気に入らねぇ!
「受付を完了しました。出番まで少々お待ちください」
「よし!作戦会議だ!」
ライブの受付を終えた俺達は、ケイトを交えて作戦会議を行うことにした。
「でも師匠、ジャンルは青春パンクとして他と何を変えるんですか?」
「うーむ……。そこなんだよなぁ……」
「えぇ!?考えてないんですか!?」
リンネは俺に掴みかかる勢いで迫ってくる。
そう言われてもなぁ……。
「確かに他のプレイヤー達と違うことはしなきゃいけない。でもな、所詮同じジャンル。変えるにしてもそれすら限られてくるんだよ」
「確かにそうだね。大きく変えすぎてしまえば青春パンクでさえなくなってしまうかもしれないしね」
ケイトの言うとおり大きく変えてしまえば青春パンクの面影さえなくなってしまいかねない。ぶっちゃえけ、プロの世界でも同じ事が起こる。最初はポップス路線でデビューしたのに、同じようなバンドや歌手と違う事をしようとして迷走した結果、最終的にビジュアル系になっていたとかな。まあ、そんな歌手はよっぽどのことがない限り消えていくんだが……。
「じゃあ、どうすれば……」
「そう下を向くなリンネ。とにかく青春パンクのテーマ、ルールは崩さず思いっきり歌えばいい。結局最後は実力なんだ。いくら他と違う事をしようと実力がなければ客は喜ばない。言ったろ?自分を信じろ、自分は上手いってな!」
「……はい!」
リンネの顔に笑顔が戻る。うん、リンネは笑顔の方が断然良い。
さて、世界一と世界二が奏でる青春。とくとご覧入れようじゃないか!
「ラクさん、リンネさん、そろそろ出番ですので準備をお願いします」
「よし、行くぞリンネ」
「はい!」
俺達は舞台袖へと向かう。
「ラク。これあげるよ」
「ん?これって!」
ケイトが去り際にあるアイテムを俺に渡す。
「テレキャスだよ。青春パンクには欠かせないでしょ?」
「確かにテレキャスの独特な音は青春パンクに合ってるけど、いいのか?」
「ラクと私の仲じゃないか、気にしなくていいよ」
「ありがとなケイト!」
「頑張ってね」
「おうよ!」
俺達はケイトから貰ったテレキャスと共に舞台袖へと向かった。
「よし、そろそろだな」
「緊張しますね」
前のプレイヤー達の三曲目も終盤へ入り、俺達の出番が近づく。
リンネは大勢のプレイヤー前での演奏に緊張している様子だが、俺は至って冷静だ。俺は大勢の観客に抵抗はない。学校では大勢の前で歌う場面が多く有り、慣れているのだ。初めて学校の全校生徒である三千人近くの前で歌えと言われたときは流石に緊張したけどな。
「お前の実力を出せば大丈夫さ。まあ、流石に今回は多すぎるけどな」
「ですよね……」
慣れているとはいえ、今回の観客は桁違いだ。舞台の周りを囲むようにして埋め尽くされている観客は、ここから見ただけでも軽く一万人は超えている。緊張しない方がおかしい。
「出番の前に中継が入ります。もう少々お待ちください」
「中継?」
俺達の出番前にどこかから中継が入るらしい。
俺達は不思議そうな表情でステージを見つめる。
やがて、前に演奏していたプレイヤーの演奏が終了する。すると、ステージ上空に映像が映し出される。そこには、イケメンアバターの男が映っていた。
「やあ諸君楽しんでるかい?」
映像の男がそう問いかけると、観客は一斉に雄叫びをあげる。
なんだ?有名人なのか?
「うんうん。楽しんでいるなら何よりだ。引き続き楽しんでいってくれたまえ」
イケメンアバターが笑顔を浮かべると、観客席に居る大勢の女性プレイヤーの黄色い声が響き渡る。
なんというか、気に入らない。アバターのくせに黄色い声を受けるとかなんなのあいつ?予想するに、現実でもそれなりの人気があるやつだと思う。それにしても気に入らない。なんかあいつの後ろには女の子が何人か立ってるし、なんだ自慢か!自慢なのか!?あー、気に入らない気に入らない!
「気に入らない……」
「し、師匠!師匠の方が何百倍もかっこいいですよ!」
気づかないうちに声に出ていたのだろう、リンネがフォローをしてくれる。
リンネは優しい子だなぁ……。もうリンネがいればいいやぁ~。
「リンネ、一生一緒にいような」
「ふぇ!?あ、あの師匠!?」
リンネが頬を赤く染めて照れているがあのイケメン野郎から目を離すことができない。
くそ……、ムカつくな。それに比べてリンネは可愛いなまったく。この恋心を歌にすればいいじゃないだろうか?それとも、この怒りをあいつにぶつけるか?……怒り?そうだ!
「リンネ!」
「ふぇ!?結婚は段階を踏んでから……」
「三曲目のテーマを変えるぞ!」
「……え?」
そうか、青春は何も恋や友情ばかりじゃない。他にもあるじゃないか!
「……それで?何にするんですか?」
あれ?何故かリンネの機嫌が悪い。なぜだ?まあ、いいか。
「おう!怒りだ!」
「怒り……?」
「青春に怒りはつきもんさ!」
「それじゃ、ここからの演奏は僕も見させてもらうよ。みんなも楽しんでいってね!それじゃ!」
「なげえんだよ、イケメン野郎……」
「し、師匠……」
俺の口の悪さに苦笑いを浮かべるリンネ。
「いいんだ。リンネ、この煮え切らない気持ちをステージまで持って行くぞ」
「は、はい……」
「ラクさん、リンネさん!出番です!」
「よっしゃ!行くぞ!」
「はい!」
俺とリンネは勢いよくステージへと上がった。
「さあ!次のプレイヤーは初参加の二人組だ!ラク&リンネー!」
司会の男が俺達の紹介をすると、観客のボルテージが一気に上がる。
「うおおおおおお!でけえ!すげえ!人がいっぱいだああああ!」
「し、師匠!もうマイク入ってますからぁ……!」
「おお、すまんすまん」
俺達がステージでそんな会話を繰り広げると、観客からは笑いが起こる。
「ははは!がんばれよ新人!」
「がっかりさせんなよー!」
「肝っ玉でけえなあいつ!」
などと、観客からの声もよく聞こえた。
いいねぇ、盛り上がるねぇ。でも、何処かから見てるあいつの顔は忘れてねえからな……。
「よっしゃ!じゃあまずは一曲目聴いてくれよな!」
俺はケイトから貰ったテレキャスを、リンネは普段使っているアコギではなくレスポールを構えた。身長の小さなリンネがレスポールを担いでいる姿は微笑ましく見えた。
そして、俺達は演奏を始める。一曲目はリンネをメインボーカルに置いた、青春パンクのテーマとして一般的な恋をテーマとした曲だ。
リンネが歌い始めると、その歌唱力の高さに観客は驚きの表情を浮かべる。リンネは歌い始めると一気に表情が変わる。この曲は、青春特有の甘酸っぱい恋模様をテーマにしている曲だ。その切ない感情を、リンネは表情から表す。すると、リンネから発せられる歌は切ない感情を乗せて、観客へと届く。
今、何人か惚れたな。俺はそう確信した。リンネの歌はそれだけの魅力があった。
「――――――ふぅ」
二番を歌い終えたリンネは俺の方を見る。
はは!任せとけって!お前の歌、無駄にはしないぜ!
俺は、真っ直ぐ観客の方を見ると一歩前に出る。ここからはギターソロだ。切なさを表現できるように音作りをしたテレキャスでのソロは観客の一人一人へ届いていった。
「へへ……」
ギターソロを終えると、観客からは大きな拍手と声援が起こった。
最後はお前の番だぜ、リンネ。
俺のギターソロが終われば、最後はリンネのラスサビだ。切ない歌詞が続くラスサビ、リンネの表情は一層切ないものとなる。その表情は多くの観客の心を奪い、視線を奪った。
「――――――ふぅ」
演奏を終えると観客席からは大きな拍手と歓声が起こる。俺達はそれに一礼して応えた。
「さあ、次は二曲目だ!」
そしてすぐさま二曲目へと入る。
二曲目は、俺をメインボーカルに置いた、これまた一般的な友情をテーマとしたものだ。先程の曲とは違い、明るい歌詞と曲調のものだ。
「お、おい……」
「上手すぎるだろ……」
「あいつ何者だ?」
そんな言葉が観客席では囁かれるが、残念ながら演奏中の俺には届かない。
二番まで俺が歌い上げると、俺とリンネは一歩前に出て背中合わせになる。そして俺達は交互にギターソロを行っていく。リンネの正確な早弾き、俺の鳴きソロ、観客を飽きさせない工夫を凝らした。
演奏を終えると、先程よりも大きな拍手と歓声が起こる。
いやぁ……。気持ちいいなぁ!やっぱ広い場所ってのはいいねぇ!
俺の気分は良い感じに高揚していた。それはリンネも同じようで、楽しそうな笑みを浮かべていた。
「よし!次が最後の曲だ!目一杯盛り上がろうぜ!」
俺が観客を煽ると、観客席から大きな声があがる。
「行くぜ!」
最後の曲は俺とリンネのツインボーカルで、パンクロックと青春を合わせた青春パンクロックだ。テーマは怒り。青春には怒りがつきものだ。友達と喧嘩して怒る、親と喧嘩して怒る、他人に覚える怒り、そして何よりもモテないやつの怒り。すなわち、イケメンやモテる奴への怒り。その全ての思いを詰め込んだ曲だ。
リンネが歌っている間、俺が拳を上に突き上げる。すると、それにならって観客も拳を上に突き上げ始めた。怒りとは誰しもが持つ感情、その感情の全てを拳に込めて突き上げていた。少々男性の表情がマジだったが……。
そして、大盛況のうちに俺達のライブは終了した。
「ありがとうございましたー!」
俺達は観客に礼をし、感謝の言葉を叫んだ。観客は拳を上に突き上げ声援を送ってくれた。
「し、師匠!」
「ん?」
「おひねりが!あわわ!」
「ん?うおおおおお!?」
俺達はおひねりを貰ったことを知らせる通知を見て驚愕した。
既に総額一万Gを超えていた。しかも、未だ増え続けている。
「どうしましょ!師匠!」
「気にするな!こ、これは報酬だ!う、う、受け取っておくんだ!」
「は、はいぃ……」
俺とリンネはすっかりテンパってしまっていた。
すると、上空に映像が映し出される。
「やあ、ラク君、リンネ君。素晴らしかったよ」
上空にはもう二度と見たくない顔があった。
「そこで、ものは相談なんだが。君達をうちの国の一員に迎え入れようと思うのだが、どうだろう?君達になら街の守護を任せても良いと思っている」
観客はざわめき始める。
なるほどな、こいつ国主だったのか。どうりで……。
ずるいやつだ、大勢の前で勧誘することで断りにくくしてやがる。やっぱり気に入らねえ……。
「師匠……」
リンネは心配そうに俺を見る。
心配すんなよリンネ、俺はこんな状況に流されたりしねえ。きっぱり言ってやるよ!
「はは!わるいけど断らさせてもらうよ!覚悟しとけ?いつか俺が、お前の国を奪ってやるからな!」
「師匠!?」
「なんだと……?」
観客席のざわめきが一気に増す。リンネも驚きを隠せないようだ。イケメン野郎も態度には出していないが、何かを我慢しているのがわかる。
「そういうことで!じゃあな!」
「師匠!待ってください!」
そう言うと、俺達は早々と広場をあとにした。
「ラク……。許さん」
どうもりょうさんでございます!
今回は、イケメン野郎が出てきましたね!イケメン野郎嫌いですね!
というわけで、楽斗の奪う宣言です。イケメン野郎との戦いも近いか?次回以降もお楽しみに!
それではまた次回お会いしましょうね!