盗賊?
「へっへっへ……」
「あぁ……、えっと?」
俺の目の前には、男が三人。そして、三人に隠れるようにして立っている一人の女。
おいおい、どうしろってんだ。
「おい兄ちゃん。バトルしようぜ~?」
「はぁ……。バトルですか」
「おうよ!俺達とバトルをしようって話しさ!」
なんとも胡散臭いが、バトルの申し込みらしい。傍から見れば、ただの盗賊だ。
ひとまず、条件を聞いてみよう。
「俺に望む報酬は?」
「所持金全部と楽器類全部だ」
「はあ!?」
そんなの一気に破産じゃないか!てか、さっき手に入れたばっかのギターまで奪われちまう!それだけは避けないとな……。
「所持金全部じゃダメ?」
「ダメダメ。楽器類もだ」
「嫌だって言ったら?」
「さあな?このゲームには痛覚なんてものはないからな~。どれだけ殴ってもいいよな?」
うわぁ、めんどくせえ……。超面倒だ。あいつらの要求をのめば最悪破産、のまなければあいつらのストレス解消道具ってところか。どっちも嫌だな~。しゃあない。
「わかった。その条件をのむよ」
「へへ!話が早くて助かるぜ!」
「ただし!こちらの条件ものんでもらうよ?」
あれだけの条件をのむんだ、こちらもそれ相応の条件を提示させてもらわなければ割に合わない。
「なんだ?」
そこで初めて三人の奥に隠れていたローブをかぶった女性が言葉を発する。
意外と綺麗な声してるんだな。もうちょっと低い汚い声を想像していたけど、耳に優しい澄んだ声をしていた。
「別にたいしたことないよ。そっちが持っている所持金全部と楽器類全部を渡してもらう。そっちの要求と同じだよ?あ、もちろん四人全員から貰うからね?」
「な!?」
一人の男が驚いたように目を見開く。
別に驚くようなことは行っていないと思うんだけど。四人の要求をそのまま返しただけだしね。
「どうしたの?もしかして、ソロの俺に君たちが負けるとでも?」
「くっ……。なんだと……?」
俺のやすい挑発に見事に乗ったさっきから喋っている男。ちょろいなぁ……。
「そっちが断るなら、俺も断るけど?あ、負けるのが怖いとか!?そっかぁ……」
「うるせえ!受けてやろうじゃねえか!かかってきやがれ!」
「はいはい」
男は顔を真っ赤にして怒声をあげる。単純な男だとは思うが、それより気になるのは奥に居る女だ。先程の言葉から一言も言葉を発していない。一瞬リーダーかとも思ったが、先程から喋っているのは一人の男だけ。ただ寡黙なだけなのだろうか?
「バトルスタートだ!」
「おう」
俺の前にバトル申請が届く。
俺がYesボタンに触れると、地面が大きく揺れる。そして、俺の下にステージが現れた。前を向くと、少し離れたところに先程の四人が立っており、同じようにステージがあった。さらに、俺と相手側の間は、白い人間型のCPUで埋め尽くされている。これが観客CPUだ。ゲームの勝敗は、このCPUの盛り上がり具合で決めるのだ。
おぉ、ソラネと一緒に戦った時は観衆タイプのプレイヤーもたくさんいたから、全部CPUだとなんか違和感あるな。でも、今回の客はこいつらだ。楽しませてやるぜ。
「おいおいおい!あいつ初期ステージだぜ!しょっべええ!」
先程の男が俺のステージを見て笑う。それに合わせて他の男達も馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
MSLには自分のステージをカスタマイズすることができる、あのエセメタルバンドのステージは禍々しいまでの黒さだった。照明やレーザーなどもまんべんなく使ってあり、目がチカチカした。
そして、あいつらのステージは、そこまでではないが煌びやかな照明が目立つ目には決して良くないようなステージだった。
それに比べて、俺のステージは照明は最小限、装飾なんて一つもない、ただの白い空間が広がっていた。これは、新規プレイヤーに与えられる初期ステージだ。俺はシンプルでなかなか気に入っているのだが、あちらさんはお気に召さなかったらしい。
「こりゃ楽勝だな!ははは!そんじゃ行くぜ!」
最後まで馬鹿にしながら、相手は演奏をスタートさせる。
構成は、ドラム、ギター、ベース、ボーカル。特に変わったところはない構成だった。特に変わったことはないのだが、ボーカルの女にはやけに目を奪われてしまう。ローブを脱ぎ、黒い髪を露出した女は妙な雰囲気を漂わせていた。
「なるほど、ただものじゃないな」
俺は直感でそう感じてしまう。これも、長年音楽に触れてきた為に身に付いたものだろうか。
「――――――っ!」
「!?」
女が目を開き歌い始めた瞬間、俺の体はいきなり震え始める。いや、俺が震えているのではない。地面が、観客が揺れているのだ。
俺は観客CPUを見た瞬間、驚きのあまり目を見開いた。
観客CPUが黒く染まり、ヘドバンをしているのだ。女の喉から発せられる声に乗せられるように、CPUは頭を振る。
女達が奏でているのはデスメタル。女性のメタラーは数多く存在しているが、この女から発せられるデスメタル特有のデスボイスは比べ物にならないものだった。英語圏ではデスボイスとは呼ばず、グラウルやスクリーチなどと呼ばれる。女が使っているのは一般的に知られているデスボイスのような、低い唸るようなものだ。息を吸うものと吐くものがあるが、女は吐く方を使っている。
力強く、抉るようなグラウル。俺はその迫力に押されかけてしまう。
「はは……。ははは!おもしれえ!すげえなこりゃ!」
しかし、押されかけたのは一瞬だけ。驚きは楽しみへと変わっていく。俺の心は熱く滾っていた。
これだけすごい奴と戦えることなんてそんなにないだろ?俺はそう考えてしまったのだ。
やがて、相手側の演奏が終了する。演奏が終わっても、観客CPUの色は黒に染まったままだ。
「どうだ!勝てるのかクソ坊主!」
おいおい、呼び方変わってんぞ。
まあ、それはともかく。勝てるのかと聞かれれば、正直わからん。だけど、負けるつもりなんて俺にはない。ギターのこともあるしな。あれ?そういえば、俺ほとんど所持金無いじゃん。
「ははは!おもしろいねお姉さん!でも、負けないよー!」
「無視すんなこらー!」
男がなにやら叫んでいるが気にしない。
さてさて、俺の三回目のライブだ。一日で二回もバトルするとか、俺って戦闘狂なのかしら?そうじゃないことを祈るばかりですな……。まあ、張り切って行きましょうか!
「じゃあ、行くぜ!」
俺は、演奏CPUを出さず、一人マイクの前に立つ。
「なんだ?楽器をひとつも出してない?」
「あれは……」
男連中が不思議そうに俺を見る中、女は驚いたような顔をする。
「――――――っ!」
「あれは!」
「やはり……」
男連中は驚きの表情は浮かべ、女は納得したような顔で下を向いた。
俺が披露したのは、『アカペラ』。
かつて、MSL最強のプレイヤーが得意としたジャンルで、楽器などを使わないで奏でる音楽だ。そして、俺が一番得意で好きな音楽ジャンル。ボイスパーカッションやコーラスを入れたりするものもあるが、俺はソロなのでなし。シンプルなアカペラにシンプルなステージが合わさり、絶妙な光の具合になっていた。
「Sho……」
女はかつてMSL最強と呼ばれた男の名前を呟く。
黒に染まっていたCPUは、いつの間にか白に染まっていく。正確なリズム、正確な音程、音がないことで浮き彫りになる歌唱力。それに加わる溢れ出す感情、表現力。その全てが合わさった時、真のアカペラは完成する。
さあ、聞け!楽器のない、声だけの音楽を!そして刻み込め!音の大切さと声の大切さを!
「勝ったー!」
俺はなんとか勝つことができた。俺が一番得意なジャンルで勝負したいと思うほどに相手側の演奏も素晴らしかった。危うく相手の迫力に押されそうにもなったが、勝ちをもぎ取ることができた。
そのおかげで、所持金は一気に五万Gまでに増え、楽器もありえないほど増えた。これでも、可哀想なので楽器は全て奪わなかったのだが……。随分と溜め込んでいたもんだ。
「お前は、Shoなのか?」
「ん?」
俺がアイテムボックスを眺めていると、デスボイス女が話しかけてきた。
なんか怖いんですけど……。だって、さっきまでイヤァァァァ!とかオァァァァァ!とか言ってた人だよ?怖いに決まってんじゃん。
「お前はShoじゃないのか?」
「違うよ。ただの初心者プレイヤーだよ」
「だが!あのアカペラは!」
「俺の得意分野で一番好きなジャンルだから。それに、Shoっていう人はもう何年も前に姿を消してるんでしょ?今更帰ってくるとも思えないけど?」
「うむぅ……」
デスボイス女は納得していないようだが、俺はShoではない。これは事実だし、Shoのこともよく知らない。納得してもらわないと困る。
「まあ、そういうわけだから!じゃあね~」
「おい!フレンド登録しないか?」
「え?」
え?何言ってんのこの人。怖いんですけど。なんで盗賊まがいのことしてた人とフレンドにならなきゃけないの?
俺のフレンドは、ケイトとソラネのみだ。二人共別れる前にフレンド登録をしておいた。一方は国主、一方は楽器屋だしな。連絡を取れるに越したことはない。
だけど、この人とフレンド登録するメリットが見つからない。
「ほら。申請送ったぞ」
「え、あ、うん」
「よし」
うわあああ!成り行きで申請OKしちゃったあああ!てか、なんであんたそんな嬉しそうな顔してるの?怖いって!
「それじゃ、また会おう」
「あ、はい……」
会いたくねぇ……。
女は俺に別れを告げると歩いて行ってしまった。
「はぁ……。ログアウトして寝よ……」
俺はその後、近くの街で宿屋を取り、ログアウトした。
どうもりょうさんでございます!
さて、この小説も早いもので四話でございます!中立地区を目指しての旅は始まったばかり!これからもどんな出会いがあるのか!これからの展開をお楽しみに!
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それではまた次回お会いしましょうね!