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バトルスタート

 未だ歓声が収まらない中、ソラネはゆっくりとステージの中央へと向かっていく。

 「みんなー!盛り上がってるかー!」

 ソラネの煽りに全力で応える国民。顔を赤く腫らす者もいれば全力で赤のサイリウムを振る者もいる。その光景はやはりこの国がソラネのものであると感じさせる。

 「これより私とラクの領土バトルを行う!審査員は国民全員だ!最高に盛り上げる準備はできているな?みんなは程度は違えど音楽好きだろう!これから行われるバトルはみんなの心に一生残り続けるだろう!まさに伝説のバトルだ!このバトルに立ち会えることを幸運に思うといい!さあもう一度聞こう。盛り上がる準備はできているかー!」

 再度問いかけるソラネに国民は全力をもって応える。

 その声は大地を揺るがし、俺達の心まで響いてくる。舞台は最高の状態だ。ならば俺達にできることはなんだ?そんなの決まっている。

 「最高の演奏をするだけだ」

 俺のそんな呟きは歓声にかき消されてしまう。だが、隣にいるリンネには聞こえたのだろう。先程までのリンネはそこにはもういなかった。まっすぐに前を見据え闘志を燃やすリンネの姿がそこにあった。

 「よし!このまま一曲目行くぞ!ついてこい、みんな!」

 ソラネが高く腕を上げるとアップテンポなイントロが流れ始める。

 最高潮のボルテージを更に上げるソラネは流石だと思う。

 アップテンポな曲に合わせた元気で無邪気な歌い方はいつもクールな感じとは違い、素直に可愛いという言葉が似合っていた。それでいて音程は全くぶれることがない。あれだけ曲調に合わせて激しいダンスを踊りながら音程が全くずれないというのは素直に凄いと思う。

 「凄いな。ソラネさん」

 「ああ。今のソラネは完璧なアイドルだよ」

 雅人の言う通りソラネは凄い。これだけのパフォーマンスを行えるアイドルはなかなかいないだろう。世界を相手にしているソラネならこのくらい出来て当然なのかもしれないが、やはり凄いの言葉が尽きない。

 「もともと才能を持ちながら努力を怠らなかったソラネだからこそこのパフォーマンスが可能なんだ。何度も満足しようとしたと思う。それでもソラネは満足しなかった」

 実際問題ソラネは俺に満足してしまうかもしれないといった。だから自分の全力を俺にぶつけてみたいと。その思いが溢れるように俺に向かってくる。俺はソラネの姿からそう感じることができた。

 「ラクはどう思うんだ?」

 「どうって?」

 「ソラネさんは今の状況に満足していいと思う?」

 そんなこと自分次第だ。自分自身がそこまででいいと思うならそれでいいと俺は思う。

 だが、雅人はそんな答えを求めているのではないだろう。

 「バカ言うなよ。ソラネがこんな低いところで止まってていいわけないだろ。満足なんてしていいわけない。ソラネはもっと高みを目指せる。それだけの力があるのに満足なんてさせてたまるか」

 これは俺の個人的で勝手な思いだ。自分でも随分と勝手なことを言っていると思う。でも俺は本気でそう思っている。ソラネ程の人物が少し世界に進出したくらいで立ち止まっていいわけがない。そんなの許せるわけがない。

 「ははは。随分と勝手なことを言うんだな」

 「当たり前だ」

 そんなことはわかっているし、思っていることが矛盾していることもわかってる。だけど、ソラネには立ち止まってほしくない。どうしてもそう思ってしまうのだ。

 「俺にとってソラネは特別な存在だからな」

 「それ告白じゃん」

 「ある意味そうなのかもな。俺はソラネの歌に心底惚れてるから」

 この感情は少し恋に近いのかもしれない。だからこそソラネには立ち止まってほしくない。

 だからこそ、今回のバトルは絶対に負けない。

 「まったくこの音楽バカは……」

 「褒め言葉だな」

 「もういいよ……」

 そんな会話をしているうちにソラネの一曲目も終盤だ。

 最初から最後まで全力で歌い踊っていたソラネの表情が崩れることはなかった。笑顔で、心底音楽を楽しんでいる顔をしていた。

 「アイドルってすごいんだな」

 「そりゃそうだろ。俺達とは全く違った音楽の形だしな」

 アイドルと俺達では音楽の形が全く違う。まず踊を取り入れている時点で根本から違うのだ。まあ、ソラネの場合どんなジャンルにも対応できるだけの能力を持っているからなんとも言えないが。

 「いっそ俺達もダンスとか入れてみるか?」

 「ダンスは専門外だ……」

 雅人の冗談に苦笑いで返す。

 いや、ダンスとかまじで勘弁。運動はあんまり得意じゃないんだよな……。

 「あはは。冗談だよ。さて、終わったみたいだな」

 「おう。さて、みんな準備はいいか?」

 俺が皆に問いかけるとまだ若干硬さが残るが頷いてくれる。

 それでいい。適度な緊張は必要だ。こいつらが緊張しなさすぎなんだ。

 そう思いながら中心メンバーを見る。

 「ん?なんだ?」

 「別に……」

 本当にこいつら緊張しないよな……。若干一名目が凄い速度で泳いでるけど。リンネも結構な数の大舞台こなしてきたんだし慣れてもいいと思うんだけどな。

 「ソラネさん、こっち見てるぞ」

 「ああ、凄い良い笑顔でな」

 ふとステージ中央へ目を向けると満面の笑みを浮かべたソラネがいた。まるでどうだった?凄かった?と褒めてもらうのを待っている子供のようで思わず可愛いと感じてしまう。

 どう反応しようか少し迷ったが、良かったの意味を込めて微笑んでみる。

 「……!……っ!」

 いやそんな嬉しそうな顔しなくても……。そんな反応可愛すぎて困るんだけど。手で頬を抑えながら微笑むなんて反則じゃないかしら。

 「いちゃいちゃしてないで行くぞ、領主殿」

 「いちゃいちゃなんてしてねえよ……」

 雅人に少しからかわれながらもソラネと入れ替わるように、未だソラネへの歓声が降り注ぐステージ中央へと向かった。

 「……ふぅ」

 ステージ中央で軽く深呼吸をして後ろを向くと歓声が鳴り止み静まり返る。

 ピンと張りつめた空気の中で俺は仲間達と目を合わせ息を吸い込む。そして、吸い込んだ息を声と一緒にやさしく吐き出す。

 ゴスペルブームの火付け役となった映画の二作目。その劇中で使われた挿入歌。黒人の男の子が前に出て歌った曲だ。

 俺はそれを再現するように前を向き一歩一歩進んでいく。英語の歌詞を紡ぎ、一人で歌いながら進んでいく。ちらっと後ろを見ると雅人達が見守るようにこちらを見ていた。

 ステージの一番前までやってくると顔を上げてみる。

 そこには様々な表情をした人々がいた。驚いた表情を浮かべる者、真剣な表情でこちらを見る者。視線がすべて俺に集まっている。人々は静まったままで俺を見ていた。アカペラの為俺の声が途切れるたびに沈黙が訪れる。それがなぜか心地よくも思えた。

 そして、曲はサビへと入る。

 それまで後ろで控えていた仲間達がサビに入ると同時に手拍子と共に声を上げる。その瞬間この歌に厚みが加わる。まるで襲い掛かるような声の大群。おそらく人々の殆どに鳥肌を立たせることに成功しただろう。このサビでコーラスを増やす方法はゴスペルではよく使われるものだ。いくつもの声が重なり合う瞬間というものはたまらなく気持ちの良いものだ。

 人々からは自然と手拍子が生まれ俺達をお膳立てしてくれる。ふとソラネの方を見てみると、楽しそうに手拍子をしていた。

 一応今回は敵なんだけどな……。まあ、楽しんでくれているならそれでいい。

 ワンコーラス歌い切ったところでメインボーカルを変更する。これは原曲にはない試みだが、インパクトがあって良い方法だと考えている。

 仲間達の中からリノにゃんが出てくる。俺はリノにゃんと入れ替わるようにして後ろへと下がる。

 その実力はゴスペルサークルに所属していただけあって流石だといえる。幼い声をできる限り低く抑えパワフルに歌うその姿は輝いて見えた。時々入るがなりも気持ちを昂らせてくれる。

 俺とリノにゃんが入れ替わった瞬間、人々からは自然とおー!と声が上がった。

 やがて大サビに入るところでもう一度俺が前へ出ていく。そのころにはもう会場は総立ちで手拍子をしてくれていた。

 曲の終わりに差し掛かるにつれ、畳みかけるようにコーラスの声は大きくなっていく。俺も負けじと全力で歌う。そして腕を大きく上げると同時に曲が終了した。

 その瞬間会場からは割れんばかりの拍手が起こっていた。

 俺達はその余韻に浸りながら後ろへと下がっていった。

どうもりょうさんです!

バトルに入りました!何話かかるかわかりませんが頑張ります!

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