表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27

初めての国

 「師匠、当分は中立地区を目指すんですよね?」

 「ああ、ひとまずはな」

 俺達は、未だリンネと出会った一本道を歩いていた。

 それにしても、何もないな……。まあ、もう少し歩けば街が見えてくるだろうが。

 「なあリンネ。なんであんなところで路上ライブをしようと思ったんだ?」

 俺は最初から気になっていたことを聞いてみる。

 路上ライブの目的は大半が資金稼ぎだろう。しかし、リンネがいたのは人通りの少ない一本道。資金稼ぎには全くと言っていいほど向いていない。

 「師匠と出会う前の僕は、自分の歌に自信がありませんでした。だから、人前で歌うのはためらわれましたから、少しでも人の少ないところを目指してたらいつの間にかあそこにいて……」

 「なるほど。なら、次の街で路上ライブをしてみろ。世界一までとはいかないが、二番目の歌だ。それなりに稼げるだろ」

 嘘は言っていない。リンネの歌ならそれなりに稼げるだろうし、名前を売ることもできる。そうなれば、リンネの歌をさらに引き立たせてくれる演奏家も見つかるかも知れないしな。

 「そうですね!自信を持って頑張ってみます!」

 「おう!その調子だ!」

 「あ、そういえば。僕師匠の歌聞いたことないです」

 「ん?そうだったか。じゃあ、次の街では俺も路上ライブをしてみようかな」

 所持金は盗賊さん達から頂いたものがまだ残っているから心配ないけど、ライブは多く経験しておいた方がいいからな。え?奪ったの間違いじゃないかって?断じて違う、頂いたものだ。

 「やった!楽しみです!」

 「ははは!世界一の音楽を見せてやるぜ!」

 そう言うと、俺は高らかに笑った。

 そんな俺を見つめるリンネの目はキラキラと輝いていた。自惚れでなければ、リンネは俺によくなついてくれていると思う。俺に弟がいればこんな感じなのだろうか?それも悪くないなと俺は思った。

 


 「でっけぇなこの国は」

 「この辺でも大きな国らしいですよ」

 俺達はようやく次の街、というか国に入ることができた。

 リンネが言うには、この近辺で最近勢力を伸ばしている大国らしく、ここはその国の首都らしい。首都なだけあって、街はよく栄えていた。

 「このクラスの国になると、国内の各街にリーダーがいて、そのリーダーと領土バトルを行うらしいですよ。実力も一級品だとか」

 「ほえー……。各街に守護をつけるとかどんだけ人材豊富なんだか……」

 自分の領土を任せられるだけの実力者が何人もいるってことだろ?すげえなそりゃ。ソラネのところもそうなのだろうか?ソラネのところも結構大きな国らしいし。今度聞いてみよう。

 「あと、この国は同盟興業が盛んらしいですよ」

 「同盟興業?」

 聞き慣れない言葉に俺は首をかしげる。

 このゲームにも同盟というシステムがあるのか。

 「このゲームの同盟は侵略目的で組まれることはほとんどないんです」

 「あれ?そうなのか」

 てっきり協力して侵略でもするのかと思ったけど違うのか。

 「同盟を組む主な目的は営利目的です」

 「営利?資金集めってことか?」

 「そうです。他国と同盟を結んで、共同でコンサートを行いその収入を山分けといった感じです」

 「なるほどな。大国同士が組めばそれなりに人は呼べるだろうしな」

 「そういうことです。侵略目的の同盟も組まれることはあります。でもその場合、獲得した領土の配分で揉め事が起こるそうです。だから、あまり侵略目的の同盟は組まれないんです」

 「そういうことか」

 確かに領土配分とか揉めそうだもんな。うわ、想像しただけでも面倒くさい。もし国を持つことになったら、侵略目的の同盟は結ばないようにしよう。

 「それにしても、よくそんなことまで知ってるな」

 「これでもMSLは結構長いんです!必要な知識は自ずと入ってくるんです」

 「そうか。でも、情報は大事だしな。偉いぞリンネ」

 「えへへ……。そう言われると照れちゃいます」

 俺が頭を撫でると、嬉しそうに目を細めるリンネ。

 うおぉ……。不覚にも可愛いと思ってしまった。いかんいかん、リンネは男だ。いや、明確に確認したわけじゃないけど多分男だ。

 「あれ?なんか音楽が聴こえますね」

 「ん?お、ほんとだ」

 耳を澄ましてみると、微かだが遠くから音が聴こえる。

 よっぽど音に敏感か耳が良くないと聴こえないような音量だが、リンネにはハッキリ聴こえるようだ。リンネは耳がとてつもなく良いのかもしれない。それもあの歌を創り出す原動力なのかもしれないな。

 もちろん俺も問題なく聴こえる。目は決して良い方ではないが、昔から耳だけは良いのだ。

 「師匠、行ってみましょう!」

 「おう!そうだな!」

 俺とリンネは音のする方へと走っていく。

 リンネの顔はいきいきしていて、心から音楽が好きなことがわかった。



 「おお!おっきいステージですね!」

 「そうだな。これはコンサートか?」

 「多分そうだと思いますよ!」

 音のする方へと走っていくと、大きな広場のような場所へと行き着いた。そこには大きなステージがあり、大勢の観客がその周りを囲むように群がっていた。

 「形式は路上ライブと同じみたいですね。観客から入場料を取るというわけじゃなくて、気に入ればおひねりをって感じみたいです」

 「路上ライブの究極系みたいだな」

 「路上というよりは広場ですけどね」

 「これだけの観客がいれば儲かるだろうな」

 「それなりの実力があればですけどね」

 この広場はなかなか広く、プロが使う野球場と同じくらいの広さがある。そこを埋め尽くす程の観客の数だ、実力のあるプレイヤーはボロ儲けできるな。

 「お?歌うプレイヤーがどんどん変わってるな」

 「あ、ほんとですね」

 一つのグループが二、三曲歌い終えると、違うグループがステージに上がっている。ローテーションでもあるのだろうか?

 「あのステージは申し込みをすれば誰でも上がることができるんだよ」

 「え?」

 「ん?」

 俺達が少し考えにふけっていると、後ろから声をかけられる。

 「ケイトじゃないか」

 「やあラク。昨日ぶりだね」

 後ろを振り向くと昨日いろいろと世話になった、楽器屋のケイトがいた。今日は、特徴的な青い髪を後ろで一つに束ねている。このゲームはこういうことができるのがすごいよな。

 「店はどうしたんだ?」

 「今日は楽器作製用の素材を仕入れに来たんだ。ここには良い素材屋があるからね」

 「そういうことか」

 楽器製作にも普通のRPGの武器作製と同じように素材が必要だ。その素材にも善し悪しがあるらしく、なるべく良いものを仕入れることが良い楽器の作製につながるのだという。

 「リンネ。こいつは運営管理街で楽器屋をやってるケイトっていうんだ」

 「よろしく。ケイトだよ」

 「そんでもって、こいつがリンネ。いろいろあって一緒に旅をしてる」

 「リンネです。よろしくお願いします」

 二人を紹介すると、二人は固く握手をした。

 「それで?どういうことなんだ?」

 「ああ、このステージは一般プレイヤーに解放されてて、申し込みをすれば無料で演奏ができるんだ」

 「へぇ~」

 なるほど。一般プレイヤーにとっては良い資金稼ぎになるな。

 「まあでも、いくつか条件があるんだけどね」

 「条件?」

 「そう。まず、一グループ最大三曲まで。これは、より多くのプレイヤーがステージに上がるためだね。二つ目に、危険行為の禁止。観客席へのダイブとかだね。破ると厳しく罰せられるよ。まあ、これは常識だよね」

 確かにそうだ。気分が高揚してしまうのは仕方がないことだが、怪我をしてしまっては意味がない。ルールと節度を守ることでライブは成り立つのだから。

 「そして最後!その日毎に決められたジャンルの演奏をすること」

 「決められたジャンル?」

 「そうだよ。今日なら……」

 「青春パンクだな」

 「うん、そうだね。さすがラク」

 ケイトは一瞬驚いた顔をするが、すぐさま元の調子へ戻る。

 ステージ上の演奏をよく聴いてみると、先程から同じようなジャンルの音楽が奏でられている。今回は青春パンク。2000年代前半頃、中高生を中心に流行った音楽ジャンルで、パンク系をベースとして青春をモチーフにしたものだ。一般に青春と呼ばれるもの、例えば恋や友情などを主なテーマとしている。

 「ラクが言ったように、今日なら青春パンク、昨日は確かバラードだったみたいだね。そういったように、日毎にジャンル指定が設けられているんだ。演奏者はそれにそった演奏をしなければならないんだよ」

 「なかなか厄介だな」

 「え?そうなんですか?歌うジャンルが決まってるなら楽そうに思えますけど」

 リンネは俺の言葉を聞いて不思議そうに首をかしげる。

 確かにリンネの言うとおりジャンルが決まっているなら曲目も決めやすいだろう。しかし……。

 「ジャンルが決まっているということは、言い換えれば歌うジャンルがそれしかないということだ。すなわち、他と雰囲気が似てしまったり、同じになってしまう可能性があるということだ。他のプレイヤーと同じじゃ観客は飽きる。だから、プレイヤーは限られたジャンルの中で個性を出さなきゃいけない。そういうことだよ」

 「そうか……。同じようなものを聴かされれば飽きますもんね」

 「そういうこと!よく理解できたなー!偉いぞリンネー!」

 「し、師匠!?やめてください!抱きつかないでくださいぃ……!」

 「あ、悪い」

 いかんいかん。理解したときの納得のいった表情が、何とも言えない可愛さを持っていた。思わず抱きしめてしまった。決して俺はそちらの方向ではない。

 「あはは……。仲が良いんだね……」

 ケイトが若干引いた表情をしているが気にしては負けだ。気にしない、気にしない。

 「……ふむ。よし!」

 「師匠?」

 「リンネ!今日の路上ライブ会場はあそこだ!ケイト、もちろん今からでも間に合うよな?」

 「もちろんだよ。楽しみにしてるね」

 「おうよ!よし!行くぞリンネ!」

 「ちょ、師匠!?」

 こんな面白いステージに上がらない理由はない!あわよくば資金も稼げるだろうしな。

 俺はリンネの手を引いて受付へと向かった。


どうもりょうさんでございます!

青春パンクいいですよね!流行りは過ぎたかもしれませんが、探してみると良い曲がたくさんありますね。皆さんも是非聴いてみてください!

こんなジャンルが良いよ!っていうのがあったら、気軽に教えてください!作中に出して欲しいジャンルも募集します!僕、全力で調べますね!

それではまた次回お会いしましょうね!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ