MSL
2030年、全世界にフルダイブ型VRMMOが登場してから十年が経った。登場した当時は、RPGやFPS系統のゲームが多かった。しかし、登場して五年経ったある日、大手ゲームメーカーから発売されたゲームが新たなジャンルを生み出した。そのジャンルとは、音楽ジャンルである。
しかし、発売前は誰もが失敗だと確信していた。『わざわざVRMMOで音楽ゲームをして何が面白いのか』『音楽は現実のものだ、音ゲーならゲーセンに行けば良い』『てかそもそも音楽ゲーって何すんの?』などなど、ネット上では酷評の嵐だった。
そんなある日、ある大物ミュージシャンとネットで有名なゲーム実況者が自身のブログでこのゲームを紹介したのだ。その内容は、そのゲームを絶賛するものだった。その翌日、全国のゲームショップや通販サイトに注文が殺到し、各地で売り切れが多発した。ある大手通販サイトではランキング一位に、さらに予約はどこに行っても三ヶ月待ちと爆発的な売上を叩き出した。
酷評の嵐だったネット上では、『手に入れたやつ報告はよ』『今どんな状況?』『おいおい、こりゃすげえぜ』『嘘だろ……』などと状況報告を求める声や、褒める内容ばかりが目立った。
そして、それから一ヶ月が経った頃、ようやくゲームの内容が世間へ知れ渡ることになる。あるテレビ局で特集が組まれ、ネットでも同時配信、ゲストにユーザーである大物ミュージシャンが数人招かれるという大規模な情報解禁が企画されたのだ。未だ購入が叶っていない者が多くいる中、この番組は注目された。
そして、解禁された情報はこうだ。
ゲーム内には大きく分けて四つの大陸がある。その大陸ごとに小さな区分で街が設定されている。プレイヤーはその街を自分の領土として、その領土を奪い合うというシステムである。最初からプレイヤーに街が与えられるのではなく、新規のプレイヤーは中立地区のボスを倒して領土にするか、他プレイヤーから奪わなければならない。現在も中立地区は多く残っているらしい。これを聞けば、普通の国盗りゲームのように思われるが、その奪い方がこのゲーム最大の特徴なのだとゲストのミュージシャンは語った。
その奪い方とは、このゲームのジャンルでもある音楽だ。プレイヤーは音楽で勝敗を決めるのだ。このゲームにはステータスというものが存在しない。あるのは音楽を奏でるために必要となる楽器の性能に善し悪しがあるのみだ。すなわち、自分の音楽の善し悪しがゲームの勝敗を左右するということになる。
となれば歌が下手な奴はどうなるのかと質問が上がる。ゲストとして招かれていた開発者チームの男は、プレイヤーの在り方について説明をする。
プレイヤーには大きく分けて、自分で歌を歌う歌手タイプ、演奏を行う演奏家タイプ、プレイヤーのパフォーマンスを判断する観衆タイプ、楽器作製や楽曲作成を行う職人タイプに分けられる。もちろん歌手タイプや演奏家タイプの者も重要になるが、観衆タイプや職人タイプも重要になってくる。バトルは、観客コンピューターの盛り上がりで大半を決めるが、観衆タイプのプレイヤーも判断の基準となる。その為、いかに観衆タイプのプレイヤーの心を掴むかも重要になるのだ。
職人タイプのプレイヤーがいることで、音楽を奏でるための楽器、楽曲をスムーズに手に入れることができる。その為、職人タイプも重要になるのだ。
もちろん、歌がなくても楽器だけでバトルに参加する者も存在し、なかなかの強さを誇っているらしい。
そして、一定の領土と仲間を手に入れたプレイヤーには、国の建国が許される。最終的にその国を広げていくことが目的となっているのだという。
これが、今回の特集で解禁された情報だ。大物ミュージシャンやアイドルなどもプレイしているらしく、その注目度はさらに加熱することになった。
それから二年。
プレイヤーは世界にも及び、空前の音楽ブームがやって来ていた。新規のプレイヤーが大きな国を乗っ取るという下克上も多く存在し、何があるかわからないという状態だった。
そんな中、一人のプレイヤーが現れた。
当時、最強を誇っていた国があった。その国は、ある大物歌手が国主の超大規模国で、勝てる国はほとんどないと言われていた。しかし、その国は一人のプレイヤーによって乗っ取られた。
プレイヤーネームを『Sho』と名乗った。
そのプレイヤーが行ったのは『アカペラ』。オケなどない。演奏者もいない。そんな一人のプレイヤーが大規模国を破ったのだった。そのプレイヤーの正体は一切不明で、その正体を知る者は誰もいなかった。
その後、『Sho』は瞬く間に領土を広げ、もともと大規模国だったその国をさらに大きくした。
しかし、一年後。『Sho』は突然姿を消した。消息は不明。ゲーム内最大の事件となった。その後、『Sho』を見た者はいないという。
「伝説のプレイヤーねぇ……」
俺は、有音楽斗(ゆうねらくと)。ちょっと音楽が好きな高校二年生だ。
今は、偶然テレビをつけたらやっていた『大人気ゲーム、ミュージックランドの歴史!』を見ていた。 俺自身、このミュージックランドとかいうゲームはやったことがない。というか、やれない。俺も音楽好きだ、やりたいと思ったが、親父の『俺がいいって言うまでだめだ』とかわけのわからん言いつけのせいで、プレイすることができなかったのだ。
「おっと、こんな時間か!学校学校!」
俺はパンを口に突っ込み、大急ぎで家を出る。
悠長に話していたが、時刻は朝の七時半。真面目な学生である俺は、学校へ行く時間だったのだ。
てか、朝にあんな特番やるなよ……。まあ、それほどミュージックランド、略してMSLは人気ということなんだろうな。
「間に合った……」
「おーおー!相変わらずだねー!」
「うるせえ雅人」
「おーこわ」
わざとらしく怯えたような声を出すのは、相川雅人(あいかわまさと)。なんというか、いつも俺に付きまとう変な奴。いいやつであることには間違いないのだが、所々うざいと感じてしまう。
「こんなんが学校始まって以来の天才児なんてねぇ」
「うるせえよ」
「おほほー。ほらほら、朝の声だし始まるよ」
「はいはい……」
俺と雅人は立ち上がり、楽な姿勢をとり目線を上に上げる。
すると、ピアノの伴奏がかかり、俺達はそれに合わせて一斉に歌いだす。今流れている伴奏は、俺達の通っているこの学校の校歌だ。教室の全員がそれに合わせて歌う。これは、俺達のクラス限定ではなく、学校全体だ。学校には生徒の校歌が響いていた。
「……ふぅ」
「さすが楽斗。いつも通り圧巻だね」
雅人が俺を褒めてくる。
褒められることは素直に嬉しい。ひとまずありがとうと答えておく。
この学校では、毎朝校歌の斉唱を行っている。これは朝の声だしという目的で行われており、生徒全員が取り組む。何故こんなことを行うか、それはうちが特殊な学校であるからだろう。
この学校の名前は、私立聖唱音楽高等学校。
MSLが世界的にヒットし、世界では音楽ブームが起こり、日本でも音楽学校の数が一気に増えた。これまでの音楽学校といえば、声楽やピアノ、ヴァイオリン、指揮などといった堅いイメージがあった。しかし、現代の音楽学校では、ポップス、ギター、パンク、メタルなどといった様々なジャンルを学ぶことが出来る。MSLのこともあり、人気が高く、倍率がとにかく高い。
そんな中で音楽高等学校最高峰と言われるのが、この私立聖唱音楽高等学校なのだ。俺は、その学校に特待生として入学している。先程雅人が天才といったのはそのためだ。しかし、ここにいる生徒全員のレベルが低いというわけではない。音楽高等学校最高峰と言われる学校に在籍しているだけでも、トップクラスといって過言ではないのだ。
そんな連中のほとんどがMSLをプレイしているのだ。MSL恐ろしいな……。
「なあ楽斗。お前、MSLやらないのかよ」
雅人が椅子に座りながら聞いてくる。
俺も、やれるならとっくにやってる。でも、親父が言うんだから仕方がない。親父は、俺の師匠でもあるのだ、言いつけを破ることはできない。
「いつかやるよ」
「いつかって……。もったいねーなー!まあ、やり始めたら国に入れてくれよ」
「そう簡単に国なんて作れるのかよ」
確か国を作るためにも条件があったはずだ。はっきり言って面倒くさい……。確かにやるなら上を目指したいが、俺は面倒くさいことが苦手だ。気ままにやりたい。あれだ、ソロだな。確か、性能は劣るが演奏をしてくれるCPUが買えたはずだ。それで十分だな。
「楽斗なら楽勝だよ!はっはっは!」
「楽しそうだなお前……」
そうこうしてる間にHR及び一時間目の授業が迫っている。俺はポップスの教科書を準備する。
「お、そろそろ時間か。じゃあね楽斗」
「おう。またな」
雅人は自分の席へと戻っていった。
さて、俺がMSLをプレイできるのはいつになるのやら……。
「は?もう一回言ってくれるか親父」
「だからー、MSLやっていいぞ!」
何を言ってやがるんだこのクソ親父は……。
学校から帰宅すると同時に親父から電話があり、いきなりこのざまだ。ふざけているのではなかろうか?
「親父がやるなっていったんじゃないか」
「あー、もういいや。やっちゃえやっちゃえ!」
「おいおい……」
「ディスクとメガネは用意してあるから!がんばれよ!」
「お、おい!親父!」
電話は既に切れてしまっていた。
俺のMSLライフは案外早く始まるようだ。
どうもりょうさんでございます!
思いつきで書き始めてしまった・・・。
不定期更新になるかと思います。末永くお付き合いください!