彼女の名前
ユファリリア王国の国教であり、東大陸の多くの人々が信仰するセフィ神教には、神話を中心とした物語を話すことが仕事の神職がある。神官のように教えとして話すのではなく、神告げのように神の言葉そのものを話すのでもない。星の数ほども存在する神話、神々や精霊が関わる物語を、ただ語る神職。語り方はそれぞれだが自分の考えを加えることなく話すその神職の名を、神語りという。
神官には法術の素養が求められ、神告げには特別な聴く力が求められるが、神語りには特に求められる能力というものがない。しかし何かを見て話すことが認められていないため、必要最低限の記憶力と、神話の原本を読むための識字能力は必須である。だが結局は必要最低限、しかも東大陸の識字率は高いため、特別とは言えなかった。神官や神告げを諦めて神語りになったものも多かったため、神語りは影で「負け犬がなるもの」とまで言われている始末だった。
だから、ロランも仲間たちも最初は軽んじた。必要ないと言い切ったこともある。
けれど思い返すたびに、彼女がともにいてくれたことを本当に幸運だったと思うのだ。
「私の役目は語ること。誰もが当たり前に知ることを語り、知っているということを報せること」
誰に対しても堂々と、誇らしげに自分の役目を語る彼女の名は、ジル・メンフィス。
ロラン達の旅に、いつの間にか加わっていた神語りの娘である。