第二話「幸せな日々」
平日は更新できるかわからないので、次はもしかすると週末になるかもしれませんがよろしくお願いします。
※7月4日:武術という項目を消しました。また多少の修正も行いましたが、話の流れに変更はありません。
無一が生まれてから数日が経った。
『世界の加護』がないことがどのような影響を当たるのは不安はあったが幸いにも問題はでてこなかった。
お腹が空いたら泣き、おしめが汚れたら泣き、満足したら寝るというあまりにも普通すぎる赤ん坊だったため、あの時の不安が何だったのかと思うようになっていった。
無一に称号が無いことを口外しないという村の住人の協力もあってすくすくと育ってき、大きくなるにつれ様々なことに興味を示すようになる。
そして村の中をあちこち歩きまわったり、家にある本を読み漁ったりなどやんちゃな少年になっていった。その過程で魔法の存在を知るが、「大人になったら使えるようになる」と無一には本当のことが隠されていた。
あまりのやんちゃ差に手を焼くこともしばしばあったがそれでも家族三人仲良く暮らしていた。
そして成長をしていき無一は十歳を迎えようとしていた。背も伸び、母親譲りの優しい目つきと父親譲りの灰色の髪を持ち、愛らしい顔立ちになってきていた。
そんなある日、いつものように家族三人で仲良く食卓を囲んでいると無一はふとこんなことを言い出した。
「ねぇ父さん。もうそろそろ僕の十歳の誕生日だよね! だからお願いがあるんだ」
「ほー。どんなお願いなんだ? 」
「んーっとね。村の中はもうほとんど見て回っちゃったし一度村の外に行ってみたい! 」
そのお願いを聞いて夫婦は顔を見合わせた。なぜなら称号のこともあり今まで村の外へは行かせないようにしていたからだ。村の中でならみんな理解もあるし不安はなかった。しかし外となれば話は違ってくる。けれどいつまでも村の中だけで過ごさせるのも限界があると思っていたし、そうでなくてもやはり一度も外の世界を見ないと言うのは無一のためにならないと思っていた。そんな不安とこのままでは良くないという思いのせめぎあいの後、夫婦はこう答えた。
「よし……分かった。それじゃあ明日にでも父さんと一緒に街まで行ってみよう。誕生日プレゼントも選ばないといけないしな」
「いいの!? やったーありがとう! 母さん、父さん」
こうして無一が初めて村の外へ行くことが決まった。
この時のこの判断が果たして正しかったのか、間違っていたのか。それはおそらく永遠に答えの出ない問題だろう。とにかくこの一件から無一の人生は大きく動き出すこととなる。
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翌日。街に行く準備をした二人は早速出かけようとしていた。
「ほーら。早く早く」
「準備があるんだ、ちょっと待ってくれ」
「もー! 急いでよー」
街に行くのが楽しみで仕方ない無一に急かされるように無一と大地の二人は出発した。
一番近くの街までは歩いて3時間ほどの距離にあるが、この日は大地の魔法を使って移動することになった。
「さて、それじゃあ出発するか。『クリエイト』」
魔法を発動すると地面が盛り上がり下に車輪のついたソリのようなものが作られた。
「すっげぇ! 父さんこんなこともできるんだ! 」
「まぁな。ほら、これに乗って行くぞ」
そう言って二人が乗ると動き始めた。
風を切って走るそれはとても気持ちがよく無一は移動中終始楽しそうに笑っていた。
そのまま一時間も走ると目的の街が見えてくる。木造の建物から石造りの建物まで多種多様な建物が立ち並び、村とは違った様相を呈していた。
街の中に入ると人の流れも多く、建物の前では多くの品が売られていた。
「わーこれが街かー。広いしいろいろな人がいるしすごいね! 」
「あぁ迷子にならないように手を繋いでおこう。離すんじゃないぞ」
「わかってるって」
そう言って手を繋いだまま二人は街を歩きまわる。初めて見る街の様子に無一は目を輝かせて食い入るように眺めていた。
野菜などの食べ物を扱っているお店。生活用の小物を扱っているお店など日常生活に関係するものから、奥の方に向かうに連れて防具を扱うお店、武器を扱うお店など様々なものが売られている。
そして無一はある店の前で足を止めた。
そこには『越中刀剣店』と書かれていた。
「どうしたんだ無一? 」
「父さん見てみてこれすごいきれいだよ。すっげぇ……」
そこには見事な波紋を持つ一振りの刀が飾られていた。
「ねぇ父さん。誕生日に僕これがほしい! 」
無一は父にそう言うが、
「これは……ちょっとなぁ。無一には必要無いだろう」
「えーでもかっこいいし! ほしいよ」
「んー……まぁ見るだけな」
そう言って二人は店の中に入ると店主らしき人物が、
「いらっしゃいませ。何かお探しですか? 」
「いや、この子が店先に飾ってある刀がほしいといってなぁ。見るだけと思ったんだが……」
「作用でございましたか。えぇ。あれは当店でも目玉の品でして、流石にこれほどお若いお方にはなかなか難しゅうございますね。少々お待ち下さい」
そう言って店の奥の方に入っていく。しばらくして戻ってくるとその手には一本の短刀が載っていた。
白い柄に漆黒の鞘のその短刀を見せながら、
「お待たせいたしました。こちらの短刀などはいかがでしょう? お値段も控えめで護身用としても悪くない一品でございますよ」
「だ、そうだ無一。あっちの大きいのはまだ無一には持てないだろう。こっちのにしておかないか? これもかっこいいぞ」
そう言って説得する父の言葉に無一は、
「うん……分かった。これにする! 」
「よし、じゃあ決まりな。おやっさんおいくらだい? 」
「こちらは金貨五枚になります」
一月の平均的収入が金貨十枚ほどであることを考えると金貨五枚と言うのはなかなかに高い買い物だったが、誕生日プレゼントということもあって無事、短刀は無一のものになった。
「無一、ちゃんと手入れもしてそれを使えるような男になるんだぞ」
「うん! ありがとう父さん! 」
「お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」という店主の声を後ろに二人は店を出た。
その後も二人はしばらく街を歩きまわり、屋台で食べ物を買って食べたりしつつ楽しい時間を過ごした。