第4話 試練の儀式
初陣から数日後、城の空気が一変していた。
兵たちは厳粛に鎧を磨き、老魔族の長たちは黒衣をまとい、城の大広間に集まっている。
――今日は「試練の儀式」。
次期魔王であるアズ・ヴァラグが、血統と力を証明し、正式に「魔王候補」として認められる日だ。
だが、その場に俺も立ち会わされるとは思っていなかった。
「……俺、部外者だろ。いいのか?」
緊張して尋ねる俺に、アズは淡々と答えた。
「親友であり、証人でもある。お前がいても問題はない」
そう言われれば、もう逃げられない。
大広間の奥には巨大な石の祭壇が据えられている。黒い燭台に炎が灯り、重苦しい香が漂っていた。
老魔族の一人が声を上げる。
「次代の魔王候補、アズ・ヴァラグ。汝の力を示せ」
祭壇の中央、封印が解かれた石の牢から這い出したのは――角を持つ魔獣だった。
全身が鋼の鱗に覆われ、口からは赤熱した息が漏れている。
普通の兵なら数十人がかりで挑むような怪物。
「……あれと戦うのか?」
「そうだ。勝てば、正式に魔王候補。負ければ、死」
アズは杖を掲げる。
紫の魔力が渦を巻き、空気が震える。
「下がっていろ、レイ」
「言われなくても!」
獣が咆哮し、突進してくる。
アズは一歩も退かずに詠唱を放つ。紫電の槍が放たれ、獣の体を貫いた。
だが鋼の鱗は傷を弾き、巨体が勢いを止めない。
「……硬いな」
アズの額に汗がにじむ。
次の瞬間、獣の爪がアズを襲った。
俺は考えるより先に、飛び出していた。
「うおおおっ!」
剣を構え、獣の足に斬りかかる。浅い傷だが、その隙にアズは後退することができた。
「レイ、下がれと言ったはずだ!」
「親友が死ぬのを黙って見てられるか!」
怒鳴り返すと、アズは一瞬だけ目を見開き、すぐに表情を引き締めた。
「……なら、共に立て」
合図と共に、二人で動く。
俺が囮となり、獣の注意を引く。
アズが詠唱を重ね、魔力を溜める。
何度も転がされ、血を流しながらも、剣を振り続けた。
「今だ――!」
アズが放った紫電の嵐が獣を包み込む。
轟音と閃光が広間を揺るがし、鋼の鱗を焼き切った。
獣が断末魔を上げ、崩れ落ちる。
静寂。
老魔族の長が宣言した。
「……アズ・ヴァラグ、試練を果たした。ここに次代の魔王候補として認める」
広間に響く歓声と咆哮。
だが、その中心でアズは俺を見て言った。
「……助けはいらなかった」
「悪かったな」
「だが、悪くなかった。――側近としてもな」
その一言に、胸の奥が熱くなる。
親友であり、そして側近。
俺の立ち位置が、ようやく形になった気がした。
黒い炎が燭台に揺れ、次期魔王とその側近の未来を照らしていた。




