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お嬢

 現在俺とリンネはこの国のワープゾーンへとやって来ていた。もちろんケイトから貰った顔が隠れるローブを羽織っている。貰ったというのは言葉のあやではなく本当に貰ったのだ。俺は金を払うと言ったのだが丁重にお断りされてしまった。ケイトが言うには事前投資だそうだ。この前のテレキャスの時もそんなことを言っていたしケイトには感謝してもしきれない。

 「今度お礼をしなくちゃな」

 「ケイトさんにはお世話になりっぱなしですね」

 「口に出てたか?」

 「しっかりと」

 「そっか」

 そう言ってリンネはクスクスと小さく笑う。少し大きめのローブが笑う度に小さく揺れる様は見ていて少し面白い。ついローブのてっぺんに手を置いてしまう。嫌がられるかと思ったがそんな様子は見受けられなかった。

 「さて、ひとまずここを出ないとな」

 俺は気を取り直しワープゾーンへと体を向ける。

 ワープゾーンは一見普通の門のようなものがあり、その近くにタッチパネルが置いてある。先程リンネに聞いたところ、このタッチパネルで国主のプレイヤーネームを検索し選択するとその国へ飛べるらしい。このゲームには国名というものがないらしく、こうして国主のプレイヤーネームで検索をかけるらしい。

 「えっと、ソラネ……。あった」

 タッチパネルを操作しソラネを見つけタッチする。すると、『sorane様の国へワープしますか?』というメッセージが現れた。迷わずYesをタッチすると門が大きな音を立てて開く。

 「それじゃ行くかリンネ」

 「はい師匠」

 俺達はゆっくりと門をくぐっていく。

 

 「おぉ……。ワープした……のか?」

 門の先には先程のワープゾーンと変わらない建物の中にいた。 

 「しましたよ師匠。外を見てください」

 「おお!」

 リンネの言葉に従い外を見てみると、そこには先程までいた国とはまるで雰囲気の違う光景が広がっていた。

 「なんというか、全体的に赤いな」

 街を見回すと一番に出てくる感想がそれだった。

 建物はもちろん、路上ライブをしているプレイヤーの楽器や衣装も赤い。何人か同じ服を着ている姿も見受けられる。

 「それはおねえちゃんの影響だと思います」

 「ソラネの?」

 「おねえちゃんの髪は赤いですよね」

 「確かに綺麗な赤だな」

 リアルでのソラネも見たが、赤い髪を振り回しながらパフォーマンスする姿は炎のように猛々しく美しかった。

 「それが影響したのか、おねえちゃんのグッズは赤いものが多いですし、コンサートの時観客が使うサイリウムも赤なんです」

 「なるほど。だからソラネのファンが集まったこの国はこんなに赤いんだな」

 「そういうことです」

 よく目を凝らしてみると同じ服を着ている連中の背中には『ソラネ命』や『sorane Live in MSL』などと書かれている。全てソラネの関連グッズなのだろう。流石今や世界へと飛び立ったアイドル、影響力が違う。

 「さて、ひとまず宿を取って身を隠そう。いくら俺達に協力的といっても油断はできないからな」

 「そうですね」

 ソラネの話では俺達に協力的な意見が多いらしいが、それはあくまでも全体的に見て多いというだけであって少数派がいないわけではない。念には念を入れないとな。

 「それと、宿を取ったら今日のプレイはここまでにしよう。時間も時間だしな」

 「わかりました。国に入ったことは僕からおねえちゃんに伝えておきます」

 「頼んだ」

 これからの行動を決めた俺達はローブを羽織ったままワープゾーンをあとにした。


 

 「ふぅ……」

 あのあと宿は意外に早く見つかった。俺達は当初の予定通り今日のプレイをそこまでにしてログアウトした。部屋は電気を点けていなかった為真っ暗だ。

 「おぉぅ……」

 目の周りを覆っていた眼鏡を外すとお腹から低い音が鳴る。そういえば何も食べていなかったな……。俺は空腹と戦いながらリビングへと降りていく。

 「あー……、そっかぁ……」

 リビングには電気が点いておらず人の気配もない。机の上には一万円札が置いてある。今日は母さんも親父も家に帰ってこない日なのをすっかり忘れていた。母さんは自分の作った曲のレコーディング、親父は久しぶりに友人と飲みに行くと言っていた。親父のことだ、今日の夜は帰ってこないだろう。

 母さんは夕飯を作っておくと言っていたが俺が断った。母さんだって忙しい身だしな。自分で作るといったのだが、折角なら外食しなさいという母さんの言葉に甘えることにした。

 それにしても一万円は多すぎる。高校生が一食で一万円を使うなんてことはない。一人で高級料理屋なんかに行く勇気もないし、一万円分を一人で食べる食欲もない。

 「まあ、残った分は返せばいいか。……久しぶりに行ってみるか」

 俺は机の上に置いてある一万円札を財布に入れると家をあとにした。



 自転車で十分程、そこにその店はある。見た目はさびれ……非常に趣のある見た目をしている。明らかに繁盛していない雰囲気を漂わせている。……うん、寂れてるわ。

 「相変わらずだなぁ……」

 俺は苦笑いを浮かべながら店の扉を開く。

 チリンチリンという来客を知らせる鈴の音と共に聴こえてくるのはピアノの音。そしてほのかに香るコーヒーの香り。その全てが懐かしく、そして心地良い。

 「なんだ?珍しい客だな」

 そして柔和な微笑みを浮かべながら話しかけてくる一人の青年。シンプルな内装をしている店内に溶け込んでいるその様は正にマスターと呼ぶのがふさわしいだろう。

 「久しぶりだな。相変わらず寂れてんな」

 「バカ野郎!うちはこれでいいんだよ。今日は一人か?」

 「ああ、二人共今日は予定があってね」

 「二人ってことは親父さん帰ってきてるのか?」

 「ちょっと前にね」

 「そうか。ここにも顔を出すように言っといてくれ」

 「了解」

 一通り挨拶を終えると青年が何も言わずコーヒーを出してくれる。

 昔と変わらない香りと味だ。

 この店はいわゆる音楽喫茶というもので、毎日いろんなアーティストが楽器を弾いたり歌を歌ったりしている。もちろんアマチュアがほとんどだが、時々プロが来ていることもある。その為、店内には多くの楽器や機材が置かれている。俺は小さい頃から親父達によくここへ連れてこられていた。

 そして、先程から俺と話している青年は、この店のマスターではなくマスターの息子だ。名前は河野音亜(こうのおとあ)。雰囲気で惑わされるがこれでも俺と同じ高校二年生だ。マスターが不在の時や不在ではなくても忙しい時などは手伝いをしている。

 「久しぶりだね楽斗君」

 「お久しぶりマスター」

 コーヒーを飲んでいると、カウンターの奥の方から一人のダンディーな男性が姿を現した。この男性こそこの店のマスターで音亜の父でもある河野鍵(こうのけん)だ。

 「あいつは元気にしてるかい?」

 「元気すぎてうざいくらいですよ……」

 あいつとはもちろん親父のことだ。親父とマスターは古い友人らしく、仲の良い友人なのだという。

 「ははは、相変わらずだね~。それにしても、いいタイミングで来たね楽斗君」

 「いいタイミング?」

 「今日はお嬢のライブがあるんだよ」

 「お嬢?」

 音亜の言葉に俺は首をかしげる。俺がここに通っていた時は聞いたことはなかった。

 「最近、来はじめたアマチュアの子なんだけどね。その上手さにあっという間にファンがついちゃったんだよ」

 「ほんでもって、容姿とか所作がどことなくお嬢様っぽいからみんなお嬢って呼んでるわけ」

 「お嬢ねぇ……」

 そんなに上手いのか……。なんだか無性に聴きたくなってきた。これも音楽好きの宿命だろうか、耳が疼いてしまう。

 「得意分野はピアノの弾き語り。ゆったりとしたバラードが得意みたいだね」

 「ピアノですか。マスターの得意分野と同じじゃないですか」

 「僕なんか相手にならないくらいだよ」

 「マスターが相手にならない……」

 マスターは多くの楽器の中でもピアノを得意としている。その腕はプロ級、またはプロにも勝るとも言われている。そのマスターよりもすごいピアノ。聴きたい、すげえ聴きたい!

 「そろそろお嬢の出番だよ」

 「お!やっとかー!楽しみだぜ!」

 「マスターをも勝るピアノ……」

 そして、小さなステージの上に一人の女性が登る。確かに容姿と所作はお嬢様っぽい。その容姿だけでも人目を引くだろう。

 「……ん?」

 しかし、俺は何か引っかかってしまう。この女性何度か見たことがある。というかほぼ日常的に。……うん、認めよう。

 「会長……」

 俺の口からは思わずそんな言葉が漏れた。

どうもりょうさんでございます!

なんとか早めに投稿できた!早いよね……?

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!ブックマーク、感想待ってますね!


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