みんなの方だろう。
子供の感とでもいうべきものだろうか? なぜかこの少年が嘘を言ってるようには思えなかったがそれでも無一は、
「う、嘘だ。みんな大人になったら使えるようになるって言ってた! 」
「だったらそれが嘘なんだろ。俺にはお前に嘘をつく理由なんて無いしな」
それを聞いた無一は力なくうつむいて「嘘だ、そんなはずない」などとつぶやいてた。
そんな無一にすでに興味が失せたのか、少年たちは短刀を獲ってその場から去ろうとした。
だがそこに大地が慌てて戻ってきた。
「おい! てめえら俺の息子に何してやがるッ」
「ちっ、時間を食い過ぎた。おい、もういい放おっておけ、逃げるぞ! 」
そう言って少年たちは慌てて逃げ出した。
「ったく何だったんだあいつらは……。無一大丈夫か? 無一? 」
そこにはうつむいてぼそぼそと何事かをつぶやく無一と立ち尽くす大地が残された。
しばらくそのままだったが、やがて大地が、
「すまなかった、怖かったよな。今日はもう帰ろう。な? 」
「うん……」
そうして街に来た時とは正反対の気持ちで家へ帰ることとなった。