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第3話 初陣

その日、俺は初めて外に出ることになった。

 黒甲冑の兵が無骨に告げる。

「小規模な魔物が村を襲っている。お前とアズ様が試しに行く。……死ぬなよ」


 門を抜けると、赤い月光に照らされた荒野が広がっていた。

 遠くに人の声。悲鳴。獣の咆哮。


「行くぞ、レイ」

 アズの声は静かだが、歩みに迷いはない。背筋を伸ばし、少年らしい細い体でありながら、確かに魔王の血を感じさせる威厳があった。


 村は炎に包まれていた。黒い獣――狼に似ているが、背に棘を持ち、赤い目を光らせる――が数匹、家畜や住民を襲っていた。


「数は六。……俺が三を抑える。残りはお前だ」

「ちょ、ちょっと待て! 俺はまだ剣もまともに振れないんだぞ!?」

「振れ。死にたくなければな」


 突き放すような言葉に、逆に心臓の奥が燃えた。

 剣を握り、炎の中に飛び込む。


 一匹の魔獣が牙を剥いて跳びかかってきた。

 恐怖で足がすくむ。だが、その瞬間――背後からアズの声が飛ぶ。


「構えを下げろ、レイ!」


 反射的に身を低くする。魔獣の爪が頭上を掠め、空を裂いた。

 地を蹴り、必死に剣を突き出す。

 手応え。刃が肉を裂き、黒い血が飛び散った。


「……やった」


 安堵する間もなく、別の魔獣が襲いかかる。

 転がり避けると、アズの魔法が閃いた。紫の雷が獣を焼き、断末魔が夜を裂いた。


「油断するな!」

「分かってる!」


 必死に剣を振るい、三匹目の腹を裂く。

 肩で息をしながら周囲を見れば、アズは三匹をすでに倒していた。血煙の中に立つ姿は、もはや「少年」ではなく、「魔王」の片鱗を宿していた。


 やがて、炎は消え、村人たちが震えながら頭を下げた。

「……ありがとう、アズ様」

「礼は不要だ。生き残れ。それでいい」


 淡々と告げるアズの横顔を見ながら、俺は息を吐いた。

 震える腕、重い剣。だが胸の奥には、不思議な熱が残っていた。


「……俺、戦えたんだな」

「戦えたな」

 アズは短く答えると、少しだけ口元を緩めた。

「悪くない。お前はすぐ倒れるが、立ち上がる。……それが一番の才能だ」


 その言葉は、昨日と同じく胸に響いた。

 名も過去も忘れた俺にとって、確かにここに存在している証のように思えた。


「なら、俺はもっと立ち上がる。――お前の隣で」


 炎の残り香の中で、二人は静かに頷き合った。

 こうして、俺の初陣は幕を閉じた。

 だが同時に、これがほんの序章にすぎないことを、この時の俺はまだ知らなかった。

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