猫耳メイド電波少女
「なんだお前らは!ここを領宮だとわかっているのか!」
「知ってるよ?ここの主に会いに来たんだよ」
俺達は現在領宮の前にいる。
領宮とは王宮と同じようなもので領主のホームだ。ここで領内への指示をしたり、歌の練習などをしているのだ。外装にこだわる領主もいるらしく城のような領宮もあるらしい。
そして俺が今話しているのがここの門番だ。いかにも話の通じなさそうな面倒くさいタイプだ。
苦手だ……。話したくない。でも話さなきゃなぁ……。
「なんだと?用件はなんだ」
「バトルを申し込みにきた。もちろん領土バトルだ」
「バトル?たった六人でリノにゃんに勝とうってのか?無謀なことを……」
門番は哀れみの視線を向けてくる。
ローブを着てるからわからないんだろうけど、ソラネを見たらコイツどうなるんだろうか。
「どうでもいいけど、早くリノにゃんに会わせてくれよ」
「はぁ……。確認をとる。少し待っていろ」
そう言うと門番は門の向こう側へと消えていった。
「舐められてるな」
ソラネが下げていた顔を少し上げながら言う。
「そりゃ、大国の一領土に六人で突撃するんだ。舐められるよ」
あの門番の言っていた通り無謀だ。でも、それは常識の範囲でならだ。ここはMSLという下克上が当たり前の世界。たとえ六人だとしても勝てる可能性は充分にある。
「最悪、勝負すら受けてもらえないかもねー」
「縁起でもないこと言わないでくださいよ会長」
「最悪の話だよー最悪のー」
そんな会話をしていると門が再び開き門番が出てきた。
「リノにゃんはお前たちとの謁見を望んでいる。入れ」
謁見と来たか。俺達の人数などの情報は伝わっているはずだ。慎重なのか、それともただの好奇心かは知らないがどちらにせよ慎重に行くに越したことはないな。
「わかった」
「君達がバトルを申し込んできた子達だね~?」
「そうだ」
俺達の目の前にはメイド服に猫耳、尻尾というなんとも言えない少女が座っている。
「ふ~ん。……君達は席を外してくれるかな~?」
「はっ」
リノにゃんの一言で隣に控えていた付き人らしき男が部屋を出て行く。
人払い?何故だろうか。
「はぁ。それで?君達の正体は?」
こいつキャラが一瞬で変わりやがった!声の幼さは変わらないが明らかに喋り方が変わった。先程まで伸ばしていた語尾もその面影はなく、やけに威圧感を放っていた。
「随分とキャラが違うんだな」
「あのキャラ疲れるんだよね。まあでも?あのキャラしてるとみんなの反応が良いからさ」
こいつとんでもねえ小悪魔だった!会長とは違った意味のギャップだ。
「それで?君達の正体は?こんな少数で攻めて来るってことはそれなりの自信があるってことよね?」
「俺は……」
俺はローブを脱ぎ素顔を見せる。
「ラクって言うんだ。名前くらいは知ってるんじゃないか?」
「……っ!君がラク……」
リノにゃんは驚いた顔を見せる。しかし、それも一瞬のことですぐに調子を取り戻す。
「そっか。君が晶さんに喧嘩売ったっていうラクか」
「晶さんってのがアッキーならそうだな」
「ふーん。周辺諸国を落としていこうっていう寸法ね」
「そうだ。というわけでバトル受けてくれるか?」
「いいよ?別に断る理由もないし」
案外すんなりと了承したな。それだけ自信があるのか、それともただのきまぐれか。どっちにしろ勝たなきゃいけないことには変わりない。会長の言うとおり断られる可能性もあったからひとまず安心だな。
「そうか。感謝する」
「最近はバトル申請のマナーを守らない輩も増えてきてね。ちゃんとマナーを守って直接会いにきた君達の申請を断ることはしないよ。まったく……。最近の輩はマナーってものがわかってないんだよねー」
MSLではバトル申請にマナーがある。バトル申請をするときは相手に直接会って交渉をするというものだ。しかし、最近ではメッセージでの申請や仲介人などを使って申請を行う者が増えており、マナーが崩壊しつつある。そのことを快く思わない者も多いらしい。それをリンネに聞いた俺はこうして直接会いに来たというわけだ。
「それに、君達にも多少興味があるからね」
リノにゃんは俺の後ろにいるソラネ達を一瞥し不敵な笑みを浮かべた。
「バトルは三日後。この領内にある闘技場で行うよ。曲数は三曲でジャンルは自由。勝利報酬はこの領地で良いんだよね?」
「もちろんだ」
「でも残念だなぁ。個人的なバトルならこちらも君達に要求できるのに。ねえ、プレイヤーバトルにしない?」
リノにゃんの言うとおり領土バトルでは挑戦者側に報酬を要求することができない。基本的には挑戦者側に有利な条件となっているのだ。
「お断りだよ。俺が欲しいのはこの領土だからな」
ぶっちゃけ領土には一つも興味はないのだが建前上そう答えておかなきゃな。
「それは残念。まあ、それは今度私から申し込めばいいか」
絶対受けないからな……。こいつが俺に会いに来るなんてことがあれば全力で逃げ出してやる。
「よし。条件はさっき言ったので大丈夫だよね?」
「大丈夫だ。用は済んだし俺達は帰らせてもらう」
「楽しみにしてるよ。ラク君」
そう言いながら手を振るリノにゃんを背に俺達は領宮をあとにした。
「なんか凄いギャップだったな」
「あのような業界で生きている人間の殆どがキャラを作っているものだ」
「うわー聞きたくなかったわ」
ひとまず宿屋へと戻ってきた俺はソラネと雅人の会話を横目にリンネと戯れていた。
なんか戯れるってエロいな。そうでもないか?
「あのー師匠?僕はなんで師匠の胡坐の上に座らされているのでしょうか」
「んー?いや、あんな裏表のある小悪魔さんとお話したからリンネの純粋成分を吸収しようかと」
「意味わかんないですよぉ……」
リンネは俺の胡坐の上でウンウン唸っている。その姿がとても愛らしい。あの小悪魔さんと話したせいで黒く荒んだ心が浄化されていくのが分かる。うむ、しっかり吸収できているようだ。
「あ、でも吸収しちゃうとリンネが黒くなってしまうかもしれないな……。それは困る……」
「帰ってきてくださいよ師匠……」
「リンネは俺が守ってやるからな」
「うれしいですけど素直に喜べないよぉ……」
「そんなことよりも勝負は三日後でしょ?準備しなくていいのー?」
「そんなこととは何だ!これは最重要事項だろうが!会長は何もわかってない!」
「えー……。私が悪いのー?ていうか最近私への態度が冷たくないー?」
まったく!何を考えているんだこのポンコツ会長は!リンネが黒く染まってしまったら俺が生きていけなくなるだろうが!ショック死してしまうぞ!
「しかし、本当に勝てるのか?直感だが、奴はなかなかの強敵だぞ」
ソラネは難しい顔をしてつぶやく。
どうやらアイドルとしての勘が働いたようだ。
アイドルという世界に身を置く彼女だからこそ分かる、感じ取れるといったものがあるのだろう。正直これ以上に信頼できるものはない。俺も薄々感じてはいる。あの猫耳メイドは何か大きなものを隠していると。
「わかってるさ。だからと言って頭を無駄に悩ませるよりもリラックスしていたほうが良いに決まってる。勝負は音楽なんだ。頭でやるわけじゃない。その時に全力を出すだけだ。……だから、今は余計なことは考えなくて良い」
「ラクらしいといえばラクらしいな」
「同感だ」
この中で一番俺のことをわかっているだろう雅人の言葉にソラネが賛同する。褒められた気はしないが納得してくれたならそれで良い。変に気を張りすぎても苦しいだけだからな。
「三日後。三日後が俺達の初陣だ。……俺のわがままっていうか行き過ぎた行動が呼んだ自業自得の事態に付き合ってくれたみんなには感謝してる。だから……」
俺はこの部屋にいる頼もしく、大切な仲間を見回す。
そして、一言だけみんなに指示を出す。指示というか掛け声のようなものだ。この一言を皮切りに俺達の戦いが始まるのだ。
「勝とう」
どうもりょうさんでございます!更新遅れてすみません!
最近は、仕事がなにかと忙しかったり、肉体労働なので疲労で時間があまり取れませんでした。これからも更新間隔が開くとは思いますが、少しだけお待ちいただけると嬉しいです!
次回はついにリノにゃんとのバトルです!




