第5話 側近の証
アズが「次期魔王」として認められたその日から、城の空気はさらに引き締まった。
兵たちは誇りを胸に鍛錬に励み、老魔族たちは次代への期待を隠さなくなった。
だが――俺に向けられる視線は違った。
「ヒト風情が魔王様の隣に?」
「昨日まで森に転がっていた奴だろう」
「害虫が紛れ込んだようなものだ」
囁きは聞こえるように放たれ、俺の背中に棘のように突き刺さる。
翌日の訓練場。
巨漢の戦士が剣を構えながら俺を睨んだ。
「ヒトよ。お前が“側近”など笑わせるな。ここで証明してみせろ」
兵たちの視線が集まる。逃げることなど許されない。
重い剣を握り、息を整えた。
「……分かった。やってやる」
合図と共に剣が唸る。
巨漢の一撃は容赦なく、腕が痺れる。だが、何度も何度も立ち上がった訓練の日々を思い出す。
足を外し、横に滑り、必死で反撃。刃が肩を掠め、血がにじむ。
「まだ立つか!」
嘲り混じりの声。だが、俺は構えを崩さなかった。
「立つさ。何度でもな!」
巨漢が振り下ろした剣を、全力で受け止める。衝撃で膝が砕けそうになるが、退かなかった。
その瞬間、アズの声が響いた。
「そこまでだ」
杖が石畳を打つと、紫電が走り、場が静まり返る。
アズは兵たちを一瞥し、低い声で告げた。
「レイは俺の側近だ。親友であり、盾であり、剣でもある。――それを疑う者は、俺に背く者と同じだ」
広間に沈黙が落ちる。
巨漢の戦士はしばし黙し、やがて剣を下げた。
「……なるほど。ヒトながら、芯は折れぬか。認めよう。魔王様の側近として」
兵たちの視線が変わった。敵意から、承認へ。
俺の胸には熱いものが込み上げた。
「ありがとう、アズ」
「礼は不要だ。……お前が立ち続けたからだ」
その言葉に、痛みも疲労も薄れる気がした。
こうして俺は、魔王の“親友”であるだけでなく、正式に“側近”として城に受け入れられたのだった。




