第9話 勇者の仲間
南方の砦が落ちてから数日後。
人間の軍勢は勢いづき、境界の森に侵入してきた。
魔王軍の斥候が急報をもたらす。
「数百の人間兵が進軍中! 勇者は見当たりませんが、その“仲間たち”が指揮を執っている模様!」
仲間。
その言葉に兵たちがざわめく。
勇者は一人ではなく、複数の同志を率いている――それは、かつての英雄譚そのものだ。
「出るぞ」
アズが立ち上がる。
俺も剣を握りしめ、戦場へと向かった。
◇
森を抜けた先の丘陵で、両軍が対峙した。
人間兵は槍を構え、整然と並ぶ。その前に、数人の影が立っていた。
「我らが導く。勇者なき戦でも退くことは許されぬ!」
声を張り上げたのは、赤髪の女戦士。大剣を肩に担ぎ、鋭い眼光を放っている。
その隣には白衣をまとった僧侶、さらに弓を携えた青年の姿。
――勇者の仲間たち。
合図と共に矢が降り注ぐ。
盾を掲げた魔族兵がそれを弾き、咆哮と共に突撃した。
戦場は一瞬で修羅場に変わる。
俺も剣を抜き、敵兵を斬り伏せる。血が飛び散り、耳には悲鳴がこだまする。
その中で、赤髪の女戦士が一直線にこちらへ突っ込んできた。
「お前が側近か! 魔王の犬め!」
「……だったらどうした!」
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
女戦士の腕力は凄まじく、受けるたびに骨が軋む。
だが退くわけにはいかない。
背後でアズが詠唱を始める。
俺は女戦士の刃を必死で受け止め、その隙を作る。
雷光が走り、女戦士の足元を焼いた。
彼女は咄嗟に飛び退き、睨みつけながら叫んだ。
「……やはり只者ではないな、ヒトのくせに!」
その言葉に、胸の奥がざわめいた。
なぜ“ヒト”だと分かる? 俺の正体を、こいつらは――
「撤退だ!」
僧侶の声が響く。
人間軍は秩序正しく後退を始めた。
深追いはせず、魔王軍も撤退の合図を受ける。
荒れ果てた戦場に残るのは、血と煙の匂いだけ。
「レイ」
アズが近づき、低く言った。
「お前は勇者の仲間と刃を交えた。どう感じた」
息を切らしながら、俺は答える。
「強い……そして、俺を“ヒト”だと見抜いていた。……あいつら、ただの兵じゃない」
「そうだ。奴らは勇者を支える柱だ。――いずれ、勇者本人も来る」
紫の瞳が闇を射抜く。
胸の奥に走る寒気は、戦いの疲労だけではなかった。
(……やはり避けられないのか。勇者と、俺は)
赤い月が、戦場の残骸を冷たく照らしていた。




