協力者
「それでー?楽斗君に協力してくれてる人ってどの位いるの?」
「えっと……」
会長の問い掛けに俺は口に運ぼうとしていたカルボナーラを皿へとおろす。
「会長を入れて四人、うち一人は楽器商売をしてます」
「……絶望的だねー」
やめて!そんなこの世の終わりみたいな顔しないで!俺だってわかってるよ!
「で、でも!あと二人の実力は保証しますよ!そんじょそこらののど自慢野郎には負けませんよ!」
「ふーん。一人は宣戦布告の時いっしょに居た子だよね?もう一人はー?」
「えっと……」
俺は答えに詰まってしまう。もう一人とはもちろんソラネのことだ。ソラネはリアルでも有名なアイドルだし正直に答えていいのだろうか……。
「言いにくいのー?これからの協力者に秘密なんてするの?楽斗君ってそういうことする人だったんだー。お姉さん残念だなー」
この人絶対楽しんでやがる!なんだよその顔!不敵な笑みを浮かべおってからに!
会長は少しばかり悪戯グセがある。人をいじったり、ちょっかいを出したり、こういった風に追い詰めてくる。俺もこれまでに何度か被害に合った。まあ、仮にも生徒会長という立場であり学校内での憧れの存在でもある会長だ。悪戯をされても大抵の生徒が許してしまう。むしろそのギャップが良いという生徒も多数存在する。かくいう俺もその一人なのだが……。
「はぁ……。他言無用ですよ?」
「おー?秘密のおはなしー?お姉さんわくわくしちゃうー!」
「はいはい……。会長はソラネっていうプレイヤーを知ってますか?」
「んー?知ってるよー?大人気アイドルだよねー」
「その人です」
「……」
あ、会長が黙った。
「楽斗君ー?君って何者?」
「会長と同じちょっと音楽が好きな高校生ですよ」
「君には驚かされてばっかだけどまさかここまでとは思わなかったよー」
実のところ俺もそう思っている。両親がアレのため音楽関係の知り合いは結構なものだと自負している。しかし、アイドル関係に関しては俺自身アイドルソングに興味はあってもアイドル自体には興味がなかったため、アイドルソングを主として活動している作曲家が多かった。そんな俺が世界的に有名なアイドルと知り合いになるとは自分でも考えられなかったのだ。
「まあー天才の周りには必然的に天才が集まるのかもねー」
「でしょうね!」
「自分で言うのもどうかと思うけどねー」
会長は苦笑いを浮かべながら呆れたような声を出す。
だってそれしか考えられないし。ソラネもマスコミやらにはアイドル界に現れた天才と言われてるしな。
「まあいいかー。私もあの子の歌を聴いたことあるけど、凄い上手いしあの子なら安心だねー」
「会長もアイドルソングとか聴くんですか?」
ちょっと意外だった。会長がお嬢様なのは容姿と所作だけではない。実際にお嬢様なのだ。なんとかなんとかっていう会社の一人娘なのだ。会社名ひとつも分かんねえな……。
そんな会長がアイドルソングを聴くのが意外だったのだ。クラシックや聴くとしてもJ-POPかと思っていた。
「当たり前だよー!これでもお年頃の女の子なんだよー?失礼しちゃうなーもう」
可愛く頬を膨らませる会長の仕草は普通の女性がやるとあざといと言われるだろうが、会長の場合天然でやっているのだから恐ろしい。
「それで会長。会長の知り合いで協力してくれそうな人はいませんか?」
会長ほどの人物だ、俺以上のツテを持っているだろうし実力者も多くいるだろう。あわよくば協力者を求めたかったのだ。
「いないよ」
「即答!?」
即答された。ものの数秒で俺の思惑は崩れ去ってしまった。
「いないんですか……?会長ほどの人に?」
「あのね楽斗君。楽斗君が求めてるのは信頼できる協力者でしょー?」
「は、はい。そうですね」
会長は信頼できるの部分を強調して俺に尋ねる。
「だったらまず私が信頼できる人じゃないとダメだよねー?私にはそんな人いないよ。もちろん実力者はいるけど信頼はできないかなー。音楽業界には信頼できない人もたくさんいるからねー。私に近づいてくる人間なら尚更ね」
会長は困った顔で語る。その表情には少しの悲しみが混ざっているような気がした。
会長の言うことは間違っていない。俺の見知った顔にも信頼できないような人間が多々存在している。
「私って可愛いでしょー?」
「可愛いですね」
「……そこは自分で言うのかよって言うところでしょ?」
「会長が可愛いのはみんな知ってますから」
会長が驚いた顔で若干頬を赤く染めながら俺を見る。
会長が可愛いのは否定のしようがないし否定する気もない。そんなことは学校中の誰もがしっていることだ。それゆえ俺は即答したのだ。
まあ、こうやって自分で言ったくせに恥ずかしくなって顔を赤くしている会長を見たかったのもあるが黙っておこう。
「ま、まあいいけどー。だから変な目をした人とかが多いんだよねー。あとお金目当ての人とか。もっと純粋に音楽を楽しめばいいのにねー。そんな人に求婚されても嬉しくないよ」
「は、はは……」
会長はその後も延々と俺に愚痴をこぼしてきた。求婚とかお見合いとか婚約とか耳を疑うような言葉が多く会長の口から漏れたのはさすがに驚いてしまった。
「じゃあねー」
「失礼します」
夜も更けてきたということで今回はお開きとなった。
最後は会長の愚痴を聞く会になってしまったが大きな協力者を得ることができた。あのイケメン野郎との戦力差がどれほどあるのかはわからないがこちらの戦力も引けを取らないと思う。人数では敵わないかもしれない、しかしこちらは少数精鋭だ。あれだけのメンバーが揃っていれば負ける気はしないでもないが、勝てる自信のほうが強い。
「あとはあいつか……」
翌日、俺はもう一人の協力者を得るためいつもより早めに学校へ来ていた。
「あれ?今日は早いじゃん楽斗」
必ず俺より先に教室へ居る男。噂では誰よりも早く学校に登校しているらしい。学校に住んでいるのでは?という疑いがかかるほどだ。そんな男が俺に笑いかける。
「頼みがある……。雅人」
「いいよ。頼まれてあげる」
内容をひとつも告げていないのに了承する雅人。高校からの付き合いだがまるで幼少期から一緒にいるような安心感に包まれる。そんな不思議な親友に俺は一言言い放つ。
「巻き込んでやる」
「まったく……」
雅人は苦笑いを浮かべ呆れたような表情を浮かべ返すようにこう言った。
「望むところだよ」
俺は五人目の協力者を得た。
どうもりょうさんでございます!お久しぶりです!
今回はとても短いです。そして話が進んでおりませぬ……。なんとか頑張りたいと思っていますので気長にお付き合いください。
それではまた!




