表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

宣戦布告

 広場でのライブを終えた俺達は、今日のプレイをここまでにしてログアウトすることにした。

 俺はリンネ達と別れるとすぐにログアウトして風呂に入った。その後は、特に何もすることなく布団に入り就寝した。

 


 「ん……。ふわぁ~」

 翌日、いつもと同じ時間に目覚めた俺は、これまたいつものようにリビングへと向かう。

 「おはよう」

 「おはよう楽斗」

 「おはよう楽斗。ご飯できてるわよ」

 「うん、ありがと」

 いつもと同じくテーブルに置かれた朝食。母さんお手製の朝食からは白い湯気が立っており、非常に食欲をそそられる。親父は俺の対面でスマホを弄り、母さんは台所で弁当を作っている。

 「なあ楽斗」

 「なんだよ親父」

 「プレイヤーネームラクってお前だろ?」

 「……」

 俺は箸を持とうとする手を止めてしまう。

 親父は今何といった?プレイヤーネームラク?確かにMSL内で俺が使っているプレイヤーネームはラクだ。自分でも捻りがないとは思うが、結構気に入っている。いやいや、問題はそこではなくて、そのプレイヤーネームを何故親父が知っているのかということだ。確かに親父はMSLをプレイしていたとは聞いているが、今は引退したと自分でも言っていた。じゃあ、なぜだ?

 「おい楽斗?どうしたー?親父を無視すんなよー。反抗期かー?」

 なんともムカつく声で顔の前で手を振る親父。やめろ鬱陶しい。

 「なんで親父が俺のプレイヤーネーム知ってんだ?」

 「これ」

 「……はぁ!?」

 俺は驚きすぎて椅子から立ち上がってしまう。

 親父が見せてきたスマホには一件のニュースが掲載されていた。

 「このサイトはな、MSLのあらゆる情報を集めたものでな?MSLであったことの殆どをここで知ることが出来る。そんで、なんとなく見てみたらこんな記事がありましたとさ」

 「……」

 ニュースの見出しにはこう書かれていた。

 『宣戦布告!?大人気男性アイドル、アッキーにライバル登場!?』と。

 ここまでは良い。問題は本文だ。

 「大人気男性アイドル、アッキーが国主を務める国が主催する一般プレイヤー向けライブフェスに突如現れたプレイヤーラクとリンネ。そのステージは圧巻で、観客はおろか、偶然観覧していたアッキーをも唸らせた。ライブ終了後、アッキーが二人に国への勧誘を行ったが、ラクは『はは!わるいけど断らさせてもらうよ!覚悟しとけ?いつか俺が、お前の国を奪ってやるからな!』と言い放ち、会場をあとにした。これは宣戦布告と判断しても良いだろう。これからの動向に期待したい。だそうだ。大胆なことするなーお前」

 「なんでだー!」

 俺は思わず大きな声を出してしまった。

 なんでこうなった!なんでこんな大事になってんの!?迂闊だった!これ絶対目つけられてんじゃん!確かに奪ってやろうとは思ったけど、ここまで広まるとは思わなかった。てか、誰だよこの情報流したの……。

 「情報提供者、アッキー……」

 あいつ本人じゃねーか!あいつ絶対根に持ってやがる!絶対俺を陥れようとしてる!まずいことになった……。てか、これリンネの事まで書いてあるじゃねーか!やばい!まずはリンネの安全確保を!って、俺リンネのリアル連絡先知らねえ!うわあああ!

 「おーい、帰ってこーい。楽斗ー。ありゃ、こりゃだめだ」

 「あ……あぁ……」

 「楽斗?放心状態になるのはいいけど、早く食べないと遅刻するわよ?」

 「ち……遅刻……?ああああああ!やべえ!うわああ!」

 「忙しいなぁ……」

 「ほんとねぇ」

 俺は大急ぎで準備を終えるとダッシュで学校へと向かった。



 「間に合った……」

 「おー、楽斗ー!知ってるか?ラクってプレイヤー。あのアッキーに宣戦布告したらしいぞ?」

 「うっせーだまれー!」

 「理不尽!?」

 俺も理不尽だとは思うが、雅人の頭に拳骨を落とさせてもらった。すまん雅人。今だけは我慢してくれ。

 


 「すまんリンネ!こんなことに巻き込んじゃって!」

 俺は現在、宿屋の一室でリンネに頭を下げている。

 「大丈夫ですって!だから頭を上げてください師匠!僕は師匠についていくって決めたんですから!気にしなくて大丈夫ですよ!」

 「リンネ……」

 リンネは何も気にしていないような態度で、むしろ俺のことを心配してくれている。なんて良い子なんだ……。

 「それに師匠が真っ直ぐ突き進む人だってことは知ってますから!」

 「リンネ……!……それは単純ってことだよな」

 「ち、違いますよ!僕はそんな師匠が好きですし、誇りですよ!」

 「リンネ……!俺のそばから離れないでくれ」

 「ふぇぇ!?そ、それは……。僕の方からお願いしたいっていうか……」

 は!しまった。あまりの可愛さに我を失っていた。リンネは男だ。はぁ、男なんだよなぁ……。男だよな……?

 「さて、まずはどうやってここを出るかだな」

 「僕はずっと師匠のそばにいたいっていうか……」

 「ん?リンネ、どうした?」

 「へ!?……なんでもないです」

 あれ?なんかご機嫌斜め?俺なんか悪いことした?まあいいか。

 まずは一番信頼できる奴。リンネだな!いやいや、そうじゃなくて。ケイトかソラネに連絡して、カモフラージュができるものを調達しなきゃな。

 「ケイトをあたってみるか」

 「そうですね。ケイトさんなら頼りになるでしょうね!」

 なぜだろう。リンネの機嫌が直らない。ん~?あとで何か買ってあげよう……。

 俺はひとまずケイトに連絡をとる。

 「お、ケイトか?」

 「ラク?なんか大変な事になってるね~」

 「そうなんだよ。それでさ、お願いがあるんだけど」

 「なんだい?」

 「カモフラージュできるもの。そうだな、ローブみたいなものがあればいいんだけど。なんとか調達できないか?金はいくらでも払うからさ」

 盗賊さんから頂いたものと昨日のおひねりを合わせると、それなりの金額を用意することができるはずだ。金の心配はない。

 「うーん、わかったよ。なるべく顔が隠れるものを探してみるよ」

 「助かるよ。ありがとうケイト」

 ケイトは快く承諾してくれた。なんだ?俺のフレンドは良い奴ばっかじゃないか。感謝しないとな。

 「気にしなくていいよ。これくらいどうってことないさ」

 「でも、昨日のテレキャスのこともあるし」

 ケイトには恩がたくさんある。昨日のテレキャスにしろ、路上ライブの場所提供に加えて今回のことだ、感謝してもしきれない。

 「ふふ、事前投資だよ。いつかまとめて返してくれればいいさ」

 「ああ、必ずこの恩は返すよ!」

 「ふふ、楽しみだね。それじゃあ、すぐ調達して持っていくから待っててくれ」

 「了解!」

 そこでボイスチャットは終了した。

 「なんとかなりそうだな」

 「そうですね。ケイトさんには感謝しないと」

 「本当にな」

 あとは、ひとまずソラネにも連絡をしておくか。心配してたらいけないしな。自惚れかもしれないが……。

 「ラクか?」

 「おう、ソラネ」

 「大丈夫なのか!?追い回されたりしてないか!?心配したんだぞ!まったく!まったくもう!なんですぐ連絡しないんだ!もう少し連絡が遅ければ私から連絡するところだったぞ!怪我はないか?喉は潰されてないか!?」

 「お、落ち着けソラネ!俺は大丈夫だから、なんともないから!」

 普段落ち着いた雰囲気を纏っているソラネからは想像できない取り乱しように俺は驚いてしまう。

 てか、MSL内じゃ怪我とかしないから、喉も潰されないから。落ち着けよ……。

 「本当か!?今どこにいる?会いにいくから!てか、今例の国にいる!早く居場所を教えろ!」

 「はぁ!?お前何してんだよ!お前がそんなところにいたら人だかりができてしょうがないだろ!」

 MSL内でもリアルでも名の知れたアイドルだ、そんな街中にいたら絶対に大騒ぎになる。

 「そんなのどうでもいいんだ!早く居場所をおしえろー!」

 「わかった!わかったから落ち着けよ!」

 その後、俺の居場所を教えるとボイスチャットは切れた。おそらく全速力で走り出したのだろう。

 しかし驚いた。あそこまで取り乱すソラネは正直想像できなかった。リアルでもMSL内と同じような喋り方をしているし、きゃぴきゃぴきゃるーん☆というよりは清楚で落ち着いた印象だった。

 「えっと、凄い人ですね……」

 「ははは、あれでアイドルなんだからビックリだよな……」

 「……アイドル?」

 「ああ、もうすぐ来るだろうし、見たら驚くかもな」

 なんせ、今や世界にまで進出するようなアイドルだからな。

 「は、はぁ……。失礼ですけど、もう一度プレイヤーネームを……」

 「ラク!大丈夫か!?」

 リンネが何かを言いかけるが、それを遮るように部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

 「ソラネ、もうちょっとゆっくりだな……」 

 「おねえちゃん……?」

 「ん?リンネ……?」

 「はい?」

 俺達の時間はそこで一瞬止まった。



 「要するに、リンネとソラネはいとこ同士ってこと?」

 「そういうことになりますね」

 「うむ。父の妹の子になるな」

 一瞬の時間停止後、俺はリンネとソラネに説明を受けていた。

 その説明によると、リンネとソラネはいとこ同士であり、リンネがおねえちゃんと呼ぶほどに仲が良いらしい。世界って狭いんだね……。

 「おねえちゃんには小さい頃からよく遊んでもらってました。最近はお仕事が忙しくてなかなか遊べませんけど」

 「悪いなリンネ。また時間が取れた時にでも遊ぼう。もちろん、MSL内でもいいぞ」

 「うん!楽しみにしてるね」

 「本当に仲が良いんだな」

 傍から見ると本当の姉弟みたいで微笑ましい。

 ソラネはリアルでも超絶美人だから、リンネも美形な顔をしているんだろうな。似ていればの話だけど。

 「うむ!一緒に風呂へ入るくらいに仲が良いな!最近、一緒に入っていないからおねえちゃん成長が気になるぞ!」

 「ふぇ!?おねえちゃん!また変なこと言って!」

 「なんだ?成長してないのか?」

 「し、してるもん!ちゃんと大きくなってるよ!」

 うんうん。一緒にお風呂かぁ、仲が良いんだなぁ……。ん?おいおいおいおい!ちょっと待て!風呂!?何言っちゃってんの!?

 「お、おい!風呂ってお前!」

 「ん?何かおかしいか?」

 「だって!男と風呂だぞ!?確かにリンネは可愛いけど、男だぞ?」

 「は?」

 「へ?」

 え?なんでソラネは首をかしげてるの?なんでリンネは拳を握ってるの?え?まじで?

 「何を言ってるんだラク。リンネは女だぞ?いくら私でも男と風呂に入るのは早いと思っている」

 「嘘でしょ?」

 「あー、あれか?もしかしてリンネのこと、男と間違えてたのか?そうか、アバターも少年系だし、何よりリンネは天性のショタボだからな。ついでにボクっ娘。」

 オーマイゴッド☆俺氏終了のお知らせ。

 「師匠の……」

 「おい待てリンネ。落ち着け」

 「師匠のバカー!」

 「のわあああああ!」

 ふっ、リンネ。そうやって叫ぶリンネも可愛いぜ。ぐは……。



 「良かったなラク。MSL内で」

 「ははは……」

 まったくだ。MSL内では痛覚はないが、リアルならば洒落にならんだろう。本当にリアルじゃなくてよかった。いや、割とマジで。

 「自業自得です!師匠のバカ!」

 「面目ない……」

 「まあ、それは置いといて。ラク、リンネ。これからどうするんだ?」

 そうだよな。今はそれを考えないと。リンネの目が怖いけど、今は心を鬼にして無視だ。

 「ひとまず友人に顔を隠せるローブのようなものを頼んだ。今はそれを待ってる状態」

 「なるほどな。それ以降はどうするつもりだ?」

 「まずは街を出て、一刻も早くこの国を抜ける。そのあとは中立地区を目指したいと思っていたんだけど、この状況じゃなかなか難しい。だから、仲間を探す」

 「仲間?」

 「ああ、信頼のできる仲間を探す。こうも大きく報道されちゃ、もう戦わないわけにはいかない。でも、相手はあの大国だ。できることなら信頼できて、実力のあるメンバーを集めたい。少しでも勝てる確率を上げておきたいんだ。本当はソロで頑張っていこうかと思ってたんだけどな」

 最初の予定狂いまくりだよな。面倒くさいことは後回しにして、細々とやっていこうと思っていたのに、こんなことになるとは……。ああ、面倒くさい……。

 「そうか。確かに、あの国へ挑むのに演奏CPUでは心許ないな」

 「そういうこと。でも、厳しいだろうな。相手はあの大国。わざわざ敵に回そうなんて奴はいないだろうな……」

 自分の立ち位置を悪くしてまで俺達に味方しようなんて奴はいないだろうな。そんな奴、相当な物好きか怖さ知らずだ。

 「私もできる限り協力はする。何か困ったことがあったら言ってくれ」

 「そんな!ソラネに迷惑をかけるなんて!」

 俺に味方なんてすれば、ソラネの国が危ぶまれる。そんなことさせられない。

 「気にするな。実はな、うちの国と例の国は仲があまりよくないんだよ」

 「そうなのか?」

 「片や女性アイドルが国主、片や男性アイドルが国主。女性アイドルファンと男性アイドルファンっていうのは、元来相容れないんだよ。そういうわけで、うちの国の連中はラクを支持する声が大きい。あの国を敵にすることも可能だよ」

 確かに、アイドルファン同士の叩き合いなんてものはよく見る。それが異性のアイドルならなおさらだ。ぶつかることもあるのかもしれない。

 「でもな……」

 「師匠」

 「リンネ?」

 俺が答えを渋っていると、リンネが俺の手に手を重ねてくる。

 「おねえちゃんは一度言ったことを取り下げたりしませんよ?素直に受け取ったほうがいいです」

 「そういうことだ。心配してくれるのは嬉しいが、私はラクの力になりたい。それに、本当にラクを支持している者が多いんだ。全面的にバックアップする意見もあがっている。気にすることはない」

 「……わかった。困ったときは頼りにさせてもらうよ」

 「うむ。待っているよ」

 ソラネは笑顔を浮かべる。

 ここまで言われては断る方が失礼だ。ここはソラネの厚意に甘えておくとしよう。

 「それで、仲間に心当たりはあるのかい?」

 「んー……。一人は捕まると思う」

 「ほう?その人物とは?」

 「同じ学校の友達でね、声をかければついてきてくれると思う」

 もちろん雅人のことだ。最初は声を掛けるつもりなんてなかったが、この際仕方がない。遠慮なく誘わせてもらうことにする。俺の知る人間で信頼できる奴なんてここにいる二人とケイトを除けば、あいつしか思い浮かばない。えっと、あのデスボ女さん?信頼できないよね……。だって盗賊だもん……。

 「実力は問題ないのか?」

 「大丈夫だと思う。実力は保証できる」

 あいつの日々の行いや性格を見ると、音楽ができるようには到底思えない。しかし、実はコンクールとかでも賞を貰うほどの実力者だ。歌を大きく評価されることが多いが、あいつの本職は演奏だ。しかも、ギター、ベース、サックス、ピアノ、ヴァイオリンなど様々なジャンルの楽器を扱うことができる、学校内でも言わずと知れた優等生なのだ。

 「そうか、ラクが言うのであれば問題ないな」

 「よし!じゃあ、ひとまずその方向で!」

 ひとまずの方針を決めることができた。心強い協力者も得ることができた。

 はぁ、これからどうなるんだろうか……。

 ため息を吐きながらケイトの到着を待った。

どうもりょうさんでございます!

いやー、今回は文字数が六千文字オーバーとなりました。今回で楽斗には心強い協力者であるソラネができました。そして、リンネが女の子であることが判明。さらにソラネといとこであることまで!いろいろなことが起こった今回でした。

さて、次回はケイトが到着してからのお話となります。お楽しみに!

それではまた次回お会いしましょうね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ